虐待を疑って警察に110番通報しても、警察が虐待を見逃し、虐待死させてしまうケースがある――。
児童虐待防止に取り組むNPO「シンクキッズ」が2月23日、安倍晋三首相と厚労省、警察庁に対し、警察と児童相談所の連携を強化するよう児童虐待防止法などの改正を求める要望書を提出した。児童相談所から警察への情報提供を義務付けるよう、児童虐待防止法などの改正を求める要望書を提出した。児童相談所が事前に虐待を把握していたのに死に至る事件を減らすことにつながるという。
この日、厚生労働省で記者会見したシンクキッズの代表理事で弁護士の後藤啓二さんは、「警察は、子供が長時間泣いているなどの110番通報を受けると、すぐに駆けつけることができる。しかし、児童相談所から情報共有がない状態では、実際に現場に駆けつけても親に『夫婦喧嘩だ』と嘘をつかれると、子供体にアザがないかなどは調べずに署に戻る」と話し、「もし児童相談所からの情報提供があり、駆けつけた家庭が虐待を疑われる場合だと知っていれば、警察は子供の状況を調べられる」と、法整備の重要性を訴えた。
■児童相談所が知っていながら防げなかった虐待死の事件は?
厚労省の調査によると、児童相談所が虐待を把握していたのに起きてしまった虐待死の件数は、2003年7月〜2015年3月までで145件に上る。具体的には次のような事件があった。
両親が4歳の次男をウサギ用ケージに閉じ込めて監禁し、口にタオルをくわえさせて窒息死させ、遺体を遺棄。ネットでマネキンを購入し、児童相談所が家庭訪問した際には、このマネキンに布団をかけ、わからないようにしていた。
《東京都葛飾区…2歳女児に暴行(2014年1月)》
両親が2歳の女児に暴行を繰り返し殺害。近隣住民が「子どもが泣き叫ぶ声がする」と110番通報し、警察が駆けつけたが、父親は「夫婦げんかだ」と説明。女児に外傷は見られなかったため警察は特段の対応をとらなかったが、女児の全身にはアザがあった。
両親は生活保護を受けており、女児は当初、親戚宅に預けられていた。しかし、両親が女児と一緒に住みたいと申し出たため、同居訓練をはじめていたばかりだった。児童相談所は電話で女児の様子を聞き取っていたが、面会まではしていなかった。■「問題は、児童相談所の人手不足と、連携不足」
現在は、警察側から児童相談所への情報提供は法律で義務付けられているが、その逆はない。シンクキッズの後藤さんは、人材不足の児童相談所が警察が情報を共有し、代わりに巡回訪問などを頼むことで、これらの事件が防げたのではないかと指摘する。
児童相談所の職員1人あたりの相談対応件数は、平均約40件で、何度も家庭訪問できるような余裕がない。後藤さんは、「児童相談所が人手不足なら、余計に警察の手を借りるべき」と訴える。
「足立区の事件では、児童相談所の職員が被害にあった家庭を11回訪問していますが、実際に男児に会えたのは2回でした。児童相談所の代わりに警察が巡回訪問していれば、男児の状況がわかり、事故は防げた可能性があります。
一方で、葛飾区の事件では警察が家庭を訪問していても、夫婦喧嘩だと言われ、虐待の確認まではしていませんでした。もし事前に虐待が疑われる家庭だとわかっていたら、警察は女児にアザがあるかどうかの確認をしていたはずです」
警察は全国に約1200署存在し110番通報には24時間いつでも対応する。児童相談所には通報を受けたら48時間以内に安全確認を行う「48時間ルール」があるが、後藤さんはハフィントンポストの取材に対し、「人の命が関わっているのに、48時間なんて悠長なことは言っていられません」などと語った。
後藤さんは警察庁に23年間勤務した経験があり、そのときストーカー規制法の制定に携わった。この法律によって、警察は対象となる家への巡回や具体的な対応ができるようになったが、警察がストーカーに警告を出すことで、事件の9割が防げていると、後藤さんは説明した。
■なぜ児童相談所は警察に情報提供しないのか?
なぜ児童相談所は、警察に情報提供をしないのか。後藤さんはこの理由について、「法律に書かれていないことはやらないというお役所体質」だと考える。要望書では「役所の縦割りの弊害があまりに強く、児童相談所は警察への情報提供すら拒」んでいると批判した。
「これまでも複数の都府県に、連携ができないかを訴えてきましたが、情報提供ができない理由をはっきり答えてくれた担当者はいませんでした。連携すれば、多くの子供が虐待から救われます。ぜひ検討頂きたいです」