2017年1月2日、2016年のワシントン条約第17回締約国会議で採択された、野生動植物の国際取引の規制がスタートしました。今回、新たに規制対象となった野生生物種は、輸出入が規制されるだけでなく、特に条約の「附属書Ⅰ」に掲載された種は、日本の国内法である「種の保存法」でも「国際希少野生動植物種」に指定され、国内での売買や譲渡が原則禁止となりました。日本を含むワシントン条約の締約国には、こうした規制の着実な施行と、生息国への協力・支援を通じた野生動植物の保全の努力が求められます。
拡大された取引規制の対象
ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物種の国際取引に関する法律:CITES)は、その名の通り、種を過剰な国際取引から保護するという目的を持つ条約です。
その目的を達成するためには、条約に加盟した国々が、締約国会議で合意・採択された取引の規制内容を、各国内で確実に施行することが欠かせません。
2016年9月に、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで開催された第17回ワシントン条約締約国会議(CITES COP17)でも、多くの種が新たに附属書に掲載され、取引規制の対象となりました。
附属書Ⅱには、ペットとして需要のある種々の爬虫類に加え、ツルサイカチ属、ブビンガ属など、商業的に利用されている木材種が多数掲載されました。
これまで、ワシントン条約で取引を規制してきた木材種は、丸太や製材などに限定されることがほとんどでしたが、第17回締約国会議の結果、種によっては、規制対象が完成品、すなわち消費者が手にする机や椅子などの木材製品にまで拡大されることになりました。
ツルサイカチ属に分類されるローズウッドと呼ばれる樹種は、日本でも楽器等に広く利用されていることから、これらの種を原材料とした製品の(再)輸出入の際にも注意が必要となります。
その一方で、生息国による保全の努力により、絶滅の危険性が改善され、附属書Ⅰから附属書Ⅱに移行、つまり取引の規制が緩められた種も見られました。
新たに附属書に追加される種の数に比べればまだ数は少ないですが、ワシントン条約の活用により、今後保全が進み、このような動きがさらに加速していくことが期待されます。
主な附属書改正内容
*クロトガリザメ、オナガザメ属に係る規制は、12か月遅れて、2017年10月4日から開始となる。
**イトマキエイ属に係る規制は6か月遅れて、2017年4月4日から開始となる。
附属書Ⅰ掲載種の国内での取引規制
センザンコウやヨウムなどについては、これまで附属書Ⅱに掲載されていましたが、現状では取引規制では十分な保護につながらないと判断され、今回の会議で附属書Ⅰへの移行が決定。
この結果、商業的な国際取引は原則禁止されることとなりました。
また、日本では、このようにワシントン条約の附属書Ⅰに掲載が決まった野生生物種を、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」に基づき、「国際希少野生動植物種」に指定することになっています。
これに指定された野生生物は、国内取引が規制され、有償・無償を問わず、譲渡や引き取りなどが原則禁止となります(ただし、指定以前から所有していたことを示すなど、種の保存法に規定する要件を満たし、環境大臣(認定機関に委譲)による個体等の「登録」を受けた場合は、国内での取引が可能)。
一方、会議で附属書Ⅰから附属書Ⅱに移行した種もあります。
これらについては、日本でも「国際希少野生動植物種」の指定が外され、国内での取引規制もなくなりました。
今回、新たに附属書Ⅰに掲載され国際希少野生動植物に追加された種数は30種。附属書Ⅰから削除され、国際希少野生動植物種の指定から外れた種は4種ありました。
そして、これらの取引規制の開始や、撤廃が、2017年1月2日より、スタートすることになりました。
世界に8種が知られるセンザンコウも、2016年の会議で附属書のⅠに掲載され、「国際希少野生動植物種」にも指定された動物の一例です。
