PRESENTED BY SusHi Tech Tokyo 2024 ショーケースプログラム実行委員会

2050年にポジティブな希望を持つためにはどうしたらいいのか?辻愛沙子さんとハフポスト泉谷編集長が語り合った

“2050年の東京” を体験できる国際イベントSusHi Tech Tokyo 2024が4月末より各エリアで順次開催。その目玉の一つ、ショーケースプログラムの実行委員長を務める辻愛沙子さんと、「未来」への向き合い方を語り合う
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Yuko Kawashima

日本の「2050年問題」といえば、激甚化する自然災害、地方の過疎化、少子高齢化に伴う働き手の減少など、不安にかられてしまうネガティブなトピックが山積み。世界に目を向ければ、2050年までに12億人が気候難民になると予想されています。

明るい未来を描きづらい現代。しかし、「『未来は自分たちで作っていける』と明るいメッセージを届けたかった」と語るのは、辻愛沙子さん。

辻さんは、“2050年の東京” を体験できる国際イベント、SusHi Tech Tokyo 2024のショーケースプログラムの実行委員長を務めています。ハフポスト泉谷編集長との対談を通じ、辻さんがこのイベントにかける思いや、明るい未来を希求することの可能性を掘り下げます。

「ウォッシュにしないために」悩み、議論を重ねた

泉谷由梨子(以下・泉谷):辻さんが実行委員長をされると聞いて、実はちょっとびっくりしたんですよ。去年は、最新テクノロジーやベンチャーが主軸のイベントでしたが、今年は、一般向けのイベントも加わると聞いて、辻さんが委員長をされるのであれば、雰囲気がかなり変わるんだろうと思っていたところです。

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4月9日に開催されたプレミアム発表会の様子。SusHi Tech Tokyoは、Sustainabilityの “sus” と、High Technologyの “high”を掛け合わせた言葉。ショーケースプログラムは、ベイエリアの4つの会場で開催され、未来の東京を感じられる様々なイベントや展示が予定されている
Yuko Kawashima

辻愛沙子(以下・辻):私自身、お話をいただいた時、最初は驚いたんです。「委員長」って一般的には年次も一番上で、堅めの方が担う大役というイメージがあって。だからこそ恐縮したし不安もありました。一方で、年齢・性別関係なく、新しい価値観をフラットに活かせる “東京” という場所ならではの文化をある意味体現できる人事になればという思いもあり、お引き受けすることにしたんです。
それに、委員の皆さんのお顔ぶれからも分かるように、第一線で活躍されている大好きな大人たちとご一緒できる、というワクワク感も大きかったです。

行政が主宰する「サステナブル」を掲げるイベントですから様々な視点で厳しく倫理を問われる側面がある場だと思っています。今回の場においてあくまで私自身は企画制作の実務担当ではなく監査的な役割も果たす実行委員会の立場ですので、ご提案いただいた様々な具体の案に対して、意思決定プロセスの透明性や公共性に関してだったり、登壇者のジェンダーバランス、今の国際情勢の中で他国への侵攻に加担している企業が協賛や制作に関与していないかなど、「ウォッシュにしないために」という視点でずっと考えてきましたし、時に「口うるさい」と思われそうなくらい口酸っぱく声に出してきました。

とは言ってもとにかく大きなイベントなので、理想を全て実現するのは難しい部分もありますし、葛藤も無いとは言い切れないです。それでも、誰かを置き去りにしたイベントにならないよう、出来るだけ多くの視点を持ち寄りながら現時点でできるベストを尽くそうとこれまでの委員会では喧々諤々議論を重ねてきました。また、もし不足している視点があれば、委員会内外でその声にきちんと耳を傾け、後の行政の取り組みに繋げていけるような「内省的な空気」の醸成も委員会内で多く議論の時間を割いた部分かなと思います。

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辻愛沙子さん/株式会社arca 代表取締役社長。Z世代のクリエイティブディレクターとして、社会課題を解決するためのプロジェクトを多数手掛けてきた。『news zero』の水曜日レギュラー出演(2019年10月〜2024年3月)でも知られる
Yuko Kawashima

