連合北海道 ダイバーシティシンポジウム 「弱み"を 強み"に! あらゆる人材が戦力になる」

「大事なのは、できないことではなく、できることは何かを考えること」
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シンポジウムのゲストたち
連合

連合北海道から、シンポジウム取材の誘いがあった。テーマは「ダイバーシティ」。国籍、年齢、性別、障がいなど、さまざまな違いをもつ多様なメンバーを積極的に受け入れようという考え方だ。就労困難者支援の専門家として全国を飛び回る、NPO法人FDAの成澤俊輔理事長が講演。成澤理事長は、「世界一明るい視覚障がい者」をキャッチフレーズに、障がい者雇用分野の当事者・福祉の専門家・経営者という3つの立場を生かし、日夜奔走しているそうだ。さらに、障がい者雇用を積極的に実践するトーワラダンボール(株)の大場勝博代表取締役を交えてトークセッションを行うという。取材してみると、まさに今、みんなに伝えなければという内容だった。(文責・編集部)

基調講演「大丈夫、働けます」

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成澤俊輔 (なりさわ・しゅんすけ)

NPO法人FDA理事長

網膜色素変性症のため、20代前半で視力を失う。大学在学中に2年間ひきこもるが、克服し経営コンサルティング会社でのインターン経験などを経て、2009 年に独立。2011年、就労困難者の就労支援と雇用を創造するNPO法人FDA(Future Dream Achievement)事務局長に就任。2016年より現職。

今日、僕は、たった1つのことを伝えたいと、ここに来ました。それは「大丈夫、働けます。どんな人にも必ずその人に合った仕事があります。誰でも、絶対に社会の中で当たり前に働くことができます」ということ。

 FDAが運営する、就労移行支援事業所、就労継続支援B型事業所には、現在約80名の利用者がいます。車いすの人、耳が不自由な人、目が不自由な人、知的障がいの人、精神障がいの人、発達障がいの人、難病の人、LGBTの人、薬物依存の人、犯罪歴がある人、自己破産している人、ひきこもっている人、いろんな人たちがいます。FDAは、そんな人たちの「強み」を探し出し、長く働き続けられる職場につなげています。

仕事や働き方を選べるように

 実は、「弱み」と「強み」は表裏一体なんです。アメリカのある会社では、ダウン症で読み書きができない人が社長秘書をしています。仕事は機密書類をシュレッダーにかけることで、年収は800万円。読み書きができる人なら、機密保持の契約を結んでも、ついチラッと見たものをポロリと漏らしてしまうかもしれない。だから、読み書きができないことは、この仕事において大きな「強み」なんです。

 発達障がいで、こだわりが強く、過集中で、細かいことが気になる。そのために職場で孤立し、仕事を転々としてきた人は、今、口コミサイトの誹謗中傷をチェックする仕事をしています。その特性が「強み」になっているんです。長期間ひきこもっている人は、ゲームやパソコンが得意でタイピングが速い。データ入力や画像編集の仕事では即戦力です。

 現在、就労困難者支援施設は、全国に約3000法人ほどあり、約40万人が利用していると言われていますが、仕事内容は、パンやクッキーの製造、組立、清掃などが定番です。親御さんは、「働ける場所があるだけでも幸せ」とよく言います。でも、FDAは、就労困難者の仕事や働き方の幅をこれまで以上に広げていきたいとさまざまなチャレンジをしています。

 ある会社から、福利厚生として社員に朝食を提供したいという相談がありました。朝7時半から午後2時半まで5人のチームをつくり、朝食準備とオフィス清掃をしています。通勤ラッシュに耐えられない人にはぴったりの仕事です。

 京都市では、伝統産業と福祉の連携による雇用創出に取り組んでいます。朝礼やタイムカード、会議やマニュアルが苦手という人には、伝統産業の「見て黙って覚えろ」という現場が合っています。高知県では地域の就労困難者を「10日間でテレワーカーにする」という研修プログラムを実施しています。

 FDAは、企業に就労困難者のための仕事を切り出してほしいというお願いは一切しません。社員の負荷が高い仕事や余裕があればやりたい仕事を聞いて、マッチングを考えます。