センザンコウは、世界で最も密猟されている動物と言われて、主に食用を目的とした需要がアジアで拡大。密猟や違法取引が横行しています。
それが今回、附属書Ⅱから附属書Ⅰに移行され、商業的な国際取引が禁止されたことで、日本でもセンザンコウの譲渡などの取引が規制の対象となりました。
今後、すでに国内に存在するセンザンコウを日本国内で取引する場合は、有償、無償を問わずに、「登録」を行なうことが要件となったのです。
取引規制の対象には、生きた個体や全形を保った死体だけでなく、ウロコやウロコを含む伝統薬、さらに皮と皮の加工品も含まれます。
ただし、皮・皮革製品については、取引規制が緩和される「原材料器官等」に指定されたため、登録を必要とせずに取引が可能なままとなりました。
この指定を行なった環境省では、その理由として、センザンコウの皮と皮革製品は国内で商業的に流通しており、個々に登録を求めることが困難なため、と説明しています。
しかし、こうした取引規制の除外規定は、危機に瀕している種を保全するという観点から見ると問題が多く、トラフィックは見直しが必要と考えています。
日本国内で、センザンコウの皮と皮革製品が引き続き流通することを考えると、日本に今後違法に持ち込まれることがないよう、そして需要の高い国々へ持ち出されることのないよう監視を強化する必要があります。
また、日本国内でペットとして多く飼育されている、ヨウムやアオマルメヤモリも同じく附属書Ⅰに掲載されました。
これにより、すでに国内で飼育されている生体を取引する場合は、環境大臣による登録が求められます。
さらに、人工的に繁殖させた個体の取り扱いや、ブリーダーへの規制、国内で繁殖させた個体の輸出などについても、今後対処していくことが必要となります。
こうした課題への対応は、絶滅のおそれのある動物の国内取引を適正に規制し、違法またはどのようにしてやってきたのか由来の証明できない個体が、そこに混ざり込むことを防ぐ上で、欠かせないものです。
今後はこうした生体に対する登録制度や、ペットショップなど動物取扱業をはじめとした事業者への規制、さらに税関による水際管理を強化することも日本には求められます。
ワシントン条約附属書掲載種の日本の留保
この他にも日本には、取り組み上、改善が求められているポイントがあります。
それは、ワシントン条約事務局に対し、日本政府が通告している「留保」です。
ワシントン条約では、規定により、留保を付した場合、その種については締約国でない国として取り扱われます。
つまり、条約の取り決めた通りに、取引を規制する義務を負わなくてよいことになります(ただし、締約国に対し輸出・再輸出する際には、同様の許可書・証明書の発行が必要)。 ワシントン条約が効果を発揮するためには、世界的に一致した条約の適用が必要です。留保は、協調的な意思決定と行動という条約の精神を骨抜きにしてしまうおそれがあり、可能な限り避けるべきものです。
日本政府はこの留保を、水産物として利用している一部の魚類に適用。長期にわたり、継続してきました。
現在、日本が留保しているワシントン条約の附属書掲載種は、クジラ10種(附属書Ⅰ)、タツノオトシゴ、サメ12種(附属書Ⅱ)。
ここには、2016年の会議で新たに附属書Ⅱへの掲載が決まったクロトガリザメおよびオナガザメ類も含まれています。
日本政府は留保の根拠として、附属書Ⅱの掲載種について、「絶滅のおそれがあるとの科学的情報が不足している」「地域漁業管理機関が適切に管理すべき」等の理由を挙げていますが、締約国会議で採択された以上、まずは「取引を規制すべき」という国際社会の合意の主旨を尊重し、その上で、これらの水産種を持続可能な形で利用できるように努力する必要があります。
漁業国である日本は本来、ワシントン条約の施行において、世界をリードする役割を果たしうる立場にあります。
しかし、こうした水産種を留保し続ける日本の姿勢により、国際社会に対し、「水産種の保全や持続的な利用に否定的な国である」という後ろ向きなメッセージを発する結果となっています。
日本は以前にも、ウミガメなどに付していた留保を、撤回したことがあることから、WWFとトラフィックでは、今後も政府に対して、留保の撤回を働きかけていきます。