サステナビリティの「再定義」ポスト・コロナをどう生きるか

ポスト・コロナの世界がどうなるのか、すべては私たちの現在の選択にかかっていることを忘れてはならない。
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サステナブル・ブランド ジャパン

世界を襲ったコロナ危機によって、サステナビリティは影を潜めている。未来も明るいものではないと予想されている。しかし、ポスト・コロナの世界がどうなるのかは、すべて私たちの現在の選択にかかっていることを忘れてはならない。私たちは人間として退化するのか、進化するのか、どちらを選ぶのだろうか。ポスト・コロナの世界で私たちに必要なのは、これまでの持続可能性を超えて、自然や社会、経済を再生していく「リジェネレーション(再生型)」の新しい手法だ。

サステナビリティは死んだのか

数週間前、大事だと思われていたことがすべて後回しになっているように感じる。飛行機を利用する回数をどう減らすか、プラスチックへの過剰依存をどう断ち切るか、どうやって森林破壊を止め、どうファストファッションを止めさせるか、といったことだ。

何が起きているかについて学術的に考える場合、有効なのがマズローの欲求5段階説だろう。

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下から生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の順 (Image credit: Thought Co.)
Jen Elks

危機に陥った瞬間、私たちはマズローの欲求5段階説の基盤に注力し、安全な家や家族分の食事、身体的健康を確保しようとする。

世界が崩壊しそうな時、それが賢明な判断だとみなさんも考えるだろう。

実際、人はマズローの欲求5段階説のピラミッド図のような2次元で生きているわけではないが、図が示す通り、自己実現に向けて直線的に着実に進んでいく。しかし、人間というのは複数の、往々にして競合する目標を同時に抱えることのできる微妙で複雑な生き物だ。

だから、私たちは雇用の安定について考えながらも海洋プラスチック汚染について心配することができるし、化石燃料の供給が減少していることに不安を覚えながら、トイレットペーパーがないことを心配することもできる。そして、すぐ先の未来に年老いた両親がどうなるのかを心配しながら、子どもたちにどんな世界を残すかを考えることもできる。

私たちは今すぐに必要なものをどう手に入れようかと考えながらも、サステナビリティについて考慮することができるということだ。

私は、サステナビリティに関する映像などのコンテンツを配信するプラネット・シャインで働いている。ジュリアン・ボッラCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)は、「私たちはいま、目の前のことに打ちのめされている」と話す。

私たちは、これまで慣れ親しんできたグローバル化した活動の場ではなく、いまは自宅に閉じこもって生活している。同僚や顧客と仕事をしたり、友人と飲みに行ったりするのではなく、家で仕事をし、バーチャルな飲み会をしている。空の旅をすることもなくなり、通りはスーパーマーケットの棚と同じくらい空っぽで、新自由主義は厳しく試されている。

サステナビリティの再定義

しかし、いまがまさにコロナウイルス後の世界に向けて、サステナビリティ(持続可能性)を再定義するときかもしれない。

私たちはこの危機をリセットボタンを押すチャンスとし、この危機からいかにして抜け出すかを真剣に考える機会にもできるのだ。私たちが愛する人たちや愛する関係に戻るために。コミュニティの感覚を取り戻すために。もっとバランスのとれた生活をするために。あらゆる面で健康的な生活をしようと動くためにも。

私たちは、3カ月、6カ月、12カ月後の世界がどうなっているのかを自分たちで選ぶことができるのだ。人間の入門編「Human101」に戻るのか、 「Human3.0」に進化するのか、どちらを選ぶだろうか。

Human101は、「私たち対あの人たち」といった閉鎖的な部族主義に回帰することを指す。恐ろしくもあり、利己的で、目先のニーズを優先し、短期的に最大の価値を引き出すことだ。

