東シナ海のタンカー事故で発生した原油流出に対応するための日韓両国の長期的協力の必要性

国という概念を越えて、自らの行動に責任を担わなければならないグローバル市民であることを自覚させられることであろう。
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A rescue ship works to extinguish the fire on the stricken Iranian oil tanker Sanchi in the East China Sea, on January 10, 2018 in this photo provided by Japan?s 10th Regional Coast Guard. Picture taken on January 10, 2018. 10th Regional Coast Guard Headquarters/Handout via REUTERS ATTENTION EDITORS - THIS PICTURE WAS PROVIDED BY A THIRD PARTY.
Handout . / Reuters

先月、東シナ海で発生した油流出事故により、東シナ海では最悪の生態系被害が懸念されている。今回の東シナ海の油流出事故は、歴代の油流出事故の中でもメキシコ湾で発生したイギリスBP社の石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」の爆発事故に次ぐものであり、メキシコ湾原油流出事故による生態系の破壊は未だに完全復元されてない状態である。

去る1月6日にイランから原油を輸送中のパナマ船籍のタンカーと香港船籍の貨物船CFクリスタル号が衝突し、非常に揮発しやすい急性有毒物質である天然ガス・コンデンセートが百万バレル近く流出した。コンデンセートは拡散が早くて、原油よりも抑制することがはるかに困難である。流出したコンデンセートは海流に流されて広がっており、その海域に生育するすべての海洋生物はこれによる水質汚染の被害にさらされることになる。今までこういった大量のコンデンセートが流出したことはない。流出したコンデンセートによる被害は東シナ海に流出した油による被害をはるかに上回る水準であり、広い範囲にわたって海洋生物が死においやられたり有毒物質に汚染されるであろう。

今回の事故が海洋温暖化や海水の酸性化によって発生した生態系の破壊等と結びついていく場合は、非常に深刻な災難に発展する恐れもある。

日本と韓国は多くの利害関係を共有しているにもかかわらず、今までは協力を躊躇してきた。しかし、今回の危機は歴史問題によってこう着状態に陥ってしまった現在の状況から脱却して、共通の危機に立ち向かうことができる機会になりえるかもしれない。また、今後さらに敏感な問題を解決していくために、連携・協力できる人的ネットワークを形成できるチャンスにもなりえるだろう。

日本と韓国がともに迅速に対応していかなければ、十数万もの人々が汚染された水産資源や海水によって深刻な健康上の危険にさらされることになる。とりわけ、済州島や福岡が直接的な影響を受けることになり、自治体は全面的な相互支援や専門的な知識の共有ができるよう創意的なアプローチをする必要がある。

また、日韓両国はともに今回の事故処理や今後、数十年間にわたって生態系を回復させるための方案について真摯に対話を持つべきである。その過程においては、緊密な協調や新技術や新たな治療法の開発が急がれるであろう。両国は一チームとして一緒に連携して、被害を受ける地域の住民の安全や健康を保障する一方で、住民がどのような影響を受けるのかを明らかにする必要がある。

そのためには、日韓両国が今回の油流出事故にいち早く対応して、迅速で体系的に移行可能な包括的な計画を立てるのが必修条件である。科学的手段を動員して、危険を判断し、全世界に信頼できる情報を提供しなければならないのである。

短期的、中期的、かつ、長期的な解決策を提示するためには、グローバルな次元での協力が必要となる。そのためには、事故への対応を公式化して、具現できるよう、今回の事故によって被害を受けたすべての国の政府や研究者、産業界の専門家が一堂に会する必要がある。また、その場に住民が参与して、専門家に情報を提供する一方で、専門家の意見や油流出に関するその他の情報についても細心の注意を払うべきである。

そして、また、BP社のディープ・ウォーターホライズンからの原油流出事故を経験したアメリカは、今までの経験を生かした復興計画等を日本や韓国にアドバイスすることもできるであろう。具体的には、2010年、アメリカの大統領諮問委員会は、今後、油類の流出によって及ぼされる地域社会や生態系への被害に対応するために革新的な勧告案を提示したことがあるのだが、こういった対策が今回の油流出事故を経験した日本や韓国には非常に参考になるであろう。

長期的には、原油の輸送に関わる規定を強化しなければならない。今一番必要なことは、こういった悲劇を二度と起こしてはならないと認識するのはもちろんのこと、油流出事故以上に数十万人の生命に危険が及ぶ有毒な物質を排出して大気汚染を引き起こす化石燃料の使用を即時に中断しなければならないということである。

