先日、東京タラレバ娘を読んだ。日本テレビでドラマ化され人気をはくしている事もあり、周囲で男女問わず話題になっていたからだ。
そして作品への評価も共感できるという人もいれば今時こんなアラサー女子はいるのか?という人まで、男女関係無く賛否が分かれている。
漫画版を読んだ自分の評価は「独身アラサー女性なら突き刺さるのかもしれないけど、10年前ならトレンディドラマとして見られた古い感覚の作品」といったところだ。
■「結婚が目標」に共感できるか?
詳しい内容は漫画やドラマ版を見て貰えればと思うが、ドラマの公式HPでは以下のように紹介されている。
『「タラレバばかり言ってたらこんな歳になってしまった」
鎌田倫子、30歳、独身、彼氏ナシ。
職業=(売れない)脚本家。
「キレイになったら、もっといい男が現れる」
「好きになれれば、結婚できる!!」
そんなタラレバ言いながら、親友の香、小雪と3人で女子会ばかりやっていたが、金髪イケメン男に「タラレバ女!」と言い放たれハタと現実にブチ当たる!!
「私たちって、もう女の子じゃないの?」
「本気出したら恋も仕事も手に入れられると思ってた...。」
「立ち上がり方が分からない」
「恋に仕事にお呼びでない?」
厳しい現実、だけど真実。頑張ってないわけじゃない、でも、まだ幸せにたどりつけてないタラレバ娘たちがもがきながらも、幸せ探して突き進む!!
女子のリアルが刺さりまくり! 共感度100%のドラマはじまります。』
出典:東京タラレバ娘 イントロダクション 日本テレビ公式HPより
ストーリーを大雑把に説明すると、主人公となる独身・彼氏ナシのアラサー女性たち=タラレバ娘は、良い男がいないから結婚できない、もしくは良い男がいても若くて可愛い20代の女子にもってかれる、だから仕方なく彼女や奥さんがいる良い男(?)と泥沼な関係になっては女子会で顔を突き合わせる......といった話が延々と繰り返される。
ラブコメディとしては「結婚したい女性が恋愛で試行錯誤をする」といった王道な内容ではあるが「このご時世に結婚しただけで幸せと言えるのか?」という話が完全に無視されていることを考えると、多分「現代の話」とは言えない。
つまりリアリティが無い。
一昔前には少子化が急激に進む→ワカモノが結婚しないことが原因→草食系という言葉が2006年頃から使われはじめ、その後ブームになる(2009年には流行語大賞にランクイン)......という流れがあり、散々結婚しないワカモノが悪いといった話が出尽した所で、
「じゃあ結婚して子どもができたら楽しい生活が待ってるのか?」
「そもそも結婚したくなるような環境なのか?」
......といった現代の日本では解決しようがないほど根本的で深刻な問題が浮き彫りとなる。
産休育休がまともに取れない、子どもがいると働ける場所がほとんどない、保育園に入れるかどうかで女性の運命が決まる、待機児童多すぎ、そもそもワカモノは収入が低くて結婚する気になれない......など、タラレバ娘たちが熱望する良い男との結婚も大変だと思うが、その後にはそれ以上の苦労が待っている。
※ちなみにタラレバ娘たちの眼中にも入らない年収300万円以下の男性の既婚割合は10%を切る。非正規雇用者に至っては5%以下。
■「結婚できないワカモノ」が共感されるのはもう少し先かもしれない。
つまり、ドラマでは「結婚して子供が産まれたらもっと大変だよね」という、独身のアラサー女性でも当然気づくであろう問題が無視されている。
もちろん、この程度の話は人気作家である作者が理解していないとは思えず、単純にターゲットをアラサー女子にしぼって、そして読みやすくするために結婚したいアラサー女子というあえて「ベタ」なネタをつかっているだけで、本当は真っ当な人間ドラマを描こうとしているのではないかと思う。
ベタ=古い話=誰でも理解できる・誰もが安心して見られるストーリーであり、子育ての不安から結婚できないワカモノという「新しい話」がリアリティを持って誰にでも理解される主人公として描かれるのはもう少し先になるのかもしれない
