コンテンツ・リコメンデーション(※)及び広告配信プラットフォーム業界で、世界トップ級のシェアを誇る企業「タブーラ」。
そのタブーラが、本国のアメリカで上場する。上場の狙いは一体どこにあるのか、GAFAとどう闘うのか、成長市場の日本での戦略などについて、CEOのアダム・シンゴルダ氏に話を聞いた。
(※)オープンウェブ(Facebookなどと異なり、ログインなどが必要ない開かれたウェブ)上で読者の興味関心や文脈を膨大なデータとAIによって、最適なおすすめ記事や広告を自動的に表示する技術とサービス。
タブーラは、なぜ上場するのか?
──上場おめでとうございます。タブーラはなぜ上場するのでしょうか?
アダム・シンゴルダCEO(以下、アダム): ありがとうございます。上場は、ここ数年念頭にあり、絶好のタイミングを見定めていたんです。上場することによって、ステークホルダーたちに対して、タブーラが市場に居続けることを伝えたいと思いました。
ジャーナリズムは、オープンウェブにフォーカスした強くて開かれた企業を必要としているし、また通常の広告主は、オープンウェブ上の最適なオーディエンスにリーチする力を持っていない。タブーラは、ジャーナリズムと広告主両者のために最善の解決策を提供するオープンウェブのロビン・フッド(救世主)になりたいのです。
──上場の背景について教えてください。昨年のOutbrainとの合併が破談になったことは関係していますか?
アダム:背景としては、上場に必要な資金力ができたことに加え、会社のマネジメントや企業文化が上場に足るレベルにまでに成熟したことがあげられます。OutbrainとのM&Aについては今回の上場の判断には影響していません。合併に成功していようといまいと上場する予定でした。
──今回、SPAC(特別買収目的会社)(※)を通じた上場を発表しましたね。どのような経緯なのでしょうか。
アダム:SPACに決めたのはION Acquisition Corp.という素晴らしいパートナー企業と出会ったからです。IONと合併をして、上場を実現します。IONのCEOであるギラッド・シャニー氏には上場後に役員としてタブーラに加わってもらう予定です。正しい決断とは大体人にまつわること。今回の上場でも最適な人々を選んだと思っています。
(※)SPACは特別買収目的会社と呼ばれ、あらかじめ上場して資金調達を行い、買収先を探す形態の会社。今回、タブーラはSPACであるIONと合併して上場する。ちなみにSPACは日本ではまだ認められていない。
躍進するタブーラ
──タブーラの企業価値は26億ドル。どうやって算出したのでしょうか?
アダム:取引銀行、SPACのスポンサー、投資家などと議論し、また市場価格を見て適正な価格を見定めました。26億ドルは、今後一緒に成長していきたい株主や投資家にとっては、フェアで適正な価格だと思います。
長期的にみれば、現在のタブーラの時価総額自体より、ここからどこまで成長させられるかが重要だと考えます。
──今年の計画では大きな収益を見積もっていますが、どう達成するつもりですか?
アダム:タブーラの特別な強みは、リコメンデーション・エンジンに特化した会社であるということと、オープンウェブに注力しているということです。
従来の広告ソリューション企業は、広告主・ファーストの態度を貫いてきましたが、タブーラはパブリッシャー・ファーストの会社。タブーラは広告スペースのShopify(※)のようなもので、読者数、エンゲージメント、そして収入の増加を促すサービスと技術を提供しています。
過去3年間で20億ドル以上をパブリッシャー・パートナーたちにお支払いしました。これはタブーラとパブリッシャーたちのwin-win文化の表れだと思います。オープンウェブは巨大なマーケットであり、あらゆるところでタブーラのリコメンデーション・エンジンを見ることになるだろうと期待しています。
現在、タブーラは様々な分野からの収益で成長しています。広告主をはじめ、多額の投資をしているAI、加えてEコマース、ビデオ、コネクテッドTVなどがあげられます。今後も新しい分野への挑戦を通じてさらに成長するでしょう。
(※)カナダ発の本格的なネットショップが開設できるECプラットフォーム。
日本はモバイル・ファーストな市場
──日本におけるタブーラの成長機会にはどういったものがありますか?
