G7伊勢志摩サミットを来週に控えた今、学生から、起業家や大企業の幹部、農業・漁業に携わる方まで、様々な女性たちとの出会いをもとに、私なりのサミットに託す信念と願いを、僭越ながらお話ししたいと思います。それは、女性が持つ、包み込むチカラ、つながるチカラ、言い換えれば,「母性」そのものが平和で豊かな未来を切り開くと信じていること、そして、G7伊勢志摩サミットが、女性のそのようなチカラを花開かせる機運となることです。
経済成長や雇用の創出において、そして、本年が実施元年である新たな開発目標「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実現においても、世界人口の半分を占める女性のチカラを最大限活かしていくことはとても重要です。日本は、まさにそのような女性が輝く社会を、日本のみならず世界に広げることを目的として、2014年から「WAW!」や、その前後に女性のための様々なイベントを開催するシャイン・ウィークスを実施しており、私も深く関わってきました。あくまでも私個人の印象ですが、男性は、ピラミッド型の組織をつくるのが上手で、力強く拡大していくことにやりがいを感じる傾向があると思います。一方で、女性は、「母性」で受け入れる、横に広げていく、ネットワークすることが得意であり、ここに女性の役割があると確信しています。
これからは、女性の視点を取り入れながら、そして男性の協力も得ながら、女性のみならず、子ども、障害のある人たち、LGBTなど、物事を決定する立場になることが難しかった人たちがありのままでいられる、新しい価値観と多様性を持つ社会をつくることが大切だと思います。そのことが、平和につながると考えます。例えば、私は地元の山口県でお米を作っており、昨年は、収穫した山田錦を福島県会津若松市へ持って行き、日本酒「やまとのこころ」を造ってもらいました。長州(山口)と会津(福島)といえば、今なお戊辰戦争のわだかまりが残っていますが、しがらみを解き放ち、分離したものを結び合わせたいという平和への祈りをこめて、女性のパワーを結集して造ったお酒です。このように、女性は「母性」であり、いかに受け入れ、いかに許すかということだと思います。
その一方で、紛争や難民問題など痛ましいニュースや、世界各地の孤児院等への訪問を通じて、これら困難な状況で真っ先に影響を受けるのは、女性や子どもであるということも痛感しています。そのような中で、女性の権利が一層尊重され、保護されるとともに、彼女たちの積極的な参画も大切だと思います。「母性」を持つ女性が、紛争予防や平和構築、貧困削減において、深くかかわり、更には指導的な立場になっていけば、より平和で優しい社会づくりが可能になると信じているのです。
最後に、そのような、女性が持つチカラを開花させるには、どうしたらよいのでしょうか。私は、女性が自分で考え、自分で行動できるよう、学びの機会を与えることが不可欠だと考えています。
今回、アジアで8年ぶりに開催されるサミットということもあり、バングラデシュにあるアジア女子大学における奨学金事業に、個人的に携わってきた際に感じたことを紹介します。同大学では、貧困や様々な困難により就学が難しい女子学生たちが、自分たちが社会を変えるのだという志を持って、紛争の原因や解決策を議論し、平和を創っていくことについて真剣に考えています。女性・女児を教育することは、政治における女性の代表性を強め、専門性の高い職業におけるジェンダー格差を小さくし、母子保健を改善する等、社会を大きく変えることにつながります。
伊勢志摩サミットが開催される三重県にある桑名市で、4月末にG7ジュニア・サミットが開催されました。G7の若者たちが、「次世代につなぐ地球~環境と持続可能な社会」のテーマの下、経済格差、気候変動、人材育成、そして、まさにジェンダーについて活発な議論を行い、友情と世界の未来を紡いでいくのを目の当たりにしました。しかしながら、途上国には、このような機会に一生触れられない子どもたち、特に、女の子が沢山います。彼女たちは、教育をあきらめ、自分の将来をあきらめざるを得ないという、過酷で悲しい現実に直面しています。
前述の「WAW!2015」において、主人から、G7伊勢志摩サミットでは、女性を優先課題として取り上げたいとの強い意向が示されました。議長を務める主人に、そして、基本的人権の尊重や民主主義といった価値を共有するG7リーダーに、女性・女の子に教育・訓練の機会を与え、女性の「受け入れるチカラ」「つなげるチカラ」を開花させるような、力強いビジョンと行動を示していただけるよう切に期待します。それは、女性だけではなく全ての人が、平和で豊かな未来を享受するために、欠かすことのできない重要な礎だからです。サミットが開催される三重県は、女神である天照大神をまつる伊勢神宮や二千年に亘る海女文化など、女性中心の歴史を持つ土地でもあります。私自身も、訪日されるG7首脳の配偶者の皆さんとともに、地元の方々との交流や意見交換を通じて、その一助となりたいと願っています。