パパ、スーパー戦隊は仕事なの?「スーパー戦隊と公共性」

そもそもスーパー戦隊の活動に公益性があるのでしょうか。
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一年間、子どもとの共通話題であった「手裏剣戦隊ニンニンジャー」が終わり、ニンニンジャーロスに陥りかけたところで、間髪を入れず「動物戦隊ジュウオウジャー」が始まりました。本当に地球征服や人類滅亡を目論む輩は後を絶ちません。

そんな危機的な状況に直面しながらも、息子たちは新たなスーパーヒーローの決め台詞(「この星をなめるなよ!」「本能覚醒!」「野生解放!」等)を覚えようと涙ぐましい努力をしています。

ほんの数週間前まで、「将来はアカニンジャーになるんだ!」と修業を重ねていた長男も、いまではジュウオウイーグルを目指して心身を鍛えています。先日、彼からこんなことを聞かれました。

「パパ、ジュウオウジャーはお仕事なの?」

過去のスーパー戦隊のなかには、もしかしたら、その活動そのものが仕事であったヒーローがいたかもしれません。しかし、いま私が見ている範囲では、それで生計を立ててはいないようです。その意味においてはボランタリーな活動ではないかと思うのですが、その一方で、あれだけ恐ろしい、私たち人類とは異なる生命体と生死を懸けて戦うわけですから、サークル活動のノリでやるには無理があるのではないかと思うわけです。

そもそもスーパー戦隊は勝手に戦っているだけなのでしょうか。それとも私たちの生活を守るための公益的な活動なのでしょうか。

息子の質問に父親として何か回答めいたものを出したいと思い、公益活動に詳しい「NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」代表理事の関口宏聡氏(以下、関口さん)と「NPO法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京」代表理事の岡本拓也氏(以下、岡本さん)に相談しました。

工藤:お疲れさまです。先日、息子からスーパー戦隊は仕事なのか質問を受けました。そこから疑問が広がり、スーパー戦隊の活動と公益性を考えてみたく、本日はお時間いただきました。

私の記憶にあるスーパー戦隊は「太陽戦隊サンバルカン」と「秘密戦隊ゴレンジャー」なのですが、長男が「ニンニンジャー」で戦隊モノに目覚めたのをきっかけに、「獣電戦隊キョウリュウジャー」「烈車戦隊トッキュージャー」「ジュウオウジャー」あたりを視聴しています。お二人はいかがですか。

関口さん:私は「ジュウレンジャー」と「ターボレンジャー」ですね。成人してからは、スーパー戦隊からは遠ざかってしまい「GARO」など大人向け専門でしたが、最近、長男が3歳になり、「ジュウオウジャー」を見始めました!もともとは、どちらかというとメタルヒーロー物が好きで、特に「ジャンパーソン」は秀逸だと思います。人工知能がリアルになってきた今日においては、ロボットに人権があるのかなど、非常に深いテーマを含有していたと思います。

岡本さん:工藤さんと同世代ということで「サンバルカン」「ゴレンジャー」ですね。先日実家に帰ったとき、甥っ子が「ニンニンジャー」の最終回を食い入るように見ていて、母親である妹がぼそっと、新しいシリーズが始まるのでまたお金がかかると嘆いていました。

工藤:そもそもスーパー戦隊の活動に公益性があるのでしょうか。

関口さん:結論から言えば、公益性はあると思います。受益者が不特定多数で、ひとをえり好みしません。子どもだから助けるとか、大人は助けないということではなく、みんなを助けています。限りなく公平に助けている意味においては行政に近いと思います。

岡本さん:私も公益性があると考えます。シリーズによりますが、彼らが初めから世界平和を目的に始めたというわけではないでしょう。突然、街中に敵が現れ、戦わないと人類が滅亡するわけです。望む、望まないにかかわらず、巻き込まれた人間として覚悟を決める。その瞬間、ミッションが生まれるわけです。

社会課題の解決は、その課題に気がついた個人から始まるのです。

関口さん:ひとつ言っておきたいのは、未知の生命体とはいえ、戦闘は最終手段であるべきです。戦いに持ち込まずに解決はできないのか。和解の道はないのか。

そもそもコミュニケーションが取れる輩ではなくとも、人命救助を最優先に戦闘回避を模索すべきです。毎週日曜日に戦闘し、見せ場を作らないといけないのは後手に回っている証左ではないでしょうか。

工藤:スーパー戦隊の活動に公益性が認められることは理解ができました。社会課題の解決にはタイムリミットがあるものも少なくありません。スーパー戦隊の活動は、これまでのところきっちり一年でミッションをコンプリートしていると思うのですが、それが叶わず長期化した場合、ボランタリーな活動としては継続が難しくなる可能性があります。

岡本さん:一年くらいなら休職や休学で何とかなるひともいるでしょう。しかし、戦いが長引くことになった場合、ボランティアというわけにはいかないのではないでしょうか。人類滅亡の危機である一方、彼らも生活者であるからです。