アダム:まず、日本がアジアパシフィック地域最大の市場だということ。そして、日本は、モバイル・ファーストな市場であるということ。タブーラの日本におけるリーチのうち77%はモバイル(スマホ)を通じたものです。
そのため、日本では特に活発になっているモバイル上でのビデオ広告(現在タブーラが日本で最も力を入れている)や、最近ローンチしたSNSでお馴染みのストーリーズ機能など、これまでモバイル向けに成功しているサービスは全て投入したいです。
また、日本ではタブーラ・ジャパンのオフィスを2016年にオープンし、さらに昨年より日本のビジネスを牽引するリーダーのマコト(石井眞氏)にもタブーラに参画してもらっています。現在、日本だけで毎月200億にのぼるリコメンデーションを提供していますし、ビデオ広告量およびパブリッシャーのPV数は前年比で倍増しています。
最近ではたとえば、NTTドコモのdmenuニュースやau Webポータルといった国内の大手携帯キャリアのニュースサイト様と新たにパートナーシップを結び、日本市場におけるさらなる起爆剤になると思っています。
──他に日本ならではの特徴はありますか?
アダム:広告の質とブランドの安全性は、パブリッシャーと広告主にとってますます重要なものになっています。タブーラはそこに時間とお金をかけて、安全性を担保することにコミットしているのです。現在グローバルのコンテンツ監視に70名の専門スタッフが従事しており、週に50万のページをレビューしています。特に日本はブランドの安全性と広告の質に関して世界一厳しい市場ですが、タブーラの厳格なコンテンツポリシーは日本市場に最もマッチすると自負しています。
──日本における短期・中長期の戦略は?
短期的には、パブリッシャーの有料会員やメール登録会員の増加、またTaboola Newsroomによる編集スタッフへのサポート、そしてタブーラのAIエンジンによるユーザエンゲージメント強化やフォロワー数増加に貢献することでパブリッシャーを支えます。
また、中長期(5年くらい)的には、Eコマース、ビデオ配信サービス、ゲームやアプリ、コネクテッドTV、ニュース配信などに投資していきたいと考えています。
GAFAが強い日本市場で…
──GoogleとFacebookのような企業をどう思いますか?タブーラにとって脅威なのでしょうか?
アダム:タブーラとGoogle、Facebookのような企業との大きな違いは3つあります。
まず、1つ目。GoogleやFacebookは、パートナーに尽くすべきか、自分たちの利益を優先すべきか、常にアイデンティティの危機にさらされている。タブーラには、パートナーか自社かというような選択はないのです。なぜなら、パートナーの成長なしには、自社も成長しないからです。
2つ目の違いは、タブーラは金儲けよりもオープンウェブの強化を優先しているということ。さらに3つ目にパートナーとの関係を最優先する文化が根付いていることです。タブーラのマネジメントチームはもう十数年も共にいて、パートナーたちから厚く信頼されています。
これらの強み(違い)は、日本も含めてグローバルにも通用すると思います。GAFAのような巨大企業に支配されない自由なオープンウェブは、世界中で必要とされているのです。
──タブーラ・ジャパンの強みは何でしょうか?
アダム:タブーラは多様性を大事にしており、日本市場のために働いている25人程の従業員のうち、60%が女性で、40%が男性です。そして、さらなる日本市場の成長に貢献する新たな多様な人材を複数のポジションで募集しています。
また、多様性と合わせて、ローカルな市場理解がとても重要だと考えています。そのためには協働や多様性を支持する文化を持つことが大事なのです。日本に拠点があることはとても重要なものの、それだけでは不十分で、異なる意見を喜んで聞く協働の文化がなくてはいけないと考えています。
──最後に、日本のチームを強化するプランについて教えてください。
アダム:日本チームのさらなる増員については明確な定員はありません。日本の市場で成長するために、可能な限り多くの人材を採用したいと考えています。そして、市場、パブリッシャー、記者たちと近い距離を保ち、日本のパートナーのニーズにすぐに対応できるようにすることが重要です。
また、姿勢としてアグレッシブながらも、謙虚でいることが大事。 アグレッシブに動くが、同時に異なる声に謙虚に耳を傾けるべきだと思います。
そして、今回の上場は決してゴールではなく、新たな始まりだと考えています。
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上場を機に、日本市場にこれまで以上に力を入れるタブーラ。圧倒的な力を持つGAFAに対して、オープンウェブの世界をどこまで拡大できるのか。今後の動向に、ますます目が離せなくなりそうだ。
(インタビュー/中尾有希 編集&文/ハフポスト日本版 Partner Studio)