2050年への「警告」から、未来を変えるための「祭り」へ

泉谷:会場の一つである日本科学未来館では、「女性の起業家マインドを社会課題解決とともに育む」というワークショップもありますね。私はこういうところに、ジェンダー平等の領域で発信を続けていらっしゃる辻さんらしさを勝手に感じています。

辻:委員に大塚泰子さん(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー。多彩なキャリアを通じて女性の働き方支援にも力を入れてきた)がいらっしゃったことも大きかったです。他にも、委員の皆さんや、実際に手を動かしてくださった制作の皆さんの思いは随所に感じられると思います。

泉谷:イベントの概要を拝見していると、全体的に未来への「ポジティブ」なメッセージを感じます。私たちハフポストでも、これまで “2050年” というテーマで何度か発信してきました。気候危機の進行などに関する「警告」の意味合いのニュースも多いです。

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左:泉谷由梨子 ハフポスト日本版編集長/2021年6月より現職。読者が生きるための指針とできるメディア、社会課題を解決するメディアを目指す
Yuko Kawashima

その積み重ねで、地球や社会がどんな課題を抱えているのか、多くの人が認識する状況になってきたはず。一方、課題が山積みで「未来を考えることが怖い」と思う人も多くなっています。だから今、ハフポストは「警告」の次のフェーズとして、未来は自分たちで変えられるんだ、というポジティブな「祭り」に参加してもらうための空気作りをしていきたいと思っています。

SusHi Tech Tokyo 2024にはその「祭り」の空気がある。新しい食やモビリティを体験できて、親子連れでも、デートでも、どんな人でも楽しめる設計になっていますよね。

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下北沢の「Salmon&Trout」や、渋谷パルコのタイ料理店「CHOMPOO」などの話題店のシェフとして知られる森枝幹さんが手がけた、牛肉を使用しないハンバーガー。ネクストミーツ社が開発した、エンドウ豆と大豆のタンパク質を組み合わせた代替肉を使用
Yuko Kawashima
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ロボットを装着して対戦するテクノスポーツ「R-FIGHT」
Yuko Kawashima

社会課題を列挙することから始めたイベント設計。でも……

辻:泉谷さんがおっしゃっていること、とてもよくわかります。今ある課題に蓋をすることはしたくなかったので、委員会でも、まずは綺麗な未来を0ベースで描くのではなく、今ある課題を列挙することから始めました。でも、それらの課題はこの委員会だけで一気に解決できるものではないし、東京都が一方的に何かを発信したり取り組むだけでも違う。街や社会の課題は、行政も、企業も、そして東京で暮らす一人ひとりが共に向き合うことでしか前に進まないのでは、と再認識して。 

今の時代、本当にみんな精一杯じゃないですか。物価高もある、円安もある、でも賃金はなかなか上がらず将来への漠然とした不安を抱えながら、日々一生懸命仕事をしたり家事育児をこなしながら、多忙な日々を過ごしているという人が多いんじゃないかなと。日本の、あるいは東京の、さらには自分たちの未来は明るいものになる!とポジティブに未来を捉えるのが難しい現状も少なからずあると思うんです。

でも、だからこそ課題をしっかり伝えると同時に、ちょっとだけ足元から顔を上げて、「未来は自分たちで作っていける」「自分たちの未来は自分たちのものだ」とエンパワメントされるような機運やメッセージをこのイベントを通じて届けたかったんです。

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100%植物由来のエクリプスコのアイスを楽しむ辻さんと泉谷編集長。ジャガイモやキャッサバ、トウモロコシ等で牛乳の味わいを再現している
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これは東京都のイベントですから、主役は都民の皆さん。行政が「2050年はこうなります」と上からプレゼンテーションするのではなく、一人ひとり、それぞれが未来の可能性を自由に思い描けるような設計を意識しました。

泉谷:私の子どもがこの4月小学校に入学したばっかりなのですが、これから「何のために勉強するのか」をどうやって教えよう、と悩んでいたところでした。だから、こういうイベントを通じて「未来は自分たちで作っていける」と言えたらすごくいいですよね。