待機児童のような深刻な問題であっても、いまだに予算が足りないからと根本的な解決策が打たれていない理由は「消費税を1%上げて、全額(約2兆円)を待機児童解消の予算にブチ込みます」と政治家が言えるだけの環境になっていないことが大きな原因、つまり「新しい問題」だからだ。
※新し過ぎる内容は作家としても編集者としても読者の共感を得られるか分からないため、当然の事ながら商業作品としては扱いづらい。待機児童がすぐにでも解決すべき深刻な問題として各種メディアで扱われるようになったのはごく最近の話。
■東京タラレバ娘は案外真面目な物語かもしれない。
漫画とTVドラマでは多少設定が異なるようだが、3/1に放送された最新の第7話は、ドラマを作ってネットで動画を公開して町興しをしようと考えている田舎の町へ、売れない脚本家として働く主人公が訪れる回だ。同じ話が漫画でもある。
当初はなんでこんなショボイ仕事をこんなクソ田舎に来てまでやらないといけないんだと主人公は憤るが、良い作品を作ってネットでドラマを見た人が一人でも町に来てくれれば......と本気で町興しを考えているオジサン達の心意気に触れて「自分は一体東京でこの年になるまで何をやってきたんだろう......」と改心し、改めて真摯に仕事に取り組むことになる。
決して上品とは言えない内容で、結婚することが目標となってしまったアラサー女子のドタバタなラブコメディが続いてきたはずが、それ以降作品の雰囲気が大きく変わることを暗示させるような内容になっている。
ここまでの流れが全部前フリだったの?と思うほどこの話の前後を境にストーリーが俄然として面白くなる(ネタバレになるのでこれ以上は書かないでおく)。
このあたりは深いドラマを描いているのか、深いドラマだとさりげなく見せるテクニックを使っているだけなのか、作品が完結しないと分からないが......。
■東京オリンピックまでに問題は解決しそうにないが......。
物語のはじめに、2020年に東京オリンピックを一人で見るのは嫌だと3人の主人公たちが心配するシーンがある。では無事その目的が達成できたらタラレバ娘は幸せな人生を送る事は出来るのだろうか。
主人公の3人が理想の旦那と結婚して子供を抱えながら東京オリンピックを見る、となったところでそれでハッピーエンドとはまずならない。寿命まで半世紀もあるのだからなるわけがない。
保育園が見つからずまともに仕事も出来ない状況でギャン泣きする子どもを抱え、旦那はビールを飲みながらテレビで放送されるオリンピックにくぎ付けになる姿を見て、
「嗚呼、なんで焦って結婚しちゃったんだろう?」
「あの時結婚しなければ、独身だったら楽しくオリンピックを見れたのに」
......と、再度タラレバの状態におちいるかもしれない(自営業は保育園を利用しにくい傾向にあり、都心部で自営業的な働き方をするタラレバ娘3人の子どもは待機児童になる可能性も高い)。
しかも結婚して生活スタイルが変われば居住地が関わる可能性もある。
居住地が離れてしまえば、問題が発生するたびに第四出動などと言って飲み屋で顔を突き合わせて女子会をすることも出来なくなってしまう。結婚前よりもよっぽど深刻な状況がタラレバ娘に降りかかる。
待機児童や女性が働きにくい環境など、残念ながら今の日本が抱えている社会保障関連の問題は数年で解決するとは思えない。
夢にまで見た家族でオリンピック観戦をしながら「保育園落ちた日本マヂで死ね!!!」とタラレバ娘が叫ぶ......という話が東京タラレバ娘2として描かれたら、(面白いかどうかは別にして)リアルなドラマになるかもしれない。
その頃には待機児童や女性の働き方の問題は、解決は出来なくとも「ベタな内容」として少なくとも誰もが理解し、共感できる内容になっているのではないかと思う。
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中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー