大自然の中で暮らしながら、心と身体の声を聞く

嬉しかった。手術ではなく、マッサージで治しましょうと言ってくれるお医者さんが、いるなんて。
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南米チリのパタゴニア地方で暮らす私たちの日常のストーリーが、シンプルに生きたいと思っている人たちの手助けになるかもしれないし、忙しく都会で生きている人には、リラックスできる空間を提供できるかもしれない、という思いで「シンプル・ライフ・ダイアリー」というブログを書き始めました。

今回は、その4回目をシェアします。

『シンプル・ライフ・ダイアリー』7月14日の日記から

朝起きると、雪をかぶったメリモユ火山が、雲の合間から顔を出していた。あまりにも美しいので、早速、カメラを出して、窓越しに写真を撮る。嬉しくなって外へ出ると、シャーベット状になった雪が凍っていて、踏みしめるたびに、パリパリと音を立てて割れた。見上げると、屋根の上に描いてあるスマイリーも凍っていた。

「おお、冷凍スマイリー!」 これも、早速、カメラに収めた。

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家に戻って来ると、ポールが起きていて、窓の外を見ていた。

「ビューティフル!」と、歓声を上げている。朝起きて最初の言葉が、「ビューティフル!」だなんて、すごく、いい人生だなあと、思う。

「もう、瞑想したの?」ポールが、コーヒーを注ぎながら言った。

「うん。雪が降ったから、外へ出て写真を撮ってきた」

「おお、朝からエネルギー全開だね。瞑想が効いてるみたいだね」

私は、寝起きが悪いので、この家に住んでから、6年間、朝起きて、薪ストーブをつけ、コーヒーを淹れるのは、ポールの仕事だった。十代の頃、医者に低血圧で貧血だと言われていたので、ビタミン剤やサプリメントを飲んだり、食べ物に注意したりしてみたけれど、一向に良くならなかった。

でも、瞑想を始めてから、すっきりと目覚めるようになり、その変化には、ポールも私も、驚いていた。

「今、やっている瞑想、すごく面白いんだよ。今まで呼吸法とか、マントラを唱えるものとか、いろいろやってみたけど、どれも続かなかった。でも、この瞑想は、ビジュアライゼーション(視覚化)をする方法だから、飽きなくていいの。

たとえば、チャクラのクレンジングの瞑想は、チャクラが、時計回りに旋回しているようにイメージする。チャクラは7つあるから、第一のチャクラから一つずつ・・・・」

私が説明している間、ポールは、ふんふんと言いながら聞いていて、説明が終わると、笑いながら言った。

「へ~、面白いね。瞑想って、頭を空っぽにして、無の境地に達するためにやるんだと思っていたけど、木乃実の頭の中では、ずいぶん、いろんなことが起こっているんだ!」

「たしかに、そうだね! でも、終わった後、エネルギーを充電している実感が、あるんだよ」

「うん、いいことだ。ヨガを再開したのも、いいんじゃないの? ヨガは、もう一度始めた方がいいって、ずっと思っていたんだよ」

ポールの言う通りだった。メキシコに住んでいた時は、毎日2時間ぐらいヨガをしていた。でも、パタゴニアに来てからは、家を建てたり、畑を作ったりするのに忙しくて、ヨガをする余裕がなく、そのせいで、腰痛がひどくなり、冬になると、ギックリ腰になっていた。

でも、ポールが、腰痛を治す10分間ヨガのビデオを見つけてくれたおかげで、毎日、続けることができ、今年の冬は、ずいぶん、身体が楽になった。

ポールも私も、病院が好きではないので、病気にならないように心がけているし、身体のどこかが痛む時や、軽い怪我などをした時には、アロママッサージやエッセンシャルオイルで治すようにしている。

例えば、ティーツリーはウイルスを殺してくれるので、風邪が流行る時期には大活躍するし、ラベンダーは火傷や切り傷、虫刺されなどに効く。エッセンシャルオイルは、ラフンタ村の友達が作っている。素材のハーブや樹木の葉や皮は、すべて、彼女や友人の土地で取れたオーガニックのもの。

この間は、剪定したローズマリーをあげたら、ラベンダーやユーカリのオイルをお返しにくれ、特別に、ローズマリー、ミント、アーモンド・オイルを混ぜて、オリジナルのマッサージオイルを作ってくれた。

