「サンシャワー」、顔で笑って心で泣いてる。東南アジアの熱気と葛藤が、私たち日本人をハッとさせる

東京・六本木の国立新美術館と森美術館で共同開催中の「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」。東南アジアの現代アートを一堂に集めた、これまでに類を見ない大規模な展覧会だ。

東京のど真ん中、都会の象徴ともいえる六本木で、東南アジアから運ばれてきた「熱気」にさらされる。

私たちは、そこで何を感じるだろうか——。

東京・六本木の国立新美術館と森美術館で共同開催中の「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」。東南アジアの現代アートを一堂に集めた、これまでに類を見ない大規模な展覧会だ。

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リー・ウェン《奇妙な果実》

約2年半の準備期間をかけて本展覧会を企画した、キュレトリアル・チームの一人である片岡真実さんは「強く私たちを納得させる作品を、責任を持って選んだ」とハフポスト日本版に語った。

「サンシャワー」というちょっと耳慣れない言葉。

これは、東南アジアでよく起きる気象現象である「お天気雨」を指す言葉だ。晴れていながら雨が降る、という言葉が意味するように、顔で笑いながら心で泣いているような、そんな作品が並ぶ展覧会だ。

東南アジアは、イスラム教、仏教、キリスト教など様々な宗教が共存し、政治や経済の状況もかなり複雑で多様だ。第二次大戦後、植民地支配から解放された後も内戦などの混乱をくぐり抜け、近代化を進めてきた。

片岡さんは「サンシャワー展」の名前の由来について「複数の宗教や言語、文化が共存している東南アジアという場所の"複層性"を表現しつつ、同時に"東南アジア感"のある言葉として選びました」と語った。

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ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト(JWA)《グラフィック・エクスチェンジ》

9つのテーマから構成される本展。

国立新美術館に「うつろう世界」「情熱と革命」「アーカイブ」「さまざまなアイデンティティー」「日々の生活」の5つのセクション、森美術館に「発展とその影」「アートとは何か?なぜやるのか?」「瞑想としてのメディア」「歴史との対話」の4つのセクションが設けられ、東南アジア10カ国から86組のアーティストの作品、合計190点が集められた。

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マレーシア出身のリュウ・クンユウの作品「私の国への提案」は、ポップで鮮やかな色彩に目を奪われる。

写真イメージを幾重にも重ねたこの大型コラージュ作品は、発展したマレーシアの都市が題材になっている。

マレーシアが誇る超高層ビル「ペトロナスタワー」や、国内で実際に見られるという様々な動物をテーマにした屋外アートをモチーフにし、輝く金色のフレームで囲った。

「祖国の発展を誇りに思いつつ、国家が目指すべき方向を彼なりに提案しているようにも見えるし、これから国家が進む方向を案じているように見えます」と片岡さんは話す。まさに「サンシャワー」だ。

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天井からカラフルに吊るされた旗と、並べられたオートバイ、手袋のオブジェで構成された立体作品は、インドネシア出身のジョンペット・クスウィダナントの《言葉と動きの可能性》だ。

無人のオートバイの上には、政治や宗教などの様々な思想や意見が書かれた旗が吊るされている。

スピーカーから流れてくるのは、1968年から30年間大統領の座についたスハルト氏の歴史的な辞任スピーチだ。

「思想」も「喝采」も「乗り物」も「手袋」もあって、「人」だけがいない。色々な人の色々な思いが、色とりどりの旗の下で浮かび上がってくるような作品だ。

片岡さんによると、彼の作品にはいつも「人がいない」という。

「身体を直接的に表現しないで、その周囲にあるもののみが提示されることで、そこにどんな魂があるのかということを考えさせられます」と話す。

「歴史との対話」セクションには、各国の歴史や世代間の交流をテーマにして、自分たちのルーツを問いかけ、伝えていこうとするアート作品が並んだ。

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ベトナムのバン・ニャット・リンの《誰もいない椅子》。

「理容室」を模した空間に佇む無人の椅子は、ベトナム戦争時に使用された北ベトナムの戦闘機の操縦席の椅子だ。

鏡に映し出される理容師は南ベトナムの退役軍人。北ベトナムの退役軍人である客の顔剃りを行う。

映像が映し出す緊迫感は、戦争について語ることがタブーとされている世代と、戦争を知らない世代との間に静かに横たわる緊張感の、逆説的なメタファーなのかもしれない。

バン・ニャット・リンをはじめとした80年代以降生まれの東南アジアのアーティストたち。彼らに対して「歴史を知り、未来の可能性を探ることへの意識の高さや切実さは日本人より高いのではないか」と片岡さんは感じているという。

「サンシャワー展」の準備のために10回以上東南アジアに渡航したという片岡さん。アーティストの創作現場やギャラリー、アート関係者などへ、400件以上訪問したという。

東南アジアの若いアーティストたちに何を見出したのだろうか。

——展示された作品は、生活に密着したテーマで、生きることの本質や価値を問う作品が多いように感じました。

そうですね。作品を作ること自体が目的になっているのではなくて「アーティストとして何ができるのか」という内面から湧き上がる強い問いかけから生まれた作品が多いと思います。根源的な動機がまずあって、それをどう形にするのが一番いいのかを考える。その上で表現手法なども決められていく感じでしょうか。

「アートとは何か?なぜやるのか?」というセクションでは特に、自分自身に内面に突き動かされたアーティストとしての活動を、日本の同世代の方たちに伝えたいと考えていました。

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ミット・ジャイイン《2000》:若手アーティストに経済的自立を促すためのプロジェクト。ジャイインは自身の絵を"モチーフ"として無償で自由に活用することを勧めた。

——東南アジアの若手アーティストは、日本の同世代と比べて、内なるモチベーションが強いということでしょうか。

そうですね。日本でも2011年の震災以降は社会に関わるアートが注目されるようになりましたが、やはり「国家とは何か」「民主主義とは何か」といったことを問わざるを得なかった東南アジアのアーティストからは、よりリアルな必然性や緊張感を感じる作品が多いです。

——その東南アジアの「熱」を六本木に持ってくるのには、苦労されたのではないでしょうか。

日本と異なる時代や社会を生きている人たちのことを、ある意味で「代弁」するとなると安易な解釈ではできません。今回、東南アジア現地の若手キュレーターと共同で企画したのには、そうした思いがあります。現地に生きる若い世代としてのリアルな思いもありますから、(彼らの推薦する)アーティストにも会って、何度も議論を繰り返して作家を選んでいます。

——かなり大掛かりな準備だったんですね…

現地調査に時間をかけることが重要だと、プロジェクトの当初から考えていました。

全てのプロセスに命を吹き込んでやっているみたいなものですね。

結果として、来場された方々に「東南アジアのエネルギーが感じられるような展覧会だ」と言っていただいて、安堵しています。

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展示の最後には、フィリピンのフェリックス・バコロールの《荒れそうな空模様》が私たちを待つ。

1200個のカラフルな風鈴が天井を覆う。

目に鮮やかで涼しげな風の音。それでもずっと耳を傾けていると、少し胸がざわざわしてくる。これもまた、まさに「サンシャワー」だ。

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「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」は、10月23日(月)まで森美術館と国立新美術館の2館で同時開催。