6月26日深夜に放送が予定されていた、ジャーナリスト・田原総一朗さんが司会を務める討論番組「朝まで生テレビ!」で、出演を予定していた与党の国会議員が、突如、出演をキャンセルした。国会で安保法制の審議が進む中、議員の失言が政府にダメージを与えかねない、との判断があったとみられる。
このドタキャン騒動、そして安保法制をめぐる日本の防衛政策、日米関係はどうなるのか。ハフポスト日本版編集主幹の長野智子が田原さんに聞いた。
■「かなり自民党が追い詰められているということだね」
――26日深夜の「朝まで生テレビ」で、与党議員が急に出演をキャンセルしましたね。
あれは言ってみれば敵前逃亡だね。30人以上の若手議員に当たって、一度OKが取れた議員が「都合が悪くなった」というのが何度も繰り返された。最終的にOKだった議員も、当日、番組放送直前にキャンセルですよ。「体調が悪くなった」と言ってひっくり返った。僕は、文化芸術懇話会での発言が問題になったことが原因だと思っている。上に相談したら、出演はダメだとか言われたんだろうね。公明党も自民党が出ないなら出ないという。
――それについてどう思いますか。
自民党も公明党も国民に向かって説明しようと思ってないんだろうね。数の勝負で行けると思っている。強行採決して、60日ルールを使って通してしまおうと。
――こういうことははじめてですか。
はじめて。
――文化芸術懇話会での「マスコミを懲らしめるなら、広告料収入がなくなるのが一番」とか一連の議員発言はどう思いますか。
かなり自民党が追い詰められているということだね。(憲法学者の)長谷部恭男さんが今、政府が国会で通そうとしている安保法制を「違憲」と言ったでしょう。あれで潮目が変わったとか言われたけど、これ以上何かあったらまずいと。余裕があればこんなことしないもん。
――安保関連法案は、そもそも憲法違反という議論と、とにかく日本の国民の安全のために必要だからという、いわゆる政策論がごっちゃになってますよね。
今、入り口論だけなんですよね。安保関連法案が、憲法違反だっていうことは政府もよくわかってる。本当は憲法改正したかった。でも、そのまま憲法改正のために選挙をしたら3分の2は絶対に取れない。だから安倍さんは、改正手続きについて定めた96条そのものを改正して、過半数あれば改正できるようにしたかった。だけど、それをマスコミも学者も「裏口入学じゃないか」と批判してできなくなった。だから、彼としてはやむなく、憲法解釈を変えるという選択になったんですよ。
――やむなく。
もちろん。それから、なぜ今この安保関連法案をやらなきゃいけないか。これは政府は誰も言わないけど、僕はやっぱりアメリカの要請だと思う。中国が軍事費をどんどん増やしている。それから南シナ海で埋め立てをして、非常に強硬な手段で緊張を高めている。
それに対してアメリカは「日米同盟の強化でどうにかしてくれ」ということを言っている。その時に、日本は断れるのかっていうことだよね。断っても平気だって言ってるのは共産党だけでしょう?
――そうですね。「まずは憲法改正からなんです」とアメリカには説明できないものなんですか?
いや、改正できれば言うでしょう。でも、改正できないわけだから。
日本は大矛盾なんですよ。大体、今まで日本は自国の安全保障を考えたことがあるのかと。やっぱり日米安保条約でアメリカが日本を救ってくれるということで。たとえば猪瀬直樹は、「日本はディズニーランドだ」と言っている。
――どういうことですか?
管理とか警備は全部アメリカに任せて、中でゲームを楽しんでいると。核反対、核廃絶といいながら、日本はアメリカが核を持ち込んでいることは百も承知。アメリカの核の傘のもとで、核廃絶なんて本当に虚しいことで。今まで日本人は、そういう根本的矛盾に対して対応しようとしなかった。
じゃあどことも組まずに自己防衛ができるのか? と。誰もできると思ってはいない。自衛するには核兵器を持たなきゃダメだし、今の10倍くらい軍事力を強めなきゃいけない。「自分の国を自分で守れる」と思っているのは世界でアメリカと中国くらいのものでしょう。イギリスもフランスもドイツも、自分の国を自分で守れると思っていないから、NATOに入っている。これは完全な集団的自衛権ですよ。
――現在、賛成派は「自己防衛」のためであれば、極めて限定的な条件、新三要件をクリアすれば「違憲」ではないということですが、この「自己防衛」が曖昧です。
政府はアメリカの要請に応えたい、だけど憲法違反なのもわかっている。だから、逃げている。つまり、後方支援をすると言っているわけ。戦わないから大丈夫だ、と。しかし後方と前方って切り分けがあるのか? という問題がある。もっと言えば、戦争になったら敵が狙うのはむしろ前方じゃなくて後方だっていう見方もある。矛盾だらけの問題に、マスコミも野党も切り込もうとしないのよ。
■「批判するだけじゃダメ。対案がないと」
――切り込もうとするメディアもあるけど、不十分ですか。
25日の毎日新聞の社説でも「この法案を廃絶しよう」と言ってる。やめて、じゃあどうするの?
