2013年、シリアの景色は既に荒涼たるものだった。しかし、紛争が4年目となった2014年、状況はさらに深刻化した。20万人が亡くなり、100万人が負傷、300万人が国外へ逃れ、700万人余りが国内避難民となった。近年最悪の紛争がいかに悲惨かを表している。500万人の子どもを含む、全人口の半数以上が何かしらの人道援助を必要としている。暴力が勢いを増す一方で、援助はますます手の届かないものになっていく。ニーズの高まりに支援体制は応えられていない。シリアは今も世界で最も危機的な人道問題だ。
2014年も国内各地で無差別爆撃が続き、アレッポなど一部の都市で激化。タル爆弾は同市を事実上、無人の町へと変えた。反体制派支配地域の特定が困難なため、多くの場所が巻き添えとなり、その破壊の規模は、第二次世界大戦や、1990年代のチェチェン紛争におけるグロズヌイ市のほかに比べようがないほどだ。多くの住民がやむなくトルコや、連日の爆撃による被害が大幅に少ない「イスラム国」の支配地域に避難している。また、一つだけある通過地点を抜け、政府の統治地域に入った人も相当数いる。
アレッポ市では2014年7月だけで少なくとも6つの病院に爆撃やその影響が及んだ。悲報で有名になってしまったダル・アル=シファ病院など、一部の施設にとっては4回目の被害となった。市内の中核施設の1つであるサクル病院はこの夏、3回の爆撃を受けた。8月2日には空爆で西部のアル・フダ病院が壊滅し、医師・看護師合わせて6人が亡くなり、患者を含む15人が負傷した。英国の慈善団体「SKT Welfare」の設置した同病院はシリア北部で唯一、神経外科医療を行う病院だった。MSFの施設も爆撃を免れず、前線に近い市近郊の病院が直近数か月の間に3回損壊している。
保健医療体制は崩壊。はしかとポリオの流行が子どもたちを容赦なく襲い、公衆衛生の衰退を示している。内戦が長引き、地域人口とともに新たな負傷者の数も減少しているため、保健上の優先事項も変化していく。今も地元にとどまる人びとの苦悩は、保健医療・経済・社会システムや家庭の崩壊にある。中期的に見て暴力が減っているとしても、基礎的なニーズは膨れ上がり、健康問題がシリア全土で悪化・拡大している。生き抜こうと懸命な人びとに、MSFを含む人道援助団体が最低限の援助も届けられていないことは疑いない。暴力だけでなく、感染症や、本来はワクチンで予防可能な病気にも犠牲を強いられ、慢性疾患に苦しみ、女性たちは過酷な環境で子どもを産み、心の健康も損なわれている。
難民となった人びとの存在は、受入地域の住民と、受入国の保健医療システム・福祉・労働市場などに前代未聞の負担を強いてきた。人口約1800万人を擁するイスタンブールのような雑多な都市でさえ覆い隠せないほど、シリア人の移入は大規模だ。ヨルダンとレバノンの状況はさらに悪く、難民の数は対人口比で20%にも及ぶ。イラクを選んだ難民の不運ははなはだしく、ここ何ヵ月かはシリア国内と同様の紛争に巻き込まれている。
こうした惨状が行き着いた先に、繰り返しうたわれるひとつの一般論がある。公にはあまり語られないが、いずれの陣営の勝利も見込めず、また、望ましい結果は得られないというものだ。失意と恥辱だけが残ったのだ。多国籍軍による爆撃も民間人の命を奪い、窮地の人びとの目にはタル爆弾の無差別投下だけでも阻もうという救いの手さえ見えない。恥ずべきことに、3年に及ぶ紛争で欧州の保護した難民の数は、レバノン、ヨルダン、トルコが1日に保護する数よりも少ない。恥ずべきことに、安全性の低い小舟へと大勢で乗り込む危険な地中海渡航も、"そのままさせ続けて犠牲者が増えれば"、そうしたシリア人の試みも止まるだろうという政治家がいる。恥ずべきことに、国際社会が反応を示すのは、化学戦の禁止条約やイラク北部の石油利権への脅威など、自らの利害にかかわるときのみだ。人道援助団体に責任が丸投げされる以外に、シリアの民間人が受けるにふさわしい対応はないとでもいうのだろうか。
アイトール・サバルゴヘアスコア
国境なき医師団(MSF)シリア活動責任者
※本稿はスペインのボセント社によりスペイン語版で初公開された。
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国境なき医師団(MSF)は、紛争や災害、貧困などによって命の危機に直面している人びとに医療を届ける国際的な民間の医療・人道援助団体。「独立・中立・公平」を原則とし、人種や政治、宗教にかかわらず援助を提供する。医師や看護師をはじめとする海外派遣スタッフと現地スタッフの合計約3万6000人が、世界の約70ヵ国・地域で活動している。1999年、ノーベル平和賞受賞。
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