サナダムシの世界は年功序列?

同一の宿主に、利害関係の異なる複数の寄生生物個体が存在する場合、それらは互いに競い合って宿主の行動を支配しようとする。どうやらサナダムシでは、勝利を収めるのは常に年長の1個体らしい。
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同一の宿主に、利害関係の異なる複数の寄生生物個体が存在する場合、それらは互いに競い合って宿主の行動を支配しようとする。どうやらサナダムシでは、勝利を収めるのは常に年長の1個体らしい。

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サナダムシの一種Schistocephalus solidusの第1中間宿主であるカワリオオケンミジンコ(Macrocyclops albidus)。その体内では、S.solidusの複数個体がマインドコントロールの主導権をめぐって争いを繰り広げることがある。

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同一の宿主内に複数の寄生生物がいることは、自然界では珍しくない。これらの寄生生物は、共通の利益がある場合に協力して互いの影響力を強め合うことが知られている。今回、条虫(サナダムシ)についての新たな研究から、同種の寄生生物であっても個体間で利害が一致しない場合には、互いに妨害し合い、目的達成のため熾烈な争いを繰り広げることもあることが明らかになった。

寄生生物が宿主の行動や生理を自らの都合に合わせて変化させる「宿主操作」という現象は、以前から知られている。例えば、アリを宿主とする一部の線虫は、通常は黒いアリの腹部を、その地域に自生するベリー(漿果)に似た鮮やかな赤色に変色させ、さらにそれを高く持ち上げさせて目立たせることができる。変色したアリの腹部には線虫の卵がびっしりと詰まっており、鳥がこれを果実と間違えて食べると、線虫の卵はやがて本物の果実の種と共に排泄された後、糞の一部として次世代のアリの餌に利用される。こうして線虫は鳥を通して新たな宿主を得、自らの生活環を完了させるのである。また、恒温動物に幅広く寄生することが知られるトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)はヒトに感染すると、感染者に命を危険にさらすような行為をさせるなどの行動変化を引き起こすのではないか、とさえ言われている。

多くの寄生生物は、生活環に合わせて宿主を乗り換える必要があり、そのためには宿主の行動を変化させて適切な時期に移動の機会を得なければならない。しかし、齢の異なる複数の寄生生物が同一の宿主内にいた場合、宿主乗り換えの時期が異なるため利害が対立することになる。

マックス・プランク進化生物学研究所(ドイツ・プレーン)のNina HaferおよびManfred Milinskiはこのたび、寄生生物としてサナダムシの一種Schistocephalus solidus、宿主として小型甲殻類であるカイアシ類、カワリオオケンミジンコ(Macrocyclops albidus)を用い、同一宿主内に寄生生物個体が複数存在する場合の影響について調べた。S. solidusの生活環には3種類の宿主が必要で、第1中間宿主のカイアシ類から第2中間宿主の魚類、そして終宿主の鳥類へと捕食を介して移り住む。

体内に宿る死神

Milinskiらの研究チームなどはこれまでに、魚類に寄生するにはまだ早過ぎる若齢のS. solidusに感染したカイアシ類は、未感染の個体に比べて動きが鈍く、結果として魚類の餌にはなりにくいことを示している2。このS. solidusはやがて、十分に成長して魚類に感染できる段階になると、宿主の動きを未感染個体よりも活発にさせて、魚類に見つかって捕食されやすいようにする。

HaferとMilinskiが今回Evolutionで発表した論文1によれば、1個体のカワリオオケンミジンコに2個体のS. solidusを感染させたところ、それらが同齢の場合は、宿主を乗り換える段階になると協力し合ってケンミジンコの動きを活発化させ、その効果は単一のS. solidusが感染した場合よりも大きかったという。一方、齢の異なる2個体のS. solidusが感染した場合では、齢の高い個体が必ず競争に勝ち、ケンミジンコの行動はほぼこの年長個体の成長に伴ってのみ変化し、若齢個体の影響が表れることは全くなかった。

また、目的の異なる2個体の競争の結果、互いの活動の影響が相殺されて宿主の行動が単一個体感染よりも低いレベルとなる、ということもなかった。Haferによれば、これは成熟個体が若齢個体の活動を「妨害」していることを示唆しているという。「若齢個体が自らの活動を停止するとは考えられないからです」と彼女は説明する。実際、若齢個体が成長して宿主を乗り換える時期になると、ケンミジンコの動きは同齢2個体感染時に似た、相乗的な活発化を示した。これは若齢個体が宿主操作の能力を失っていないことを示している。ちなみに、年長個体は相手が若齢の2個体でも競争に勝ったという。

ブルゴーニュ大学(フランス・ディジョン)で宿主と寄生生物との相互作用を研究するFrank Cézillyは、この研究が実験室培養したケンミジンコを使用していることに触れ、信頼できる興味深い結果だと評価する。これまでの研究では、多くが自然環境で感染した宿主個体を用いており、宿主の行動変化が本当にその寄生生物によってもたらされたのかどうか、判断することが不可能だったからである。

しかし、S. solidusがカワリオオケンミジンコの行動を変化させるメカニズムは明らかになっていないため、一方の個体がもう一方の個体を「積極的に妨害している」と決め付けるのは危険だと、Cézillyはくぎを刺す。「妨害の可能性もありますが、年長の個体が先に始めた宿主操作に対し、若い個体が太刀打ちできないだけなのかもしれません」。

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150402

原文:Nature (2015-02-06) | doi: 10.1038/nature.2015.16875 | Tapeworms battle it out to control shared host

Daniel Cressey

参考文献

1. Hafer, N. & Milinski, M. Evolution http://dx.doi.org/10.1111/evo.12612 (2015).

2. Weinreich, F., Benesh, D. P. & Milinski, M. Parasitology 140, 129-135 (2013).

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