私たちはもう東京で消費しているだけじゃ幸せになれない

辻:そう言っていただけて嬉しいです! 会場内で自分の思いや意見を書いて、参加できる場所をたくさん用意しているんです。皆さんのリアルな声をちゃんと聞ける場にしたいし、行政の人たちにはそれに耳を傾けてください、と、委員長として引き続き提言をしていきたいです。

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ショーケースプログラムの会場の一つ、有明アリーナの展示風景(イメージ)

泉谷:「参加している」という感覚は、ウェルビーイングの観点からも気になります。

東京は消費の街だとよく言われますが、これから大事になってくるのは、消費ではなく「生産」の意識ではないでしょうか。私自身、もう消費活動だけでは幸せになれないことを強く感じています。結局、人間は生産しないと楽しくないと思うんですよ。

辻さんがおっしゃる「参加」の意識は、人間を消費者から生産者にする営みなのかな、と感じました。

辻:わかります!何でもあってものに溢れている便利な都市だからこそ、受け身になって何かを享受し消費するだけではなく、自分自身の手触りを持って、共に考え、作り、歩んでいくような取り組みがもっと必要だなと思うんです。自分の手の届く範囲の「手触り感」、本当に重要ですよね。

泉谷:東京にはもっと「手触り感」が必要ですね。ノイズや、変数とも言い換えられるかもしれません。

商店街で買った両足「右」の上履きが教えてくれたこと

泉谷:この前、子どもの小学校入学のために商店街の指定のお店で上履きを購入したら、両足「右」であることに登校初日、学校で気づいたんです。

辻:なんと……!(笑)

泉谷:私、その時「面白いな」と思っちゃって。今我が家は、仕事と子育てで本当に時間がないからほとんどのものをネットで買っているんです。でも、ネットで上履きを買っていたら、こんなこと起こらなかった。

後日そのお店に伺ったら、もう名前書いちゃっていたんですけど、「もちろん取り替えます」とおっしゃってくださり、お詫びにと、商品ではない手作りの小学校で使うグッズをいただきました。「実は、両足左の男の子がもうすでに来ていて」という事実に、大爆笑でした。

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Yuko Kawashima

こういうエピソードがあると、商店街を通り過ぎる時も「あそこは両足右の上履き事件があった店だな」というストーリーを思い出し、逆にまた買いに行きたくなりますよね。だからノイズって「つながり」だなと。

辻:本当ですね。東京のような都市は極度に最適化され、合理的に作られているものですし、もちろんそれが便利な側面もある。でも、人間らしい営みを感じる余白や変数、ノイズのようなユニークさは意識して守り残していく必要があると思います。 

「文明」と「文化」って、本来は二項対立ではなく両立しうるものですよね。今回のイベントはその名の通り、「サステナブル」と「テクノロジー」が主題ですが、テクノロジー(文明)は、それ自体が目的なのではなく、あくまで人々の暮らしの中のリスクを軽減し、より社会を豊かにするためにあるはず。テクノロジーがただただ目的化してビジネスとして消費されるのではなく、人々の暮らしのようなミクロの視点を軸にした文明の発展が起こってほしいと思います。文明と文化のバランスを取ることが、サステナブルな未来につながるのではないでしょうか。

泉谷:災害時の情報共有等でも、ITの力は本当に重要ですしね。気候変動対策にも、最新のテクノロジーは大いに貢献しなければならないと思います。

辻:今回のイベントも、ただ最新のガジェットを楽しむというよりは、「自分の未来にどういうふうに影響するだろう」と、手触りのある生活に手繰り寄せて、楽しんでいただけたら嬉しいです。

♢♢

「『自然』と『便利』が融合する持続可能な都市」を目指すSusHi Tech Tokyo 2024のショーケースプログラムでは、全4ベニューにおいて、未来の東京を体験するプログラムを実施。

・日本科学未来館……2024年4月27日(土)〜5月26日(日)
          ※5月7日(火)、14日(火)は休催
・シンボルプロムナード公園……2024年5月12日(日)〜5月26日(日)
・海の森エリア……2024年5月12日(日)〜5月21日(火)
・有明アリーナ……2024年5月17日(金)〜5月21日(火)

情報は公式ページにて随時アップデートされる。詳細はこちら

(撮影:川しまゆうこ  取材&文:清藤千秋  編集:磯本美穂)