関口さん:確かに気がついたひとたちが勝手に戦っているだけという見方もできます。しかし、実際には私たち自身のための参加型の活動でしょう。みんなで支え、みんなで守る。誰もが無関心ではいられず、当事者として参加する必要があります。

工藤:公益的活動であり、可能性としての長期戦を鑑みるとすれば、法人格取得が望ましいのではないかと思うのですが、どう思われますか。

関口さん:公益性の観点から法人格はあったほうがいい。武器やロボットの減価償却はどうするのか、代表者の個人保証でやっていけるのかなど、課題は山積みでしょうが、その活動内容からすれば公益法人ですかね。

岡本さん:同意しますが、公益認定基準がありますよね。時間もかかりますし、敵との戦い以外のタスクが増え、戦いにリソースを100%投入できなくなるかもしれません。しかも、その戦闘に負けてしまうと人類滅亡です。

工藤:毎週日曜日は戦闘ですし、春や夏には特別に敵が現れます(スペシャルや映画)。東京ドームシティや地方イベントとしての活動も外せません。公益性が担保されつつ、ローコストでもっとも早く法人格取得を目指す必要はないでしょうか。

関口さん:NPO法人だと、敵が出現してからだと間に合いません。申請から4か月ほどかかります。公益法人も認定委員会がある。その意味では一般社団法人ですね。当面はそれでしのぐしかないでしょう。いつ何が出てくるかわからないなか、急速な社会変化に制度が間に合っていない。社会変化に合わせた制度変更も未来のためにやっていくべきです。

岡本さん:一般社団で活動しながらも公益法人化のために動くというのが現実的ですね。いずれにしても財源論は避けて通れません。いつ終わるともしれない敵との戦いですから、法人格と財源論はセットで考える必要があります。

関口さん:本来は行政の仕事だと思います。しかし、行政も万能ではありませんし、緊急性が高ければ高いほど、誰かがやるのを待つのではなく、できる人間からやっていくしかありません。

スーパー戦隊の活動内容であれば、民間の力を活用する委託事業がいいのではないでしょうか。過去のケースだけ見れば、きっちり一年で勝利していますので、単年度主義の弊害があっても乗り切れると思います。いざとなれば補正予算で対応するとか。

岡本さん:一年間のワンショットであれば、ソーシャルインパクトボンド(SIB)で資金を調達し、行政には義務的経費の低減分を投資家へのリターンとして出してもらうのもできるのではないでしょうか。まだまだ日本では検証事業の段階ですが、本格的な導入も政府で検討していると聞いています。

工藤:期間限定のミッション達成であれば、SIBやクラウドファンディングなどで資金調達できる可能性は高いですね。なにせ、ミッション失敗は人類滅亡ですから。ただ、そうはいっても毎年2月頃に敵を倒せるとは限りませんので、先ほどの一般社団法人から公益法人取得などを含め、中長期のことも考えておかなければなりません。

岡本さん:ミッション性の高い活動ですし、大きな組織体で活動してきた印象はありません。できれば小さく、強くしなやかな組織体が理想です。収益事業なども持ちたくないですね。会計も複雑になりますし、バックオフィス部門への負荷が高いと、組織の規模が必要になってきますので。

関口さん:収益事業を持たないとなると財源が限られます。委託や会費、寄付などです。戦いが長期化すると財源不足のリスクが高まります。やはり収益事業があった方がいいのではないでしょうか。例えばグッズ販売や商標権販売、怪獣や妖怪が出ない月曜日から土曜日はショービジネスとかですね。

工藤:認定NPO法人のように、みなし寄附があるといいんですけどね。

関口さん:確かに。現状では一般社団法人にみなし寄附はありませんので制度変更が必要になります。だからこそ先を考えると公益法人などの取得を目指すべきだと思います。

岡本さん:収益事業については、これだけ高次のミッションを遂行すべく活動している法人ですから、人材育成のための各種研修事業もニーズが高そうですね。

関口さん:グッズ販売などに関しては直接行うのではなく、子会社を作って、すべて受け取り配当金で法人本体の収益にすることも考えたいです。スーパー戦隊のシリーズでは明らかになってないと思うのですが、敵の出現地域が偏在しているのかどうかも知りたいです。

全国あまねく出現するのか、首都圏オンリーなのか。偏在性があるとなると寄附や投資も偏ります。出現地域が限定されているのであれば、該当する自治体が行うことになります。

工藤:都道府県か市区町村かは別にして、該当する自治体が負担するとなると財源のないところは厳しいですね。そうなると地方交付税交付金を投入するか、ふるさと納税をうまく使うことも考えられます。佐賀県などのモデルが参考になりそうです。私たち、それぞれ法人を経営運営する立場にいますが、なかなかかじ取りが難しそうですね。

岡本さん:隊員が5名程度と人件費はそれほど高くならなそうですが、ロボットの維持費、燃料代、新たな敵に対応するための製品開発など、不確定要素も大きいため、財務のハンドリングが課題になると思います。専門家不在の可能性と、既存の会計制度などが追いついていない可能性の両面が考えられます。ただ、短期決戦を目指すという意味では、世界中の企業とアライアンスを組むのはどうでしょうか。人類の存亡という大義もあります。物品などは貸与や供与でいけるでしょう。

