「うんこ漢字ドリル」、1カ月半で100万部突破 「ワードの威力、想像以上」仕掛け人が語るヒットの理由

「うんこ漢字ドリル」が売れています。うんこネタがここまでうけたのはなぜか。映像ディレクターの古屋雄作さんと、文響社の山本周嗣社長に聞きました。

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(左から)「うんこ漢字ドリル」担当の編集者・谷綾子さん、古屋雄作さん、山本周嗣社長

「うんこ漢字ドリル」が売れています。6学年分の全3018例文に「うんこ」を使い、「日本一楽しい漢字ドリル」とアピール。出版元の文響社(東京都)によると、発行部数は3月下旬の発売から1カ月半でシリーズ累計100万部を突破したそうです。学習参考書というジャンルで、うんこネタがここまでうけたのはなぜか。例文全てを考えたという映像ディレクターの古屋雄作さんと、文響社の山本周嗣社長に聞きました。(朝日新聞文化くらし報道部記者・佐藤啓介)

きっかけは「うんこ川柳」

――このような漢字ドリルを思いついた経緯を教えて下さい

古屋雄作さん:2003年ごろから、「うんこをブリブリ漏らします」みたいに、うんこをネタにしたオノマトペ(擬音語、擬態語)を楽しむ「うんこ川柳」に取り組んでおり、ホームページで発表するなどしています。これを書籍化しちとか、漫画雑誌の投稿コーナーにしたいとか、出版社に持ち込んだこともありますが、なかなか採用してもらえませんでした。

山本周嗣社長:古屋君とは元々友人。「うんこ川柳」も当時から何となく知っていて、2年ほど前にふとそれを思い出し、古屋君に持ちかけました。

ただ、「うんこ川柳」を本にしても、一体誰がターゲットなんだ?と疑問があった。こちらが「面白いだろ」と差し出すだけでは社会には響かないですよね。悩みながら川柳を眺めているうち、ふと「漢字なら、子どもの学習にもつながるのではないか」と思いつきました。

3018の例文 「うんこ漬け」で考えた

――小学生が6年間で学ぶ1006の漢字全てに3つの例文。合計3018の例文は古屋さんが一人で考えたそうですね

古屋:1学年分ずつまとめて考えては編集部に持って行き、フィードバックをもらってまた考える、ということを繰り返しました。基本的に集中して一気に取り組みたいタイプなので、1週間くらいずつ「うんこ漬け」の期間をつくり、朝から晩まで考えていました。

――うんこの夢を見たり、追い詰められたりすることはありませんでしたか?

古屋:それはありません。むしろ、武者震いというか。沖縄のホテルをとって缶詰になったこともあります。外の砂浜では、結婚したカップルが式用か何かの写真を撮っている。オーシャンビューのホテルで、そういう景色を見ながら、ひたすらうんこのことだけを考えました。3、4年生の例文を考えていた時期だったかな。

各学年の子どもたちが理解できる例文であることが大前提。語彙が増える高学年の方が、うんこと組み合わせたら面白そうな熟語が増え、考える幅は広がります。ただその分、前に使ったのと似た文章にはしない、といった縛りも増えていきました。

リアルな反応で手応え

――そもそも、この漢字ドリルが世の中に受け入れられるのか、不安はありませんでしたか?

山本:学習参考書の出版は文響社として初めて。面白いだけではなく質にこだわるため、長年漢字ドリルを制作している編集プロダクションにもチームに加わってもらいました。そのなかで「いじめや迷惑行為につながる」といった指摘をもらい、突き返した例文もけっこうあります。

ただ、例文はどれを読んでも面白く、何か心に刺さるものがあった。

私が小学生の頃も、うんこネタは男子には鉄板ネタでした。だからいけるかも、と思う一方で、我々とは時代も考え方も変わっているので不安もありました。

親御さんや女の子の反応も気になりました。レイアウトの検討や製本作業を含めた制作期間は約2年。その間、塾に持ち込んで試しに使ってもらうこともありました。

こうして小学生のリアルな反応を見ると、やっぱりとても喜んでくれた。作業が進むにつれ、不安よりも期待感が膨らんでいきました。

短期間での「ミリオン」は予想外

――5月8日現在で発行部数は106万8千部とのこと。これほどのヒットは予想していましたか

山本:内輪で盛り上がり、冗談半分で「ミリオン?」とか言うことはありましたが、この短期間でこれほどの部数に到達するとは予想していませんでした。

小学生に聞かないとはっきりとは言えませんが、「うんこ」というワードの持つ威力が大人が想像していた以上にあったのではないか。普段、学習参考書やドリルを購入しない子どもたちの多くがこのドリルを買ってくれているのではないか。

あとは、全ての例文に「うんこ」が入っているドリルは今までにないと思うので、そういった「新しい」商品、サービスにお客様は敏感で興味を感じたのかも。そんなことを考えています。

「うんこって、繰り返しに耐えうる強さがある言葉」

――なぜみんな、こんなにうんこが好きなのでしょうか。考えてみると、うんこを題材にした絵本やキャラクターなどは、意外と少なくない気もします

古屋:何でなんだろう......。自分自身も子どものときから、うんことかそういう下ネタが大好きでした。子どもにとって、「そんなこと言っちゃいけません」と言われることが楽しい、というのはあるのかな。反発というか、枠からはみ出すというか......。

自分で作っていても何か楽しいんですよ。うんこ、うんこって繰り返し書くほどに。「うんこって、繰り返しに耐えうる強さがある言葉なんだな」という実感はありました。

学習参考書に新たな可能性

――今回、「学習参考書」というジャンルで挑戦したことで、見えたものはありましたか

山本:もともと、自己啓発本など「人の成長につながる本」をより多くの人に親しんでもらいたい、というのが文響社のテーマにあります。自己啓発本や参考書って、新しい感じがしないというか、似たような本が多いなと思っていました。

学習参考書もそう。参考書としての質は極めていいものがたくさんあるけど、「勉強が嫌い」「楽しくない」という状況は自分が子どものころから変わっていないなあ、と。そこは課題でもあり、大きなチャンスもあるのでは、と感じていました。

だから、「うんこ」と「漢字」が教育という形でつながったとき、すごく興奮したのを覚えています。

子どもも大人も、どこか潜在的に「勉強ってつまらない」「うちの子は勉強をしない」という意識があると思う。けど、楽しいから子どもはそれをやる。昆虫が大好きな「昆虫博士」の子が、理科のときだけ張り切るとかですよね。

なぜかは分かりませんが、子どもの「うんこ」への関心は昔から変わらず強い。ならば「うんこが好き」、そこから学びがあってもいい。興味があるところからやってみる、という学び方がもっと広がっていいのではないか。

そういう意味で、学習参考書というジャンルに、新たな可能性が見えたような気がしています。

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