Human3.0は、オープンで親密で、共感的。協力的で希望に満ちている。未来を見据え、未来に十分に行き渡るようにさまざまなものを確保するもの。

すべて私たちの選択次第だ。

ではHuman3.0を選んだとして、サステナビリティの次の段階はどんなものだろうか。サステナビリティの取り組みを前に進めていく上で不可欠な3つの要素がある。

個人

私たちが何によって支えられ、私たちの生活に意味をもたらしているのは何なのかについて明らかにする時が来た。危機の時、健康や家庭、愛する人たちに目を向けるのは当たり前のことだ。

しかし、私たちは同時に、美しいものや自然、音楽、アート、会話、クリエイティビティにも関心を向けている。祈ることや瞑想にも。肉体的、心理的、精神的な健康やウェル・ビーイングにも気を配っている。

こうしたことは、私たちが前に進む上で抱えていくべきもので、私たちが優先し、守るべきものでもある。

コミュニティ

新型コロナウイルス感染症の拡大により、私たちのコミュニティは手の届く範囲、歩いて行ける距離のものになった。最も近しい人たちを知る機会にもなっている。いまの私たちがしている経験は、共感とつながり、助けを求め、人を助け合うこと、資源を共有し、笑い合うことを教えてくれている。

市民権のあり方の新しいモデルでもあり、新型コロナウイルスが収束に向かえば、都市や国、グローバル・コミュニティにも適応できる新たなモデルだ。

自然

人間が活動を停止することで、中国では大気汚染が改善され、ヴェネツィアの運河の水は透き通り、自然が回復している事例が他にもあるにも関わらず、地球が直面している問題は依然として存在し、いますぐ解決に向けて取り組まなければならない。

しかし、私たちは化石燃料の代わりに再生可能エネルギーを使い、Zoomやグーグル・ハングアウトを使って長距離ミーティングを続け、私たち自身や地球が健康であるために植物由来の食事に切り替え、消費を減らした生活を続けるよう切り替えることができる。

さらに、バイオミメティクス(生物模倣技術)に目を向けることもできる。自然の長い進化の歴史に基づき生まれる人間のイノベーションは、この時代の最も差し迫ったいくつかの問題を解決する手助けをしてくれる。

必用なのは考え方の転換であり、サステナビリティという用語の再定義だ。

サステナビリティからリジェネレーション(再生型経済)へ

サステナビリティという言葉は、氷帽や熱帯雨林、土壌の栄養価などを損失から守り、保全し、保護するというイメージを想起させる。一方で、いま必要なのは、生態系を回復させ社会や文化規範は構築し直すことで、価値を積極的に創造していくことだ。これはまさに「再生型経済」だ。

「害を及ぼさない」ではなく、発見したときよりもいい状態にするといった感じだ。

再生型経済は、廃棄物や汚染をデザインし、製品や材料を使い続け、自然のシステムを再生するというサーキュラー・エコノミー(循環型経済)とは姉妹のような関係だ。再生型経済には3つの大事な要素がある。

●二酸化炭素の排出量よりも吸収する量を多くすること
●生物多様性の回復
●公正かつ包括的な施策による生活の質の向上

これは、私たちが選択すべき「ニューノーマル」だ。

では、ビジネスやブランド、団体、活動に置き換えるとどうだろうか。

「売って売って売りつくす」ような考えが鈍感で無神経とみなされるいま、ブランドはその価値を再定義し、個人やコミュニティ、自然界が意義を見出し、繁栄するためにどんなことができるのかを示す必要がある。

ビジネスの背後に隠された「Why(理由)」を深掘りし、それを新しい再生型経済の中で人々に力を与えるために使い、本当の意味で、世界をよりよい場所にするときが来ている。

ブラジルで開催されたサーキュラー・エコノミーのカンファレンスで、スミス氏が紹介した、友人のファブリシオ・ムリアナ氏の言葉に心から共感する。

「未来はかなり悪くなるように思えるが、私たちには『現在』という時間がたくさん残されている」

未来がどうなるかは私たちの誰にも分からない。しかし、いまがまさに行動する時であることには違いない。私たちを取り巻く世界をより良く、強く、より再生可能なものにする生き方を選択するときだ。

一つのコミュニティ、「ワン・コミュニティ」として共に立ち上がり、希望を持って新しい夜明けを迎えよう。

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