民進党のホープ「台南市長」が語る「台湾独立」問題

台湾では次期総統選の前哨戦と位置づけられる地方統一選挙を11月に控え、目下好調の野党・民進党がどこまで首長のポストや地方議員の議席を増やせるかが注目されている。
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インタビューに答える頼清徳氏(筆者撮影)

台湾では次期総統選の前哨戦と位置づけられる地方統一選挙を11月に控え、目下好調の野党・民進党がどこまで首長のポストや地方議員の議席を増やせるかが注目されている。現職の台南市長で、次期選挙にも再任を狙って出馬する頼清徳氏(54)は民進党の中堅のホープとされ、台湾の首長の中では最も高い施政満足度を誇り、市長の再任はほぼ確実と見られる。

 その存在がさらに脚光を浴びたのが、今年6月の中国訪問だった。市長として訪問した頼氏は、中国・上海で「台湾の未来を台湾の2300万人が決定することは台湾社会のコンセンサス」「台湾独立の主張が台湾社会に存在するから、民進党の党綱領に台湾独立条項がある」などと語った。これまで台湾の政治家の訪中では、対中関係を重視する国民党だけではなく、独立志向を持つ民進党ですら中国の反応を意識し、当たり障りのない発言に抑えることが普通だった。頼氏は未来の総統候補と期待される人材だけに、その発言は中台双方に大きな反響を呼んだ。先週来日した頼氏に「真意」などを尋ねた。

馬総統は執政能力が低い

――頼市長自身の選挙はほぼ勝利確実と見られていますが、台湾全体でも民進党は有利に戦いを進めているようです。

頼 選挙にはいつも自信を持つことが必要だが、開票までは絶対に安心してはいけないと心に刻んでいる。確かに現時点の世論調査や専門家の見方では、民進党に有利な状況が報告されている。市と県のトップは、(全22市・県のうち)民進党は現在6ポスト(筆者注・台南市、高雄市、嘉義県、宜蘭県、屏東県、雲林県)を取っているが、台中市、基隆市、澎湖県などでも期待が持て、台北市でも民進党が支援する無党派の柯文哲が互角以上の戦いを進めている。

――馬英九政権の支持率が低迷し、国民党が選挙で苦戦している理由をどう考えますか。

頼 馬総統は執政能力が低く、多くの問題が解決できないまま、途中で放置されている。例えば12年間の義務教育の導入は、馬総統は今年のスタートにこだわって押し通した。しかし、2012年ごろから私は馬総統に対し、「台湾社会では家族も教師も子供たちもまだ十分な準備ができてない。もっと周知徹底や情報の提供を行ってからでいいではないか」とアドバイスしたが、聞き入れられず、結果は大変な混乱が起きている。彼は民衆の生活にあまり関心がないのだろう。国を導く方向性がなく、執政能力がなく、民衆への感応力も低い。主にこの3つで支持率の低迷を招いている。

――頼市長自身は2016年の総統選挙に出馬する考えはありますか。

頼 現在、民進党は党主席から末端の党員まで党を挙げて地方統一選に向かって努力している。勝てば民進党に次への希望が生まれる。負ければ次はない。まずこの選挙に全力を傾けて戦うだけだ。

台湾の未来は台湾人が決める

――中国での発言が大きな反響を呼んだ。事前に言うと決めていた発言でしたか。

頼 上海の復旦大学に招かれ、座談会で交流を行ったとき、私は中国側に対して、この数年、両岸関係の往来はますます密接になり、民進党として対中政策の再検討を行って1つの結論として積極的に両岸(中台)交流に参画することを決めたことなどを説明した。そして、「両岸交流は立場の違いを恐れてはならず、恐れるべきは騙されること」だと話した。というのも、過去、連戦、呉伯雄など国民党の幹部たちは中国に行って中国の指導者と会っても、中国に迎合した意見ばかり語っていた。しかし、台湾社会が中国と同じ意見であることはあり得ない。これはペテンだ。自分たちの利益のために、台湾の人々に背き、中国を騙し、本当の台湾の状況を中国の人々に伝えていなかった。そのたびに台湾の人々は「我々の考えはそうじゃない」と不満に思ってしまう。

――その話に中国側から反論が出たという形だったと聞いています。

頼 復旦大学の校長は理解を示してくれたが、ある教授が「民進党が両岸交流をしたいなら先に党の台湾独立条項を処理(廃止や凍結)しないといけない」と言ってきた。私はこれに対し、こんな風に反論した。

 台湾社会において、先に民進党の台湾独立条項があり、後に台湾独立の主張があるのか、それとも台湾独立の主張が最初にあり、後に民進党の台湾独立条項があるのか。もちろん、後者だ。もし中国がこの点を理解せず、民進党に台湾独立条項を処理しろと言っても、民進党は台湾社会にすでに存在している台湾独立の主張を変えることはできない。これが私の語ったことだった。

――台湾社会の世論の主流は、台湾が中国とは別の、独立した1つの存在であるべきだということですか。

頼 その通り。しかし、中国はまだその点を理解していないし、中国に行った国民党の人々はこの点をしっかり伝えていない。台湾社会は長い時間をかけて一党独裁の歴史を克服してきた。歴史を元に戻すことはできない。私は統一か独立かという問題はあくまでも表面的な問題であり、核心は、台湾人2300万人が自らの未来をどのように考えるのか、という点に尽きると考えている。民進党は台湾前途決議文(注:1999年に民進党が採択)で2300万人の人民が台湾の未来を決めるべきだと主張しており、この点は国民党の馬総統も同意している。民主・自由・人権の理念にのっとり、我々台湾の民は自分の運命を自分たちで決定する権利を持っていることを中国には知ってほしい。

野嶋剛

1968年生れ。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、2001年シンガポール支局長。その後、イラク戦争の従軍取材を経験し、07年台北支局長、国際編集部次長。現在はアエラ編集部。著書に「イラク戦争従記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)。

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(2014年9月21日フォーサイトより転載)