ハフポスト日本版では、中国のアプリ事情に詳しい専門家の解説を元に、スマホアプリを通じて中国経済を読み解いていきます。
第1回目に取り上げるのは、ジャック・マー(馬雲)が1999年に創業したアリババ社が提供する「タオバオ(淘宝)」と「天猫(T-mall)」です。
まずは、1分動画をご覧ください。
■タオバオと天猫
タオバオは、アリババグループが提供するEC(電子商取引)、つまりネット通販のプラットフォーム。主に個人間取引(CtoC)を扱っていて、個人がものを販売したり、農家の生産者が農作物を売ったりしている。
公表している決算資料によると、後述する天猫などと合わせて、2018年度のプラットフォーム上での売り上げ総額は8530億米ドル(約91兆5000億円)。前年比で19%増加するなど、競合の出現にも関わらず成長を続けている。
一方で、天猫(T-mall)は事業者がサイト内に店舗(旗艦店)を構え、個人向けに販売するプラットフォーム。日本の楽天市場に比較的近いとされる。
出店には厳格な審査を通る必要がある。実態は別の業者が正規ブランドを名乗らないようにするためだ。
■独自の決済システム
この2つのプラットフォームが中国で大流行した背景には、決済システムの工夫がある。店頭でモノを確認できるオフラインショッピングとは違い、お金を支払っても品物が来なかったり、全くの別物だったりするリスクは避けて通れない。偽物で有名な中国ならばなおさらだ。
これに対しアリババは、支払ったお金がプラットフォーム側に一旦デポジットされ、購入者が現物を確認してから、売り手にお金が渡るシステムを導入。
不良品が届いたり、品物が送られなかったりした場合、お金を支払わなくて良いし、売り手も持ち逃げされる心配がない。
上海でアプリ開発に従事した経験を持つ、クロスシーの又村深・執行役員はタオバオについて「受け取り確認をしない限りお金が戻ってくるという安心感があるのが大きい」と話す。
■天猫が成長
又村さんによると、ローンチ当時人気だったのがタオバオ。後発の天猫は存在感を発揮できなかったという。「天猫は最初は全然見向きもされなくて。タオバオは偽物があるかもしれないけど、3割か4割引きでモノが買える。天猫にある旗艦店は外国のメーカーでも定価に近い値段で売っていた」と振り返る。又村さん自身も、右耳と左耳の配線が逆になったイヤホンをタオバオで安く買った経験があるという。「工場で廃棄された製品の横流しかもしれない」とのことだ。
しかし、そこから天猫の成長が始まる。粗悪品ではなく、ある程度の代金を支払ってもしっかりした製品を選ぶ消費者が増え始めたのだ。
「天猫の発展の背景には国内の所得が上がっているのがあります。“昔は使えればいいじゃん”だったのが、今は多少高くてもちゃんとしたものを買いたい意識が高まり、天猫の方が人が多い状態です」と又村さんは分析する。
■ライブコマースとは?
タオバオなどで今流行りの販促方法が「ライブコマース」だ。これは売り手が顔出しで生中継を行い、商品のPRをする手法。
「いくつ買えば割引」などのアピールのほか、服ならば裏地を見せたり、配信者が着てみたりと、視聴者からのコメントにも応えていく。
又村さんは「タオバオそのものが推薦するのは疑わしいけども、好きなKOL(インフルエンサー)が推薦するのは買いやすいというのがある。そんなに有名ではないけど一部の人にはとても人気があって、フォロワーも1万人いかないけども生放送すると必ず人が集まるとか、そういう人たちが売っている」と解説する。
■Amazonは勝てたのか?
しかし、ここで疑問がある。ECといえば、日本人に浸透しているのはAmazonだ。だが、Amazonは中国市場から撤退している。なぜタオバオや天猫に勝てなかったのだろうか。
中国政府は、外資系の競合相手が現れた際、国内産業の保護に動くことが多い。又村さんは、それ以外にも、参入時期が一つのカギだとみている。
「タイミングの問題だったと思います。アマゾンや楽天に関していうと、まだタオバオが全盛で、多少怪しくても安ければいいという消費者ニーズが強かった頃に参入してしまった。中国政府の政策もありますが、アマゾンの場合、プラットフォームが在庫を持っていたり、メーカーが売っているので基本的に値段が高い。もうちょっと消費の考え方や、所得が上がってから(中国市場に)入っていれば、天猫に勝てないまでも、撤退させられるほどの惨敗はなかったのではないでしょうか」
アリババグループは2019年9月に創業者のジャック・マー氏が会長を退任。張勇(ダニエル・チャン)CEOを後継に据える。本業のECに止まらず、各方面にサービスを広げていくIT業界の巨人の今後に注目が集まっている。