写真界の直木賞とも言われる土門拳賞。今年受賞したのがフォトジャーナリスト高橋智史さんの写真集『RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い』(秋田魁新報社)だ。高橋さんが、ジャーナリストの堀潤さんが司会を務めるネット番組「NewsX~8bitnews」の4月8日のゲストとして登場し、カンボジアの現状について語った。
同作は、カンボジアの強権政治に屈することなく闘い続ける人々の姿を伝えるものだ。受賞について高橋さんはこう喜びの言葉を語る。
「カンボジアを取材した15年間が、土門拳賞の受賞という形として結実し、とても嬉しく思います。何より、受賞を通して、見つめ続けてきたカンボジアの人々の願いがより多くの人に届けられることが嬉しい」
これまであまり伝えられることのなかった、カンボジアの現状とは一体どういうものなのか。そして日本にいる私たちにできることはあるのか。
「1993年から続いたポルポト政権の内戦以降、国際的な形で行われてきたカンボジアへの支援は、残念ながらまた一人の独裁者を生み出してしまいました。異を唱える人々、変革をフン・セン首相は恐れたのでしょう。2013年からそうした動きがとても高まっていた。18年の総選挙では、徹底的に与党・カンボジア人民党の権力基盤を守るために激しい弾圧を繰り返しました。一つひとつ積み重ねてきた民主が破壊されていくのを見せつけられるような時間でした」
野党は解体され、メディアが潰され、ジャーナリストが逮捕された。民主運動の先導を切っていた人たちも収監され、さらには暗殺の疑惑さえ起きた。民主主義の国へと国際社会が支援をしてきたつもりだったが、実際に行われたのは中国の支援を背景にした過剰な経済開発だ。
抗議の現場やデモの最前線で、歯をくいしばるような思いでシャッターを切った、と高橋さんは振り返る。
写真集の表紙となった写真は、カンボジアの平和運動の象徴であり、不当な投獄下に置かれながらも闘い続けた女性活動家テップ・バニーさんの写真だ。
「土地収奪問題に巻き込まれた女性の一人で、彼女の活動は土地問題を超え、フン・セン政権に対する変革の願い、闘いの象徴となりました。そんな彼女も2016年の8月、私の取材する目の前で投獄されました。捕らわれた人権活動家の釈放を求めるデモの最中で、彼女はその後2年間投獄された。この写真は投獄中の控訴裁判のワンシーンで、裁判を終えた後、再び刑務所に連れ戻される現場です。『私は権力の横暴には屈しない。子どもたち、強く生きなさい』と拳を振り上げて叫んでいる、その瞬間です。カンボジアの人々の声なき声を代弁しているような気がします」
他にも写真集には、正義を求め「平和の行進」を行う僧侶たち、政権と開発業者が結びつく土地の強制収奪問題に立ち向かう土地奪われし人々、暗殺された著名な政治評論家であり民主活動家であったケム・レイさんの姿なども収めされている。
その中から、18年の総選挙直後の1枚の写真について高橋さんが説明する。
「この写真は、フン・セン首相が投票をした直後の瞬間です。メディアを潰し、最大野党を解党し、市民社会への脅迫を繰り返し、抵抗勢力を一掃した中で断行された総選挙でした。80年以来の一党独裁体制をなし得た、その瞬間だったような気がします」
与党は定数125の全議席を得て圧勝したが、公正さに首をかしげざるを得ない選挙で、アメリカ、EU諸国は選挙支援から手を引いた。
総選挙後、現在の状況はどうなっているのか。
「国際的な批判の目をかわすために、テップ・バニーさん含め、活動家たちは釈放されています。ただし徹底的な監視下に置かれ、あれだけ勇気を持って立ち上がっていた活動家たちは、前のように活動ができない。そういう状況に陥っています」
日本からできることは何か。
「まず知ること、伝えること、広げていくこと。その一つひとつでしか問題解決につながっていきません。私ができるのは人々の願いを写真を通して伝えていくことにあります。人々の届かぬ願い、叫び、輝きを、ファインダーを通して伝え続けていきたい。そしていつの日か、カンボジアの地に人々の望む未来が訪れたとき、それをまた最前線で切り取っていきたいと思っています」
土門拳賞受賞作品展は、4月16~22日に新宿「ニコンプラザTHE GALLERY 1」、5月23~29日に大阪「ニコンプラザTHE GALLERY 」、9月27日~11月10日に山形県酒田市「土門拳記念館」で行われる予定だ。心に語りかけてくるような高橋さんの写真から、カンボジアの現実を感じてみてほしい。
【文:高橋有紀/編集:南 麻理江(ハフポスト日本版)】
堀潤さんがMCを担当する月曜の「NewsX」、次回は4月22日夜10時から生放送。番組URLはこちら