対案がないんだよ。たとえばこの前の選挙で、野党は全部、アベノミクスに反対と言うわけ。だから僕は野党のすべての党首に会って質問した。もしアベノミクスに批判するなら、じゃあカイエダミクスを言えよと。ワタナベミクスを言えよと。あるいはハシモトミクスを言えよと。どこも出てこない。対案がない批判なんていうのは通用しないんですよ。
メディアは権力を監視する機関だから、権力に批判的でいいと思う。でも、僕はある時に考え方が変わったんですよ。今まで、3人総理大臣を失脚させたわけだ。海部俊樹さん、宮沢喜一さん、橋本龍太郎さん。でも、こんなことやってていいのかなと思った。やっぱり相手に突っ込む時には対案を持たなきゃいけない。
――やめさせるだけでは無責任だと?
そう。僕もずっと批判すればいいと思ってたの。あるとき大新聞の幹部に「メディアもきちんと対案を出すべきだ」と言ったんだ。そうしたら「対案を出すとなると本格的に研究しなきゃいけない」って。時間も金も能力も必要だと。批判だったら楽だから、時間も金も能力もいらないと。そして、読者もそれを望んでいる、と。それはそうだな、と思ったよ。
――そうすると、憲法学者が違憲だと言った今の状況でも、田原さんはこの法案はもう通っても仕方がないな、という思いですか?
だから、通さないというのにリアリティがないんだよ。もっと本気の討論をすべきだと思っている。自民党に言いたいことはいっぱいある。僕はやっぱり、もう少しアメリカにきちんとモノを言えるようになるべきだと思う。
――結局、アメリカ側の押し付けで今回の法案ができている、という根本ですよね。
日本の場合は逆に押し付けられたがってるところがある。
――押し付けられたがっている?
たとえば、なんで有事の想定をするときに安倍さんの答弁に、朝鮮半島や中国でなくて、「ホルムズ海峡」っていうのが出てくるのか? あれ、中東ですよ。
調べてみたら、アメリカが2012年8月に「アーミテージ・ナイ・レポート第三弾」を出している。ここにはイランがホルムズ海峡を機雷封鎖した時には、日本が海上自衛隊を独自に出動させて、対応すると書いてある。つまり安倍さんは「アメリカの防衛戦略の中に、日本は組み込まれているからやりますよ」って言っているんだよ。押し付けられたがっているわけ。
湾岸戦争の時も同じ。日本は130億ドルを出しながら、自衛隊を派遣しなかった。そうしたらみんなが批判した。感謝の言葉の中にも日本は抜けていた。その時にアーミテージ(元国務副長官)が、「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」つまり「地上部隊をよこせ」と言った。それでPKOが行くことになった。つまり、押し付けられて進んでいるんだよ。
――アメリカと一体となって危機に対応しろ、というのは一貫していますね。
結局、「中身」の議論をしていないから、この「押し付けられたがっている」現状を理解できないんだよね。アメリカのレポートに書いてあるほど話が進んでいるのに、日本では憲法違反かどうかという、入り口の話しかしていない。
■「自衛隊自身が違憲だから」
――仮に法案が通らなかった場合、どういう影響があるでしょうか?
日米関係が悪化するでしょうね。それを一番恐れているのは日本政府じゃないの? やっぱり戦後70年、日本が戦争もしないで安全でいれたのは、日米関係でしょう。そのアメリカが、日米安保条約を解消すると言ったらどうするのか。
――それは困るから、違憲といえども、解釈でなんとかしようと。
――新三要件がついていれば違憲じゃないと。
いや、自衛隊がそもそも違憲だから。
だって、今の憲法ができた時日本は非武装ですからね。非武装前提の今の憲法が69年も続いているっていうのが異常な状態だよね。
――そうですね。そこは、戦後日本のグレーな部分。
社会党や共産党が反対するから憲法改正できなかったんじゃないと思う。自民党が反対だったんですよ、憲法改正に。
――なんと、自民党が。
この憲法があることが都合よかったんですよ。
――自民党というのは憲法改正が党是ですよね。
だけど自民党が憲法改正したくなかった。
――どういうことですか?