こういったことに対応していくためには、政府の革命的な変化が必要である。世界的に各国の政府が次第に弱体化しており、住民よりも企業の要求を優先的に対処する傾向にある。各国の政府には分析能力を有する専門知識が不足しており、長期的な計画を遂行することさえもできないのが現状である。もっぱら政治家たちの関心は次の選挙だけなのである。学者たちも評価システムに翻弄されて、理解しがたい学術誌に掲載する論文作成に時間を取られて、住民との相互作用や専門家のアドバイスを一番必要としている官公庁との連携も疎かになっているのが実情である。

今回の事故で日本と韓国の住民は、市民権や国という概念を改めて考えてみる機会になるかもしれないだろう。おそらく国という概念を越えて、自らの行動に責任を担わなければならないグローバル市民であることを自覚させられることであろう。

ところで、今回の油流出事故は船員の過失によるものであるが、原油の輸送に伴う危険や石油排出による環境への否定的な影響については、過去、数十年もの間、ずっと言われ続けてきた。それに関しての解決策は、政府が化石燃料の企業から莫大な財政支援を受けることを自粛して、ディーゼルや石油を使用する自動車の利用を即刻規制する厳しい法律を制定する等、エネルギー政策の根本的な転換を図るべきである。

資金投資をしたり経済を計画するだけの今までのやり方は変えていく必要があるのはもちろんのこと、これからは文化や習慣を改革しなければならないのである。これからは、消費や成長が成功を決定付ける基準にはならない。今回の油流出事故に関連して、根本的な部分での対応をするためには、石油への著しい依存、自動車販売を促進する広告、社会福祉を犠牲にしてまで莫大な投資をしてきた高速道路の建設等の問題をもう一度、改めて提起する必要がある。

また、その間、各国が巨額の防衛費を費やして手に入れてきた防衛機器は、今回の油流出事故や砂漠化の拡散や海水面の上昇等の環境問題には何も役に立たないことを認識しなければならない。時代の変化に合わせて、断固として「安全」を再定義する必要があり、制限的で対立的な「同盟」からは脱却しなければならない。防衛に関しては、国連憲章を真摯に受け止めて、現実的な保安脅威に対処するための透明で効果的な社会の一員としての軍隊に転換するべきなのである。科学的研究によれば、現在、人類が直面している最も恐ろしい脅威は気候変動なのである。

おそらく、日韓両国は今回の油流出事故に対応していくための共同プログラムに取り組んでいくであろうが、これは、今後、地域内の環境問題にも対応できるよう連携をつなげていくことも可能であろう。また、そのような機構は両国間の政府や地方自治体で環境政策の協力を奨励する役割を果たせるであろう。具体的には、両国が共同して、水質、大気物質等、長期的な生物学的なモニタリングをするための環境評価プログラムの開発をすることも可能であろう。また、海上交通の危険評価を改善して、危険性の高いドーハ海峡付近の危険を予測することも一緒に取り組んでいくことができるであろう。全般的な海上交通の統制改善や改善された規定についても、ともに話し合っていく必要があるだろう。

今回の膨大な量の油流出事故に長期的に対応していけるよう、日本と韓国の大学や研究機関、NGOや両国の市民の間で連携・協力を強化していかなければならない。今回の事故によって、直接的な影響を受ける福岡と済州島では、地域社会間の姉妹提携を結ぶこともありえるであろう。

そのためには、市民には油流出事故についての対応処置を明確に説明して、環境復元のための努力に寄与できるよう、市民に倫理的な動機を付与しつつ積極的に働きかけなければならない。また、哲学、倫理、歴史、芸術、文学分野の専門家が必要となってくるであろう。抽象的な災難には、説得力や強いインパクトを持って具現できる芸術家や説得力のある文句で表現できる作家が必要なのである。

また、地域社会の再建をすることで共同体が破壊してしまった漁村を活性化させ、若者が再び定着できるよう働きかけなければならない。そのためには、財政支援だけでなく、精神的な勇気や自己犠牲も必要になるであろう。こういった危機を迅速に解決できるよう、日本と韓国の両国民は力を合わせよう。おそらく、こういった取り組みでの日韓両国民の勇敢な態度は、他の分野にも広まっていくことが期待できる。