紛争で国を追われた数百万人のシリア難民を巡り各国が対応に苦慮するなか、仏カレーの難民キャンプに『難民スティーブ・ジョブズ』のグラフィティが現れ話題を呼んでいます。
描いたのはメッセージ性の強いグラフィティで知られるアーティストのBanksy。シリア人の父とドイツ系アメリカ人の母のあいだに生まれたジョブズを難民として描くことで、難民・移民は社会を脅かす害悪であり排斥すべき、といった論調に物申すことを狙ったようです。
英国を拠点に活動する Banksy は、本名・年齢・出身地などすべて非公開の覆面アーティスト。公共物への落書きに留まらず、意表を突いたゲリラ的発表方法とメッセージ性の強い作風で知られています。
有名な「作品」は、大英博物館やMoMAといった博物館・美術館に一見それらしく、実はメッセージ性を含んだ自作を気づかれぬよう勝手に展示したり、ヨルダン川西岸地区の分離壁に穴を描くなど。
フランス・カレーのシリア難民キャンプの壁に描かれた今回の作品は、Banksyの公式サイトでもすでに公開されています。キャプションは「シリア移民の息子」。
スティーブ・ジョブズ の父 アブドゥルファタハ・ジョン・ジャンダリ氏はシリアの裕福な家に生まれ、留学生としてウィスコンシン大学で学んでいた際に、ジョブズの母となるジョアン・シーブルと出会っています。
ジョブズが「移民の子として生まれた」かは微妙なところですが、ジャンダリ氏はそのまま米国に移住していることから、「移民の息子ジョブズ」は間違ってはいない表現です。
(余談ながら、ジョブズの生みの母はその父親(つまりジョブズの母方の祖父)に「相手がイスラム教徒のシリア人だから」という理由で結婚を許されなかったため、生まれてすぐの息子をポール&クララ・ジョブズ夫妻へ養子に出しています。このためスティーブ・ジョブズ本人は生物学上の父が誰かも知らないまま米国人家庭に育ちました。移民や難民の子として苦労したわけではありません)。
なおBanksyといえば、ディズニーランドの荒涼としたパロディテーマパーク Dismaland でも話題になりましたが、取り壊し後はスタッフと資材をフランスに送り難民のためのシェルター Dismal aidを建設するなど、一貫して難民支援の姿勢と行動を示しています。
一方、「移民の子」ジョブズの後を継いでアップルのCEOに就任したティム・クック氏も難民への支援を呼びかけており、社としても赤十字への多額の寄付や、iTunesなどサービスを通じたチャリティ企画を実施しているのはご存知のとおり。
ティム・クックはLGBT雇用差別反対や環境への取り組みなどにより今年のロバート・F・ケネディ人権賞を受賞しましたが、そのスピーチでも「(...) どこで生まれたかというだけで、戦争の被害者が今度は(米国で) 恐れと誤解の被害者となっている」と、シリア難民への強い支持を表明しています。前CEOをネタにしたグラフィティ活動家と思いは同じようです。
(2015年12月12日 Engadget 日本版「シリア難民キャンプに『難民スティーブ・ジョブズ』出現。著名グラフィティ作家 Banksy が描く」より転載)
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