関口さん:中長期ではリースでしょうか。人員も出向などで当面は固めるしかないですね。とにかく毎週攻めてきますので、時間がない。

工藤:世界の英知を結集しなければなりませんが、コミュニケーション、各種契約の発生など、バックオフィス部門の人材要件も高くなります。

関口さん:これまでの傾向だと、最初から強い敵は出てきません。幹部やボスは後にならないと出てきません。週を追うごとに強さがインフレしていく。いきなり100%で攻めてこられると厳しいですが、徐々に強くなっていくということだれば、こちら側も組織化などを進める時間があります。

最初はごくごく少数の人間が、週末は敵と戦い、平日は事務やファンドレイズなどをすることで乗り切るしかありません。NPOもそうですね。しかし、きっとファンも増えてくるでしょう。敵を越える体制を作りつつ、できるだけ一年の短期で敵を倒してミッション達成を目指しましょう。

岡本さん:ミッション達成したら解散ですよね。一般社団は残余財産の分配可能なんでしたっけ。

関口さん:原則はできませんが、どうしても残余財産の帰属が決まらない場合は、総会の合意で分配が可能です。通常では、翌週の日曜日には新たな敵が現れるはずですので、一度、国や自治体に渡すか、次のスーパー戦隊に譲渡するという手もあります。

工藤:ひとつの組織で敵と戦い続けないということですね。

岡本さん:世代交代も必要です。敵も変わります。防衛する人類も新しい人材、新しいテクノロジーで対抗する方がよいのではないでしょうか。そうでないと組織の高齢化や肥大化となり、敵を倒すための手段である組織のはずが、組織の維持が目的化してしまいかねません。

工藤:早々に現役を引退した隊員のセカンドキャリアの問題になりますね。

関口さん:新しい世代の支え手としてロジを担う。プロ野球やサッカーのコーチに就任するなどが考えられます。ただし、名選手名監督にあらずなので見極めが大切になります。

工藤:日本スーパー戦隊協会が設立され、スーパー戦隊を名乗るのであれば、協会会員にならなければいけないといったことにはしたくないですね。

岡本さん:やはり、敵ごとに志のあるひとがプロジェクトベースで集い、ミッション達成とともに解散する文化の継承が重要になります。うまくいくと、ついつい残りたく、残したくなりますから。

工藤:あっという間に時間が来てしまいました。お忙しい中、本当にありがとうございました。今後、機会や要望があればスーパー戦隊の活動について突っ込んで考えて行ければと思っています。

今回、関口さん、岡本さんとの議論ではひとつの結論を出しました。突然出現する敵に対応するにあたっては、民間主導で動くことが望ましい。また緊急性の観点から、法人格を取得するのであれば一般社団法人がベターである。しかし、それは中長期に渡って戦闘が続く場合であり、やはり、一年で収束させることを目指したい。それにより組織のミッションが明確になります。

その一年でモデルを作り、パッケージにしておくことで、次年の敵に対応するスーパー戦隊にノウハウ移転も議論しました。しかし、電車(トッキュージャー)が忍者(ニンニンジャー)となり、動物(ジュウオウジャー)と目まぐるしく変わるスーパー戦隊シリーズを見る限りにおいては、不確定な未来に現状を当てはめ過ぎない方がいいのではないか。いまの勝ちパターンの汎用性は決して高くないという結論にいたった。

つまり、ノウハウは引き継ぎづらい。しかし、本当に引き継ぐべきは「志」であり、気がついた人間が、熱いハートを持ち、仲間を信じて、社会課題を解決していくこと。最前線で戦うだけではなく、それぞれの役割を果たすため全力を尽くす。誰かがやるのではなく、みんなでやる。解決まであきらめない。それが大切だということを再認識しました。

認定NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会 関口宏聡代表理事

認定NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会 代表理事

1984年生まれ、千葉県出身。2009年、東京学芸大学卒業。2007年からシーズに勤務し、2010年の日本ファンドレイジング協会設立に尽力。

2011年の「新寄付税制・NPO法改正」実現では、市民側の中心的役割を果たし、現在は、講演・相談・コンサルティングなど、制度の活用促進に奮闘中。新宿区協働支援会議委員、神奈川県指定特定非営利活動法人審査会委員、東京ボランティア・市民活動センター運営委員など。

NPO法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京 岡本拓也代表

大手監査法人を経て、外資系コンサルティングファームにて企業再生業務に従事。2011年3月に独立し、同年4月よりソーシャルベンチャーへの投資と伴走支援を行うSVP東京の代表理事に就任.。

現在は、SVPのグローバルネットワークであるSVP International のBoard of Director(理事)も務める。また、2011年5月より認定NPO法人カタリバの常務理事・事務局長に就任し、ソーシャルビジネスの現場と支援の両面から業界の発展に尽力。その他、KIT虎ノ門大学院客員教授、中京大学大学院客員講師、内閣府や経済産業省の委員も歴任している。公認会計士。