つまり、「弱者の恫喝」。この憲法があることを自民党は逆にうまく使ってきたんだよ。宮澤喜一、知っているでしょう? 彼は、「日本っていう国は自分の体に合わせた服を作るのが下手だ。でも、押し付けられた服に体を合わせるのが実に上手い」と。憲法のことを言ってるんですよ。この憲法は明らかに、GHQが日本に押し付けたんです。押し付けられた憲法に体を合わせるのが実に上手い、と。
たとえば、佐藤栄作内閣の時に、アメリカが「自衛隊もベトナムに来て一緒に戦ってくれ」と言ったわけ。アメリカの言うことは断れない。だから佐藤さんは「当然一緒に戦いたいと思う。でもあなたの国がくだらない憲法を作ったから、行くに行けないじゃないか」と、断る理由に使ったわけ。
小泉純一郎がイラク戦争が始まった時もそう。ドイツやフランスはイラク戦争に反対だったんだよ。そうしたらブッシュが「じゃあ自衛隊もイラクに来てくれよ」と言った。そうしたら小泉は「喜んで行く。しかしあなたの国がくだらない憲法を作ったから、行くと言っても水汲みにしか行けないよ」と。「弱者の恫喝」を使ってきたんだ。
■日本が取りうる対案、それは「弱者の恫喝」と「自衛隊法維持」
――今回はなぜそれを使わないんでしょう?
もっと上手く使えばいいのにね。
たとえば、集団的自衛権を法案で通しておきながら、行かないとかね。今まで、自衛隊の幹部たちに何度か僕の番組に出てもらったけど、幹部がみんな「今の法律じゃ自衛隊は戦えない」と言うわけ。なんで戦えないかわかる?
――憲法9条ではなく?
いや、憲法は関係ない。彼らが守らなければならないのは自衛隊法ですよ。
フランスとかイギリスの法律は、ネガティブ法なんです。「何々をやってはいけない」と条文に書いてある。逆に言うと、やってはいけないと決められた以外のことはなんでもやっていい。
でも、日本の自衛隊法はポジティブ法。「これはやってもいいですよ」と書いてある以外のことは全部やっちゃダメなわけ。だからポジティブ法では戦えない。
自衛隊は戦うためにネガティブ法にしたいわけ。僕はこれに反対。戦えない自衛隊だから平和なんだ、と。軍隊っていうのは戦えれば戦っちゃうの。そのために訓練しているわけだから。これはもう、戦争をしている世代はみんな知っている。
――「自衛隊法を変えない」「弱者の恫喝」といった対案ならば、憲法改正はしないほうがいいんじゃないですか。
安倍さんは憲法改正をした政治家だっていうことを、歴史に名を残したいんですよ。おじいさんの岸信介は、憲法改正したかったのに安保と心中しちゃったので、それをなんとか実現したいと思ってるんじゃないの?
それと、冷戦が終わったことが大きいね。冷戦が終わって状況が変わったわけだ。じゃあ日本の安全保障はどうするんだ、っていうことをまともに考えざるを得なくなってきた。だから「弱者の恫喝」じゃなくて、憲法改正をしたいんだ、と。
――憲法改正派はそう言いますね。世界の勢力地図も変わり、大量破壊兵器だとかサイバー攻撃だとか、冷戦時代とは全然事情が違うんだから、それに合わせて憲法も変えていかないとって。それは理解できます。
冷戦時代は簡単だったよ。日本にアメリカの基地を置いてやる。予算を付ける。それだけでよかった。何もしなくてよかった。
――自民党も、きちんと冷戦時代とは状況が違う、というのを国民に説明しないんでしょうか?
これは自民党の悪いところ。国民にはなるべく説明しない方が、由らしむべし、知らしむべからず、っていうのをずっとやっているね。原発もそう。「国民が知るとろくなことがない」と思ってるんだよ。
■「圧力? ないよ」
――今、自民党からのメディアに対する圧力って言われますけど、ありますか?
圧力? ないよ。あるわけない。だって、首相を3人失脚させてるのに、なんで僕に圧力かかってないのさ。おかしいでしょ。
自民党の圧力じゃない。テレビ局内ですよ。社内で「この方がいいんじゃないか」って自主規制しているんでしょ。
――わかります。たとえば田原さんが番組で発言したことに、「それは違うんですよ」とか、政治家が言ってきますよね。これは圧力じゃないですよね。
ぜんぜん。番組に出て向こうの言い分を話してもらえばいいだけだから。
野中広務さんが書いてるよね。「田原さんのお陰で何度も国会が混乱した」って。「せっかく金曜日に決着をつけても、日曜日にひっくり返してまた混乱だ」と。でも圧力はなかった。
麻生太郎が総理で選挙の時に、番組に出てきて「田原さんの番組に出て、何人失脚したか。私は何もいいません」と笑いながら言ってくれたよ。
長野さんも体験されてるけど、「朝生」は何も遠慮してないよね。
――「朝まで生テレビ!」は、本当に遠慮してないですね。毎月、プロレスを見ているみたいで。言葉の掴み合い。今のメディアに改めて、言いたいことはありますか?
別に言うことはないですよ。
――もう諦めた感じですか?
諦めてないよ。僕はやりたいことをやってるんだから。
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