シリアでの化学兵器使用疑惑に関して9月16日、国連がサリン使用を断定した。しかし安全保障理事会での廃棄に向けての決議に至るには欧米各国とロシアの間で曲折が予想される。また、トルコがシリアのヘリを撃墜するなど、依然としてシリア周辺は不安定な状態が続いている。
国連は9月16日、シリアの化学兵器使用に関する調査報告書を公表。8月21日にダマスカス近郊で起きた攻撃で神経ガスのサリンが使用されたと断定した。化学兵器を使用したのがアサド政権か反体制派かについては言及していない。ロイターが伝えた。
朝日新聞デジタルによると、報告書は、8月21日に化学兵器を用いた攻撃があったダマスカス近郊を調査したところ、「子どもを含む一般市民に対して化学兵器が比較的大規模に使用された」と指摘。目撃者の話や、現場周辺の土壌や被害者の血液などを分析した結果、ロケット弾に搭載されたサリンが使われたと断定した。
調査団に化学兵器を使用したのが誰かを判断する権限はない。しかし、化学兵器使用の事実を国連が確認したことで、安全保障理事会での決議採択など、廃棄に向けた動きが加速しそうだ。
NHKニュースによると、潘基文(パン・ギムン)事務総長は声明の中で「化学兵器の使用は明らかな戦争犯罪で国際社会は厳しく対処する責任がある」としたうえで、シリア政府に対し保有するすべての化学兵器の廃棄を迫る安保理決議の採択を急ぐべきだと訴えた。
ただ、決議の文面を巡っては、欧米各国が「義務を履行されなければ軍事行動も含めた強い措置をとる内容」を記載すべきとする方針なのに対し、ロシアは「慎重な表現にとどめるべき」と求めている。採決までにはなお曲折が予想される。
国連でシリアでサリンが使用されたことについて、国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチなどで次のような見解が出されている。
「国連調査団は、ヒューマン・ライツ・ウォッチが発見したように、シリア政府だけがロケットと大量のサリンを所有しているということが判明したと強調している」ケネス・ロス(ヒューマン・ライツ・ウォッチのエグゼクティブ・ディレクター)
「2つの分散された場所でロケットがサリンをまき散らしたことを国連が確認したことについて、ヒューマン・ライツ・ウォッチがコメントを発表」アンソニー・バーク(オーストラリアの作家、国際関連の大学講師)
■ 化学兵器施設は45カ所 アメリカ国務省高官が推定
アメリカのケリー国務長官は16日、イギリス、フランス外相との共同記者会見で「アサド大統領が期限までに国連決議の枠組みに従わない場合、同国は間違いなく報いを受けるという考えで誰もが一致している。これにはロシアも含まれる」と述べた。
MSN産経ニュースによると、アメリカの国務省高官は記者団に対し、シリアの化学兵器関連施設がアサド政権支配地域に45カ所あると推定していると述べた。45カ所のうちの約半数に、利用可能な状態の化学兵器が保管されている。また高官は、反体制派が主張する化学兵器の隣国移送は行われていないとの考えを示した。
■ ラブロフ外相「シリア反体制派も和平協議参加を」
ロシアのラブロフ外相は16日、「まず反体制派を説得する必要がある」とした上で、反体制派に和平協議への参加を「強いる」という別の表現を使い始めるときかもしれないと述べた。具体的な方法には言及しなかった。
また、国連憲章7章に基づき米ロ合意を支持する安保理決議を早急に採択するよう求めた欧州の要請について、合意内容を「理解していない」と批判した。同7章では武力行使を決議に盛り込むことも可能となる。
■ トルコ軍、シリアのヘリ撃墜 トルコ副首相、領空侵犯と主張
ロイター通信によると、トルコのアルンチ副首相は16日、シリアのヘリコプターが同日、トルコ領空を侵犯したためトルコ軍機が撃墜したと述べた。
アルンチ副首相は、ヘリが同日午後2時20分(日本時間同8時20分)ごろ、トルコ領空に約2キロ侵入したと主張した。ヘリはシリア領に墜落したという。
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