「電凸から社員を守るために」企業が知るべき3つの視点

「何の研修も受けず、ノウハウのない人が電話を受け続けると、気がめいってしまいます」。危機管理の観点から専門家に対策を聞いた。

企業や自治体などに対して電話で見解を問う「電凸」。国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」をめぐっては、実行委員会や愛知県への激しい電凸が中止の要因となり、クローズアップされた。

だがこれまでも、電凸をめぐる問題は起きてきた。ときには何らかの問題に関わった企業や個人と「名前が似ている」といった理由だけで、無関係の人が巻き込まれることもある。

電凸とはそもそも何か。そして、どんな対策が取れるのか。企業の危機管理という側面から、クレーム対応に詳しいコンサルタント会社の「エス・ピー・ネットワーク」総合研究部上席研究員の西尾晋さんに聞いた。

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Chainarong Prasertthai via Getty Images

 そもそも電凸とは何か。西尾さんは、このように話す。

「もともとはネットスラングで、電話で突撃レポートすることから始まっていると思います。本来は記者がやっていたような、企業などに電話で見解を問うことを、消費者がやり出したことが出発点だったのではないでしょうか」

 「表現の不自由展・その後」をめぐって起きた電凸とは、どのようなものだったのか。

「不自由展」の中止を受けて設置された「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」の中間報告によると、8月1日~31日に受け付けた「不自由展」関連の抗議件数は電話3936件、メール6050件、ファクス393件にのぼった。中間報告は「(作品を)見ていない人がSNS上の断片画像を見て、組織的かつ大量の電凸攻撃に及んだ」と指摘した。

中間報告によると、事務局では電話での抗議をあらかじめ想定し、受け付け用の電話を準備。音声案内装置や録音機能も取り付けた。しかし開幕日から大量の抗議電話が寄せられ、「抗議電話の数は想定をはるかに超えていた」「電凸という言葉を知っている職員は少なかった」という。 

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「平和の少女像」
HUFFPOST JAPAN

電凸にはどんな特徴があるのだろうか。西尾さんがあげたキーワードが「連鎖」だ。

「公的機関に対するものも、民間企業に対するものも構造は同じです。誰かが電凸をした様子をネットに書き込むことによって、断片的な情報しか見ていないのにも関わらず、『けしからん』と感じて同調する人が出て、広がっていきます。ネットにあがる情報は、当初は文字情報だったのが、音声や動画に変わってきました。電話ではなく、直接企業に出向いて見解をただす様子をユーチューブにアップしたり、生配信したりする人も出てきています」

朝日新聞によると、最近では関西電力幹部らが福井県高浜町の元助役から金品を受け取っていた問題をめぐり、元助役と関わりのあった企業と同名だが無関係の企業に抗議電話が殺到するなど、根拠のない情報で関係のない人にまで被害が及ぶケースもある。

どんな対策があるのか。西尾さんがあげた以下3つの視点をもとに整理する。

①「意見」と「要望」を区別して対応する

②同内容の繰り返し&誹謗中傷は電話を切る

③クレーム対応者を「守る」意識を 

 ①「意見」と「要望」を区別して対応する

西尾さんが企業向けのセミナーでアドバイスしているのが「意見と要求を区別すること」だという。

「前提として、顧客の意見をきちんと聞くことは良いことです。『納得できない』『不快だ』という分には、意見の範囲内でしょう」

「しかし、『販売をやめろ』『展示をやめろ』といった要求が入ってくると、場合によっては不当要求になる。その場合は、『ご要望には対応できません。ご意見として上層部に報告いたします』と対応するべきです」

「『意見として承る』と伝えると、『意見ではない』という反論をされる場合があります。その場合は、『意見でなければ、お客様からの要求、要望ということになりますが、それには対応できないことはお伝えした通りです』と同じロジックでの対応を繰り返す。不当な要求は断り、意見として承るというロジックと言い回しは、変える必要はありません

 

②同内容の繰り返し&誹謗中傷は電話を切る

そして、「意見」の場合でも、長時間同じ事を繰り返すだけだったり、担当者への誹謗中傷に変わっていったりするケースもある。

「『意見として承る』と伝えても、同じ事を繰り返すだけの場合には、『先ほどから同じ事を繰り返しておられます。他の方の対応もありますので、電話を置かせていただきます』と言って電話を切る」

次第に担当者個人への誹謗中傷に話題がシフトしていくこともあるという。

「その場合はまず、『本来の論点とずれ、私個人への誹謗中傷になっていますので、止めていただけますか』とけん制する。それでも続けるようなら、『私への誹謗中傷を止めていただけないようですので、これ以上対応はできません』と伝えて、クローズする」

「エスカレートして『ガソリンをまく』などと言われたら、それは強要・脅迫・業務妨害になる可能性があります。速やかに警察に相談するべきです」

電話を受け付ける担当者が、こうした「電話を切るロジックとノウハウ」を身につけられるよう、ロールプレイング研修をして習得してもらうと良いという。

 

③クレーム対応者を「守る」意識を

個別の対策も必要だが、長期的には経営者ら、クレームに対峙する従業員や職員をマネジメントする側の「意識付け」が必要だという。

「何の研修も受けず、ノウハウのない人が電話を受け続けると、気がめいってしまいます。誹謗中傷などに耐えなければいけないとストレスも溜まります。人手不足の中、ただでさえクレーム産業は人材難です」

「経営者が従業員を守るため、時には強気に出ていかなければならないこともある。担当者らが退職したり、メンタル不調を来たしたりして、現場が回らなくなります。経営者らは、そのリスクを正しく認識する必要があります」

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◇「 #表現のこれから 」を考えます◇

「伝える」が、バズるに負けている。ネットが広まって20年。丁寧な意見より、大量に拡散される「バズ」が力を持ちすぎている。 

あいちトリエンナーレ2019の「電凸」も、文化庁の補助金のとりやめも、気軽なリツイートのように、あっけなく行われた。

「伝える」は誰かを傷つけ、「ヘイト」にもなり得る。どうすれば表現はより自由になるのか。

ハフポスト日本版では、「#表現のこれから」で読者の方と考えていきたいです。

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