武井咲さん「違約金10億円?」と報じられる⇒弁護士の見解は?

CM女優、妊娠したら多額の違約金を払わなくてはならないのでしょうか。
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武井咲
時事通信社

女優の武井咲さん(23)とEXILEのボーカル、TAKAHIROさん(32)が結婚したと、双方の所属事務所が9月1日に発表した。武井さんは妊娠3カ月で、2018年春に出産予定という。

ところが、このおめでたいニュースを巡って、デイリースポーツなどは、武井さんの所属事務所オスカープロモーションが違約金を支払う可能性があり、関係者の話として「額は10億円もありうる」などと報じた。

確かに武井さんは多数のCM、テレビドラマなどに出演している売れっ子女優だが、果たしてそのような契約になっているのだろうか?ハフポスト日本版は、芸能分野に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士に話を聞いた。河西弁護士によると、法的にも商習慣的にも、撮影を終えたCM出演をめぐって違約金が発生することは考えにくいという。

ーー武井さん側は、今回の妊娠で違約金を支払わなくてはいけないのでしょうか?

一般的に、CM出演にあたっては、芸能事務所と広告代理店が出演契約書を交わすことになります。その契約書の中では、確かに芸能事務所側が出演者の「イメージ保持義務」を課されている場合が多いと思います。

イメージが保持されない場合とは、例えば犯罪行為や、不倫などが含まれます。結婚や出産は、法的にもイメージダウンにあたるとは言いづらいですし、イメージ保持義務を怠ったとはみなされないでしょう。特に、旅行や保険などの会社にとっては、むしろプラスイメージなんじゃないでしょうか?

ーー「イメージ」の中に女優としての容貌や体型などは含まれないのでしょうか?

例えば水着の広告など、容貌や体型の変化があると著しく支障が出る場合には、裁判所が、事務所側の義務違反を認める余地はあります。ただし、CMは撮り終えている可能性が高いでしょうから、法的責任を負うようなことにはならないでしょう。

ーーデイリースポーツは「一般的にCMは契約書で、契約期間中の結婚や離婚、妊娠などが制限される場合が多い」とありますが、これは事実なんでしょうか?

「イメージ保持」以外に、契約の中で結婚や妊娠といった具体的な例を記載して制限する例が全くないかどうかはわかりませんが、少なくとも自分の経験からは多いとは思いません。「一般的」とまでは言えないのではないでしょうか。

ーー例えば、今回の場合、武井咲さんは製薬会社のCMに出演しています。妊婦が飲むことができない薬などの場合はどうでしょうか?

それは確かに出演者を変更する必要性が高いですから、裁判所が認める余地があるとは言えます。ただし、法律だけではなく商習慣も組み合わせて考えると、やはりその可能性は低いと思います。

ーー商習慣とはどんなものですか?

武井咲さんの事務所は大手です。広告代理店との付き合いも長く、幅広いため、この一件で揉めて違約金を請求するよりも、お互いにとってメリットがあるように、代役を立てるなり「おわび」として出演料の減額をするなどで対応するのが一般的です。

ーータレントと所属事務所との間で、恋愛禁止や結婚禁止などの契約を結ぶ場合もあると聞きます。その点についてはどうでしょうか?

確かに、アイドルではそのような契約を結んでいる例もあります。10代の女性のアイドルなどでは、清廉性が1つの商品価値としてみなされていることは事実です。

ただし、裁判になった例もありますが、違約金を支払ったという事例はほとんどないと思います。

武井さんは20代ですし、女優ですから、恋愛や結婚があったとしても全く不自然ではありませんし、タレントの権利を制限する契約が適法と認められることはないと思います。

ーーただ、タレントと事務所との実態としては不平等な扱いもあると聞きます。

現実問題としては、違約金ではないにせよ今回のような場合、出演料の値下げなどで事務所側に予定外の損益が発生する可能性がありますので、その分などについてタレントが今後の報酬から一定程度差し引かれる形で納得するという場合もなくはないようです。

人間関係によって、タレントには事務所に「干される」デメリットがありますし、迷惑をかけたという感情から不利益を甘受する傾向にあるようです。日本エンターテイナーライツ協会としては、今後のタレント、事務所、双方のプラスになるような解決になればと思っています。

河西邦剛弁護士プロフィール(レイ法律事務所

千葉県出身。東京弁護士会所属。早稲田大学法科大学院卒。芸能トラブル、エンターテインメント、知的財産、刑事事件、特商法問題などを扱う。芸能人の権利を守る日本エンターテイナーライツ協会の共同代表理事。