長く働き続けられるように

 具体的な就労支援は、生活リズムをつくるところから始め、お仕事トレーニングを体験する中で適性を見つけていきます。自分に合った仕事がわかったら、今度は会社選び。FDAには、活動や理念に賛同してくれているたくさんのパートナー企業があります。そこから就職先を探し、定着支援も行います。FDAは、一カ所ですべての支援を提供する「オール・イン・ワン」の施設であることが大きな特徴です。

 パートナー企業については、1業界1社ルールを設け、多様な人材の活用ができるより良い会社づくりに一緒に取り組んでいます。これまでの経験から、経営者や組織のリーダーは、答えのない苦しみを抱えていることを知りました。その苦しみに寄り添い、社員や部下に「大丈夫」と言えるようにしていきたいと思っています。

 幸せな組織の共通点は、「ありがとう」「ありのまま」「なんとかなる」「やってみよう」という4つの言葉が使われていることだそうです。「働く」現場が、誰にとっても「自分が自分らしい」と思える場になるよう、これからもチャレンジを続けていきたいと思います。

トークセッション「多様性を受け入れれば、会社も社会も成長する」

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ゲスト

成澤俊輔(中央) NPO法人FDA理事長

大場勝博(右) トーワラダンボール(株)代表取締役

ファシリテーター

西村正樹(左) DPI(Disabled Peoples' International)日本会議副議長

5S活動の「責任者」に

西村 大場さんの会社では、積極的に障がいのある方を雇用されています。その経緯について、ご自身の紹介も含めて報告いただけますか。

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西村正樹氏

大場 私は農家の生まれですが、減反政策で米が作れなくなり、学校を卒業して働きに出ました。その後、独立して運送会社を経営したんですが、規制緩和で立ち行かなくなり、1978年にダンボールの印刷・製造を行うトーワラダンボール(株)に入社しました。その数年前、包装材としてダンボールの需要が急拡大する中で、当社は札幌市の手稲工業団地に工場を新設移転しました。その時、何か地域に貢献したいと始まったのが、養護学校の実習生受け入れです。当時の現場は「職人気質」が強く、障がい者雇用には猛反対でしたが、障がいを持った子どもたちと、一緒に働いたり食事をしたりする中でだんだん理解が広がりました。また、先代の社長夫人が福祉関係の仕事をしていて、障がい者雇用に熱心だったこともあり、1985年に初めて知的障がいのある人を正式に雇用したんです。

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大場勝博氏

 最初は試行錯誤の連続でした。ストレスがたまると、大声を出したり、機械を叩いたり...。心を開いてくれるまで相当時間がかかりましたが、互いにコミュニケーションがとれるようになると、本当に大きな戦力になってくれて、今は勤続33年の大ベテラン社員です。

西村 コミュニケーションで工夫されたことは?

大場 健常者と障がい者の壁をできるだけ取り除こうと心がけました。飲み会や旅行の時は常に一緒にいる。通勤の行き帰りには一緒に電車に乗る。そういう時間を積み重ねて心が通うようになりました。現在、4人の障がい者が働いていますが、整理・整頓・清掃・清潔・躾の「5S活動」において、必ず何かの「責任者」になってもらっています。例えば「照明を消す責任者」といった役名をつけることで戦力になってもらっています。また、検品作業でも「強み」を発揮してくれています。

成澤 共感することがたくさんあります。FDAは、飲食店に仕込み専門チームを派遣していますが、働きづらさを抱えた人たちが入ることで職場が変わっていく。暗黙の了解だったことが、言ってあげないとわからない。でも、それは悪いことではない。職場でいろいろな配慮や工夫がなされ、それが社員満足度を高め、顧客満足度の向上にもつながっているんです。

西村 人口減少社会を迎え人手不足が深刻になっていますが、同時に一人ひとりがその力を十分発揮した働き方ができているのかということも問われています。困難を抱えた人とともに働くことで周囲の人たちの力も引き出される。ダイバーシティには、そういうエンパワーメント効果もあるんですね。

成澤 その通りです。多様な人たちが集まると、組織には個々の強みを見い出し、それを生かそうとする力が働いて、組織全体の生産性が上がっていくんです。これは、私のこれまでの経験から自信をもって言えることです。

大場 企業とは、地域とともに在り、地域に貢献できる存在でなければならない。そう考えて、障がい者雇用を進め、その能力を適正に生かした配置やコミュニケーションを工夫してきましたが、それは、職場全体の働きやすさや生産性向上にもつながっていると感じます。

