スイスとフランスで最近起きた出来事が、多方面で画期的とも言える強い政治的メッセージをもたらした。5月21日にソブリン(スイスでは有権者という意)が新エネルギー法の是非を問う国民投票で、賛成58%という歴史的な決断を下した。これはスイスの一人あたりの年間エネルギー消費量を半減させることを目標とする「エネルギー戦略2050」を施行可能とする。新エネルギー法は、原子力と化石燃料の使用を次第に減少させ、再生可能エネルギーへ移行させる。
この決断の環境保護や経済的意義に劣らない重要なことは、政治的であり、その決断に至るまでのプロセスや立役者となった人々の人柄である。「エネルギー戦略2050」は学界で生まれた科学的ビジョンが利害関係者を含む国、議会、そして有権者へ幅広く受け入れられる政策となる経路の可能性を物語る特異事例である。
1998年、2つの大学と4つの研究機関を含めたスイス連邦工科大学(ETHドメイン)は、根本的に新しいエネルギー戦略である2000ワット社会のシナリオを生み出した。
また、ETH ドメインは、国と議会に政策提言を提供し、それらの提言に基づいて国は、社会のあらゆる関係者と議論を重ね、協議会を開いた上で、メディア機関と国民と共に活発な議論を行った。
こうした協議に基づいて、新エネルギー法は適切に修正され、スイス国民党を除くすべての政党によって承認された上で、スイスの国民にその是非の判断を委ねることになった。
この勝利に関しては、制度面のみならず、扇動者となった人々の人となりも特筆すべきことである。スイスのエネルギー戦略2050を目指したエネルギー転換を牽引している一人は、ドリス・ロイトハルトという若き有能な女性である。ドリス・ロイトハルトはスイスの最も人気のある政治家であり、キリスト教民主党、環境・エネルギー大臣、また連邦大統領でもある。
この組み合わせ(つまり女性、環境への貢献、国の代表もしくは大臣)は、影響力のあった元環境大臣のアンゲラ・メルケルが現在の首相となり、なおかつ高い評判を得ているドイツでも見られる。従って、スイスとドイツにおけるエネルギー転換 (Energiewende) は、国家元首の二人であり、なおかつ女性である二人の主要業績であると言えよう。
二つ目の目玉となった出来事は5月17日にフランスで起こり、強い政治的メッセージを送った。フランスの若き新大統領エマニュエル・マクロンによって取り決められた最も有名なことは、20年間「フランスの環境保護の第一人者」と言われてきたニコラ・ユロに関してであった。ユロは専門家であり、絶対的な環境保護活動家、フランスのジャーナリスト、そしてテレビで最も人気のある環境活動家である。
ユロは、多数派や政党を越えて、持続可能性に関する全ての政策を長期的に影響を与えるために尽くしてきた人物だ。彼は今までに3名の歴代の大統領の顧問などを務めたが、彼自身が入閣することの提案には辞退し続けてきた。それにもかかわらず、そのポリシーを捨て、意外にもエマニュエル・マクロン率いるフランスの新体制のたった3名の国務大臣のうちの一人となることを承諾した。
これによって単に環境を国務や司法と同じ並びにするだけでなく、新たに「環境移行・連帯省」が設立された。フランスにおいて、より複雑な環境と経済の改革は、スイスと同様に長期エネルギー消費を半減させ、再生可能エネルギーへ転換することを目的としたエネルギー法2015によって定義付けされた。
マクロンとユロにとって、「挑戦は途方も無いものである」とマクロンはしばしば口にする。いずれか一方が失敗した場合、環境活動家であるユロと若き大統領のマクロンは、深刻なダメージを被ることになるため、我々は彼らの成功が非難の的となることを願うしかない。昨今スイスとフランスで起こった、この二つの出来事から我々は力強い教えを学ぶべきである。
すなわち、持続可能エネルギーとは未来であり、経済ではなく、むしろ環境や持続可能性に関する政策を担当する政治家が舵をとるべきであるということだ。エネルギーシステムの転換がその一部となっており、生態系学的に持続可能な社会への転換のプロセスは、国の代表者と大臣が担うものでなくてはならない。
ドリス・ロイトハルト、エマニュエル・マクロン、ニコラ・ユロは皆強さや人々の心をとらえる個性で、テレビやインターネットでも人気を誇る政界のスターである。彼らが画期的な社会的転換を担っているのであれば、これほど人気を集めていることは、彼らの果たすべき役割の妨げにはならず、決して悪いことではないだろう。
翻訳:トレンチャー奈津美