皆さんこんにちは。パックンマックンのパックンこと、パトリック・ハーランです。4月10日に角川oneテーマ21から『ツカむ!話術』という本を出しました。この本は僕のハーバード大学で学んだコミュニケーション理論と、芸人・コメンテーターとして磨いた実体験に基づいた話術のコツを、わかりやすくレクチャーしたものです。予想以上に好評をいただいていて、現在3回目の重版がかかっているとのこと。嬉しい限りです。
■ロジックだけでは心をツカめない
この本のベースとなっているのは、僕が非常勤講師として、東京工業大学の1、2年生向けに教えている講義「コミュニケーションと国際関係」です。
相手の心をツカむためには、話す内容だけでなく、どうやったら自分の言葉に耳を傾けてもらえるかを考えなくてはいけません。伝え方というと、どうしてもロジックの組み立て方に目がいきがちですが、それだけではなく、ユーモアを交えて話したり、相手の価値観に寄り添った言葉遣いをしたりすることも必要です。また目的によっても話し方は変わってきます。ディスカッションの仕方、相手を納得させるプレゼン方法、他の人を説得し動かすテクニックなどなど、TPOに応じたいろんな技術を磨くことが必要です。
でもそれは決して自分の考えを押しつけたり、相手を論破したりするためのものではありません。自分の考えを正しく相手に理解してもらうために、伝え方が大事なんです。そのためのルールや方程式を、僕のお笑いの経験などを交えて教えています。
■アリストテレスのレトリックに学べ
その話術の基礎となるのがレトリック(修辞学)です。ギリシャの哲学者のアリストテレスは『弁論術』で、エトス、パトス、ロゴスという三つの説得要素を紹介しています。
エトスとは人格による説得要素のこと。例えば、実績や肩書きがある人の言葉は、聞かなきゃいけないと思いますよね。また話が面白い人や、普段から信頼している人に対しては、耳を傾けようかという気になります。
パトスとは感情による説得要素。例えば自分が愛している人が、困っていると聞くと、ついつい動揺して冷静な判断ができなくなって、相手の言うままに行動してしまうことがあります。オレオレ詐欺などはこのパトスを悪用した事例です。
ロゴスとは言葉の力による説得要素。一般にはロゴス=ロジックと思われがちですが、ロジックを使ったものだけなく、たとえば、語呂合わせやリズム感のある言葉などにも、相手をなんとなく納得させる力があります。これらをひっくるめた、言葉の力による説得を僕はロゴスと言っています。
講義では、レーガン大統領の巧みなユーモアなど、人を惹きつけるスピーチやキャッチコピーなどを紹介しながら、これらでエトス・パトス・ロゴスのどの要素が使われているかを分析します。また、その要素をベースに実際にスピーチやディスカッションをする時間を設けて、学生同士でお互いに発表、批評をし、話術を学んでいきます。
その成果か、この講義のお手伝いをしてくれている大学院生の島田さんが、志望していた大手総合商社に内定しました。
「就活を始めた頃、自分が志望動機を話していても、どうもリクルーターや採用担当の人の手ごたえがよくありませんでした。どうしてだろうと考えていたら、ロジックばかりを追って話していることに気付いたんです。そこで自分自身の経験や、自分がどんなことに心を動かされたかを絡めた、エトスやパトスも意識した話し方をしたところ、僕の話を聞いてくれている感触を得ることができました。パックン先生のおかげで、僕は内定できたんです!」
......と、こういう例示も話術の一つ。僕の講義の信頼感を高め、エトス度アップにつながるんです(実話ですよ!)。
(刊行記念対談にて、あの話術の達人である、ジャパネットたかたの髙田明社長からもお褒めいただきました。社長、ありがとうございます!)
■批判的思考を身に着けよ
また講義や本を通じて、ぜひクリティカル・シンキング(批判的思考)ができる人になってほしいなと思っています。イラク戦争のとき、当時の大統領だったブッシュが、どのような話術を使って、アメリカ国民を戦争に駆り立てたかも紹介しています。話術を身につけることは、相手の話術にだまされず、冷静で正しい判断をする上でも必要なことなんです。
「自分は〝コミュ障〝だから」という人も大丈夫。東工大では実に8割の学生が〝コミュ障〟だと自任しているそうですが、そんな彼らであっても講義を通じてメキメキと腕を上げ、話し上手になりました。話術は学んで練習すれば必ず上達します。ぜひ本書を通じて、夢をツカむための話術を身につけてもらえたらと思います。
※講義の様子は、6月20日夜10時からBS11にて放送される「宮崎美子のすずらん本屋堂」にて紹介されます。