客にタトゥー(入れ墨)を彫ることは医療行為ではなく、医師免許も必要ない――。そんな司法判断が11月14日、大阪高裁であった刑事事件の控訴審判決で示された。
事件をめぐっては、大阪府吹田市の彫り師、増田太輝被告(30)が、医師免許がないのにタトゥーを客に入れたとして医師法違反の罪で起訴されていた。
一審の大阪地裁判決(2017年9月)は「タトゥーは医療行為であって医師免許も必要」と判断、増田被告に罰金15万円の支払いを命じていた。
だが、この日の高裁判決は一審とは「真逆」の判断となり、増田被告に対しても無罪が言い渡された。
一審の判断くつがえる
増田被告は2015年3月までの8カ月間に客3人にタトゥーを施したとして医師法違反の罪に問われていた。
2017年9月にあった一審・大阪地裁の判決は、タトゥーを彫ることで皮膚障害やウイルス感染が生じる可能性があると指摘。「保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」のため、「危険性を十分に理解し、適切な判断や対応を行うためには、医学的知識及び技術が必要不可欠」な医師法の医療行為にあたると認定した。
ところが、高裁の西田真基裁判長は、「保健衛生上の危害が生ずるおそれのある」ということだけでは医療行為とは言えないとした。
医療行為と認定するためには、病気の治療や予防などを目的としていることも必要で、そうしたこととは関係ないタトゥーの施術は医療行為ではないと結論づけた。
タトゥーの施術をめぐる感染などの問題についても、医師法の内容を拡大解釈して規制するのではなく、「業界による自主規制、行政による指導、立法上の措置等の規制手段を検討し、対処するのが相当」と西田裁判長は求めた。
職業選択の自由についても
西田裁判長は、原告側が主張してきた「職業選択の自由の制限」についても言及した。
原告側は、タトゥーの施術に医師免許の取得を求めれば、彫り師になる機会を狭め、タトゥーを彫るという創作活動を制約するおそれがあると主張した。
これに対し、一審判決は「公共の利益を保護するために必要かつ合理的な措置」として、職業選択や表現の自由が制限されてもやむを得ないとしていた。
だが、高裁判決は、タトゥーを彫ることに医師免許を求めると「憲法が保障する職業選択の自由との関係で疑義が生じる」として、原告側の訴えを追認した。
この裁判をめぐっては、彫り師らや学術研究者らが支援グループを結成。弁護団もつくられ、増田被告をバックアップしてきた。
弁護団の一人、亀石倫子弁護士は一審判決の際、「医師でなければタトゥーを彫ることができないとしたら、この国から彫り師という職業はなくなります。日本の文化、伝統が失われます」と訴えていた。