記者会見する山本座長(左)
神奈川県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で7月に起きた殺傷事件をめぐる厚生労働省の再発防止検討チーム(座長=山本輝之・成城大教授)は8日、最終報告を発表した。すべての措置入院患者について、都道府県知事・政令市長が退院後の支援計画を入院中に作成するよう義務付ける方針。自治体や警察など関係機関が定期的に協議の場を持つことも提言した。提言内容は、精神保健福祉法の改正を視野に入れた別の検討会で今月22日から議論し、2017年3月までに詳細を固める。
■監視強化ではない
9月14日の中間報告に対し、障害関係団体は10月31日の同検討チームのヒアリングで「精神医療に偏りすぎている」などと異論を唱えていたが、最終報告はそれを振り切って措置入院制度に手を加える内容となった。
「退院後も患者を監視することになるのではないか」という懸念に対し、座長の山本教授は同日の会見で「監視を強めるものではない。精神医療の底上げを図り、患者を孤立させないことが再発防止につながる」などと強調した。
■調整会議を開催
最終報告が想定する支援計画は、知事らが関係者(退院後に通う医療機関、福祉サービス事業所など)と調整会議で議論して作る。患者本人や家族の参加を促して理解を得ることも念頭に置く。
退院後の支援の責任主体は「帰住先の保健所設置自治体の長」とした。例えば、退院した患者の通院が途絶えた場合に受診勧奨する役割も担う。支援を継続する期間の目安は厚労省が示す。
厚労省によると、15年度の新規の措置入院患者は約7000人。すべての患者に支援計画を作るにはマンパワーの強化が不可欠となる。計画作成が滞ったために退院できない人が生じないようにすることも重要になる。
■犯罪情報の共有は
最大の問題は、医療機関などが患者本人に犯罪の前兆を発見した時の対応だ。最終報告は警察や自治体など関係者が協議する場を地域ごとに設けることを提案。犯罪情報の共有のあり方などを議論してもらう。現在も措置入院について警察と意見交換する自治体はあるが、これを制度的に担保する考えだ。
制度の詳細は今年1月発足の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(座長=樋口輝彦・国立精神・神経医療研究センター総長)で議論する。同検討会は医療保護入院、精神保健医療体制のあり方を議論するもの。夏に意見をまとめる予定だったが遅れている。
入所者19人を殺害し、職員を含む27人に重軽傷を負わせた元職員の植松聖容疑者は、事件前の今年2月に措置入院していた。
検討チームは、このことに着目。中間報告は、入院中や措置解除後の対応を不十分だと判断し、再発防止策として患者が入院中から措置解除後まで、継続して支援を受けられるよう制度的に対応することが不可欠だとしていた。
(2016年12月19日「福祉新聞」より転載)