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「できないこと」ではなく、「できること」を考える

西村 成澤さんに会場からの質問です。地方公共団体では、障がい者について特別枠の採用試験を実施していますが、口頭面接や活字印刷物に対応できるなどの要件が付けられてきました。こうした欠格条項をどうお考えですか。

成澤 実は、欠格条項は、10年前に僕が大学で研究したテーマなんです。欠格条項をなくせば、その仕事に就く障がい者が増えるのか調査しましたが、それだけではほとんど増えなかった。欠格条項の見直しが進んでいることは歓迎しますが、教育体制や受験環境の整備と合わせて進めなければいけない課題だと考えています。

 大事なのは、できないことではなく、できることは何かを考えること。今、「在宅」ならぬ、「在院ワーク」も始めています。まばたきと指先を少し動かすことができる難病の人が、病院のベッドでホームページをつくる仕事をしています。入院していても働けるんです。

 ヤンキーの若者を訓練して社会に送り出す「ヤンキーインターン」の会社や、少年院・刑務所の出所者の就労支援をする会社も、ちゃんとビジネスとして成り立っています。「軽犯罪2回までならOK」と書かれた求人フリーペーパーを見て感動し、私たちにできることは、まだまだたくさんあるんだと思いました。

西村 十人十色という言葉がある通り、一人ひとりがいろいろな「強み」を持っている。それを引き出しながら、組織全体のパワーを高めていく。それがまさにシンポジウムのテーマである「ダイバーシティ」ということですね。今日は、ありがとうございました。

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SDGs応援ソングを歌うJICA北海道の野吾奈穂子さん

感動が、"つながる共感運動"へ

今回のダイバーシティ・シンポジウム。主催は連合北海道だが、後援には、北海道労働局の他、自治体、教育委員会、経営者団体、社労士会、労働・福祉団体など18もの団体が名を連ねている。300名の参加者のうち半数以上は労働組合関係者ではない。どんな経緯で実現したのか。仕掛け人の齊藤勉連合北海道副事務局長に聞いた。

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齊藤 勉

連合北海道副事務局長

 連合北海道では、今年2月から地域FMのラジオ番組『ワークライフシナジー』を始めました。コンセプトは、その名の通り、働くことと生活の両方を相乗効果で高めようというもの。毎週月曜午後7時から60分の放送で、私がメインパーソナリティを務めながら、労働局や地元経営者団体の人たちに準レギュラーで出演してもらっています。

 そのつながりで、中小企業家同友会会員の(株)北翔の清水社長から、FDAの成澤理事長を招いての障がい者雇用研修会に誘われたんです。話を聞いて感動と共感の涙が止まらなかった。だって、FDAが取り組んでいる就労困難者支援は、まさに連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」の1丁目1番地だったから。あっというまに成澤さんと意気投合して、今回のシンポジウムが実現しました。

 せっかくだから、組合関係者だけでなくたくさんの人に話を聞いてもらいたい。そこで就活応援セミナーやラジオでお世話になっている団体に声をかけました。そうしたら後援団体が18にもなったんです。その時にキーワードにしたのが、SDGs(国連持続可能な開発目標)。目標8「働きがいも経済成長も」は、すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進しようというもの。誰一人取り残されないために、企業や社会、そして私たち一人ひとりのあり方を問い直すことを求めている。そこで、SDGsを地域全体で実現していくために、その課題を共有しようと呼びかけたんです。札幌市はSDGsの推進都市に選定されていることもあって以前ラジオ出演していただいた秋元市長は開催地挨拶を引き受けてくれました。同じくラジオ出演してくれたJICA北海道で働く野吾奈穂子さんはSDGs応援ソングを披露してくれました。

 閉会に当たり、後援団体を代表して北海道経済連合会の百瀬常務理事が「企業は今後も行政、教育、労働組合、家庭と協力して障がい者雇用を推進していきたい」と締めくくっていただきました。さらに初めての経験ですが、シンポジウム終了後に私に泣きながら駆け寄り「参加して良かった」と言う方、障がい者の家族の方が「背中を押していただきました」と号泣して握手を求められ私もついポロリで周りの方々はもらい泣き。

 労働組合の運動にはもっと感動と共感が必要です。感動が共感を呼ぶ。感動がつながるような共感運動をこれからも取り組んでいきたいと思います。