こんなに素晴らしい友達がラフンタにいるなんて、幸運なことだ。ほとんど、奇跡的とも言える。

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Paul Coleman

マッサージが、どんなに効果的か、過去に実感した出来事があった。

2年程前、新しい眼鏡を作るために、300キロ離れたコヤイケの病院へ行った時のことだ。(ラフンタには小さな診療所しかないので、簡単な治療以外は、コヤイケまで行かなければならない)

視力検査の後、とても、ショックなことを言われた。

「左の眼球が、かなり歪んでいるので、このまま進むと網膜が剥離してしまうかもしれない。最悪の場合、視力を失うこともあるので、すぐに眼科医のアポを取った方がいい」と。

左目の視力が悪くなっていることには、前から気づいていた。視界の下半分がぼやけて、灰色のフィルターがかかっているように見えていたのだ。ポールに心配を掛けたくなかったので、ずっと黙っていたのだけれど、いよいよ、どうにかしなくては、いけなくなった。

そうかと言って、眼科にアポを取る気にもなれなかった。悪い知らせを聞きたくなかったし、300キロ離れた病院まで通うことを考えただけでも、憂鬱だった。

「一体、いつ頃から視力が悪くなったんだろう? 何か、眼球が歪んでしまった原因があるのかもしれない」家に戻ってから、考え始めた。

すると、ある日、たまたま、首をマッサージしていて、左の首筋が麻痺していることに気づいた。押してみると、左の眼球の後ろが、引っ張られるような感じがする。

「もしかしたら、これと関係があるのかもしれない」

直感的に思って、それから、毎日、首をマッサージした。すると、次第に筋肉がほぐれ、ある日、気づいてみると、視力が以前より良くなっていた。

「あれ、前よりもハッキリ見える!」

右目を覆って確認してみると、左目の視界を覆っていた灰色のフィルターが、小さくなっていた。

「わあ、信じられない!」歓喜のあまり、飛び上がりたいほどだった。

それからも、マッサージを続けると、最終的に、灰色のフィルターは、すべて消え、視力はずっと良くなった。

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マッサージが効くかもしれないと思ったのは、以前、こんな経験をしていたからでもある。

東京でOLをしていた頃、顎の左下、ちょうど、リンパ腺がある辺りに痛みを感じ、食べ物が呑み込めなくなったことがあった。内科のクリニックに行くと、スキャンをした後、お医者さんに、「喉に腫瘍があるように見える。手術が必要かもしれないから、大学病院に行った方がいい。紹介状を書いてあげますよ」と言われた。

ショックを受け、かなり、うろたえたけれど、何があっても、喉を切るようなことはしたくなかったので、セカンドオピニオンを聞きに、他の医者に行ってみようと思った。

すると、翌日、食事をしている時に、唾液が右からしか出ていないことに気づいた。

「あれ? 左側の管が詰まっているみたいだ。ということは、内科じゃなくて、耳鼻咽喉科に行った方がいいのかもしれない?」

直感して、自宅近くのクリニックに行った。すると、とても優しい雰囲気の50代半ばぐらいの男性のお医者さんが、時間をかけて見てくれた。

「唾液が通る管に小さな石があるねえ~」

マイクロスコープを鼻から喉へと通して検査した後、お医者さんは言った。

「それで炎症を起こしているんだね、抗生物質を出すけど、石を取ることはできないので、毎日、マッサージしてみてください。それで、石が出てくるかどうか、見てみましょう」

「ありがとうございます!」

天にも昇るほど、嬉しかった。手術ではなく、マッサージで治しましょうと言ってくれるお医者さんが、いるなんて!

毎日、マッサージをすると、3日後には、食べ物が呑み込めるようになり、次に、唾液が戻ってきた。そして、何度目かの診察の後、お医者さんがこう言った。

「おめでとう! 石が出たみたいだね。もう、受診しなくていいよ」

その言葉が、なんと嬉しかったことか! マッサージの効果は、素晴らしいと、実感した。

思い返してみると、今まで学んだことや、興味を持ってやってみたことが、すべて、今の生活に役に立っている。当時は、パタゴニアで暮らすなどとは、思っていなかったけれど、まるで、準備するかのように、いろいろな経験をしてきたかのようだ。

そして、今、それらの経験の一つ一つが、まるで、ジグソーパズルのピースように、はまって行っているように感じる。

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