2016年5日16日から26日にかけて、ドイツ・ボンにおいて国連気候変動枠組条約第44回補助機関会合(SB44)及び第1回パリ協定特別作業部会(APA1)が開催されます。地球温暖化の防止に向け、すべての国が参加するパリ協定が採択された今、国連における各国の議論は、協定成立に向けた交渉の段階から、いよいよパリ協定に示された温暖化対策の運用開始に向けた準備の段階に入ります。
パリ協定のルール作りが始動
2015年12月、困難な国連交渉の果てに、21世紀後半に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指し、世界が協力することを約束した「パリ協定」が成立しました。
その内容は、すべての国を対象とし、法的拘束力のある画期的なものです。
しかし、大枠は決まったものの、そのほとんどの詳細なルールは、今後の国際交渉にゆだねられています。
そのため、今後のルール作りがパリ協定の実効力を左右する、非常に重要なポイントとなります。
また、こういったルール作りは、世界が初めて、21世紀後半に実質排出ゼロを目指すために、どのようなやり方がよいのかを具体的に決めていく作業でもあります。
見方を換えれば、ルール作りは、新しいビジネスチャンスを誕生させる過程ということになります。
主な舞台となるのは、「パリ協定特別作業部会(APAと呼ばれる)」です。
この作業部会は、来たるパリ協定の発効と、パリ協定の運用・実施に向けた準備をすることになっています。
今回のボン会議では、第1回目のパリ協定特別作業部会会合が開催されるため、いよいよパリ協定のルール作りが始動する初めての機会とも言えます。
このボン会合に先立って、パリ協定の署名期間が、2016年4月22日のニューヨークの署名式を皮切りに始まりました。
初日には、なんと今までの国際条約の歴史の中で圧倒的に最多となる175か国が署名し、15か国が批准しました。
パリ協定の発効には、55か国以上、かつ温室効果ガスの総排出量の55%以上となる国の批准(受諾、承認含む)が必要です。
この史上最多の初日署名国は、パリ協定の勢いをそぐことなく、前進させていこうという世界の国々の強い意志が示されたと言えます。
このパリ協定の批准に向けた準備を整えることも、今回始まるパリ協定特別作業部会の大きな仕事の一つです。
第1回目のパリ協定の準備を行う特別作業部会の4つのアジェンダ(議題)
第1回目となる今回のパリ協定特別作業部会では、上記に挙げた批准への準備のほかに、4つの議題が挙げられています。
国別目標、透明性、グローバル・ストックテイク、実施/遵守の主要な論点において、今後どのように議論を進めていくかを決めていくことになっています。
国別目標に関しては、削減目標に関わるルールについて、さらなるガイダンスを詰めていくことになっています。
特に重要なのは、透明性を促進するために、目標の中で、提供されるべき情報についてのさらなるガイダンスを発展させることです。
これは、簡単に言えば、各国がお互いの目標を比較することで理解を深め、より野心の高い目標にするために、どんな情報を出していけばよいかを考えることになります。
また透明性に関しては、上記の国別目標について、各国がどのように国際的に報告をして、ちゃんと目標達成に向けて努力をしているのかを見える形にして、国際的にチェックしていく仕組みを作り上げることです。
さらにこの透明性の議論には、削減目標の達成だけではなく、途上国に対して行われることになっている資金や技術の支援についても、国際的に報告して、チェックを受ける仕組みを作ることになっています。
資金や技術支援は、途上国の温暖化対策への意欲を左右する重要な点であるため、この仕組み作りも同等に重要です。
また、現状のパリ協定の下での各国の削減目標は、2度未満に気温上昇を抑えるためには足りないことが明白にわかっているので、今後目標レベルを上げていかねばなりません。
各国の目標を全体として足し合わせた際、どこまで気温上昇を抑えるのに貢献しているかを、科学的に検証していくプロセスを、どのように進めていくか、またその科学的な評価をどのように各国が目標設定に反映していくか、などについても決めていくことになっています。
これが、グローバル・ストックテイク(世界全体での進捗確認)に関わるルール作りです。
そして、パリ協定での様々な約束を、各国が守っていく(遵守していく)ことをどうやって担保したり、促進したりしていくのかを議論するのが、実施/遵守と呼ばれる議題です。
こういったルール作りの締め切りは、ほとんどが、パリ協定の発効後、第1回目のパリ協定締約国会合(CMAと呼ばれる)が開催されるときまで、となっています。
ニューヨークにおける初日の署名式に175か国が署名したことを鑑みると、早期に発効することも予想されており、もしルール作りが間に合わなかった場合にどうするか、なども議論の一つに上がっています。
温暖化対策の国際交渉は、パリ協定の早期の発効を前提として、準備していると言えるのです。
はじめての途上国の削減の国際的な情報共有が開催される
その他、今回のボン会合で注目されるのは、初めて、途上国の削減行動の報告に関する国際的なレビュー(2020年まで自主的な目標に対する対策実施のレビュー)が始まることです。
これは、2010年のカンクン合意を受けて実施されるものですが、それ以上に、パリ協定の運用開始に向けて、すべての国が削減に参加する体制に移行していく第一歩が始動するという意義があります。
京都議定書の段階では、先進国・途上国に厳格な壁を設けられ、削減目標は先進国だけがもっていました。
パリ協定は、そこから、全ての国々が、なんらかの形式で目標を持ち、かつ、共通の土台で、その実施状況についてレビューを受けることになります。
今回行われる途上国の削減に関するレビューは、それら2つの中間段階に当たり、「先進国と途上国の双方が国際評価を受けるが、国際評価の型式は異なる」という段階です。
2020年以降のパリ協定の中では、これらの計測・報告・検証の仕組み(MRV)が、先進国・途上国"共通の"様式に移っていくことになっています。
世界の温暖化対策は、途上国の参加を得て、着実に前進していると言えます。
新たな事務局長にメキシコの辣腕(元)議長が就任!
このボン会合の直前に、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の新事務局長が発表されました。
2010年メキシコ・カンクンで開催されたCOP16において、失敗に終わったCOP15を乗り越えて「カンクン合意」として見事にまとめ上げた、メキシコの議長パトリシア・エスピノーザ氏です。
その定評ある手腕で、パリ協定の実施を力強く進めていくことが期待されます。
ルール作りは脱炭素社会へ向かう新たなビジネスルールを作る場
これらのルール作りは、パリ協定のめざす今世紀後半に実質排出ゼロを実現するためのルール作りです。
脱炭素社会へ向かうことが既定路線となった今、これらのルール作りは、新たな世界のビジネスルールを作る過程とも言い換えられます。
日本もこれらのルール作りに積極的に貢献していくときです。
批准の手続きを進めて早いうちに批准をし、2018年に予定されている、国別目標の見直しの時期に、現状の2030年目標を深堀りしていけるように、国内の温暖化対策を進めていかねばなりません。
WWFジャパンは、スタッフをボン会合に派遣して、WWFインターナショナルとともに、今後のルール作りの交渉も注視していきます。
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