●残念ながら、問題発生の後の1週目の放送では、『サンデー・ジャポン』も放送せず。
政治も芸能ネタも社会的な事件も、一緒に笑いの毒で包み込む、タブーに挑戦しているこの番組も「報道圧力発言」については、その発言の後ろにある「圧力」を感じて怖気付いたのか、最初にニュースになった週末の6月28日(日)の放送ではまったく触れず、だった。
自民党の勉強会での"報道圧力発言"問題があったのは、6月25日。
この問題をテレビが一斉に放送したのは翌26日。
持論を変えず、「マスコミを懲らしめる」という発言を繰り返す大西英男議員。
また「オフレコに近い発言で冗談として言った」「発言を盗み聞きされた」と報道陣を批判して居直り姿勢の百田尚樹氏。
「爆笑問題」の2人が面白がってネタにしそうなテーマでこれだけ役者がそろっているのに、この日の『サンデー・ジャポン』はこの問題を扱わず、「ひるんでいるのかも...」と感じさせた。
●TBS『サンデー・ジャポン』がついに自民党勉強会での"報道圧力発言"を扱った。
さて、1週間後の今日7月5日。
ついに歯に絹着せぬトークが売りのこの番組が「政治による報道への圧力」問題を取り扱った。
最初にお断りしておくと、司会の「爆笑問題」の2人も、コメンテーターのテリー伊藤もデーブ・スペクターもミッツ・マングローブも堀江貴文も、他の報道番組や情報番組にありがちな「政権への気遣い」などほとんど見せず、このタブーを壊すこの番組らしい本音トークを繰り広げた。しかも生放送で。
この日の『サンデー・ジャポン』はこの問題について、まず、VTRで1週前の木曜日からの出来事をふり返った。
作家・百田尚樹氏を講師に招いた自民党の「文化芸術懇話会」の映像が流され、「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番」「不買運動を経団連などに働きかけてもらいたい」という大西英男衆院議員の発言など「広告主などを通じて報道規制をすべき」とする議員たちの発言を伝えた後で、スタジオトークとなった。
以下、スタジオトークは、報道的なテーマを扱った最近のテレビ番組の中での群を抜いて秀逸なものだったのでをほぼすべて収録する。
●スタジオ生トーク
(太田光)
これは自民党が何かいえば広告主が思い通りになるんじゃないかと言われたスポンサーとか広告主が何も反論しないのはどういうことだって言ったら、
俺は誰かに懲らしめられるんでしょうか?
(田中裕二)
そうでしょうね。懲らしめられるでしょうね。
スタジオは笑いに包まれ、爆笑問題らしく最初はギャグで笑いを取っている。
(杉村太蔵)
政治家がメディアに不満を持つことはあります。でもそれは丁寧に一つひとつ反論すべきなんです。で、メディアというのは報道の自由というのは民主主義の根幹でしから。それを担保しているのがメディアですからね。そこをね、広告料を出すなって形で脅して懲らしめるってのはとんでもない発言で。最初、ぽろっと出た失言かなって思っていたら、(太田議員は)信念で言っている雰囲気がある。そこが怖い。何回も言っているんで。
(「懲らしめるっていうそういう・・・」西川史子)
発想がね。
これはもう安倍総理も参っちゃっているんじゃないですかね。党のまとまった考え方何もないですから。個人の考え方ですから。
この辺はまともなことをクソ真面目に話す杉村太蔵らしい。
でも正論です。
(デーブ・スペクター)
いや個人じゃないでしょ。みんな、だいたいそういうふうに思っている。
(「そんなことはない!」と杉村)
そうですよ。本音が出ただけですよ。
いきなりデーブ・スペクターが痛烈な一言。
テレビや新聞の関係者も内心で思ってはいても、こういうふうにストレートには言えない。
(テリー伊藤)
厳重注意じゃなくて、なんで自民党は(大西議員を)辞めさせないの?
そこんところしっかりしないとこれ本当にボディーブローみたいに、それこそ国民の間でね「自民党はとんでもない」と思っていますよ。
でもただね、もうひとつ、ここで僕はしゃべっているでしょ?
大西議員を批判していますよ。
これが実はガス抜きにもなっている。
これがね。じゃあ、たとえば、本当にマスコミがね、自民党の顔色をうかがっていないかというと実はわからない。今回のこれで。
本当にこういうことがあって、テレビとかラジオとか、こんなことに屈せず、堂々とこれからやってほしいと思います。
でもわからないよ。意外と・・・
このテリーさんの言葉は鋭いなと唸った。
問題の本質は、すごく重要なテーマなのに、いつしかニュースでは「大西議員」というドンキホーテというのかヒール役が出てきて、その人間ばかり追いかけている印象になっている。
自民党の体質や首相周辺の考え方の問題が、いつしか大西議員個人の問題にすり替えられたような・・・。
テリーさんのいう「ガス抜き」という言葉は、まさにそういうことだろう。
(堀江貴文)
そんなことあります?
(テリー)
あるかもわからないよ。可能性はなきにしもあらず。
(堀江)
まあ、百田さん、招いたりして勉強会やっている時点で、なんかそっち方面ですよね。
(テリー)
百田さんがああいう発言するって前から分かっていること。そういう人を・・・
(堀江)
勉強会に呼んでいるのは・・・。
安倍首相の趣味は右翼なんだって
という話を田原総一郎さんがしていたんですけど。趣味で右翼というか国粋主義的、みたいな。それやめたほうがいいじゃないかいたいな話をされていたみたいなんですよ。
安倍首相がそういうふうな、寄りの、考え方を持たれているんだと思うんですよ。だから・・・
ああ、言っちゃった・・・。
いきなり、ホリエモンから「安倍首相」と「右翼」を結びつける強烈なパンチ。
この人はまさに、テレビ出演の「お約束」なんて関係ない"自由人"だから。
これもみんなが思ってはいるけど、テレビが絶対に伝えない表現。
(テリー)
それとこれとは別だと思うの・・・今回。
(堀江)
百田さんを呼んだら、ああなりますよ。
(テリー)
呼んで意見を聞くってことは「私と一緒です」というふうに安心材料にしているんだと思う。
(ミッツ・マングローブ)
パフォーマンスを使うことによって何かを盛り上げようという時に、これぐらい影響力のある、とっても売れっ子の作家さんこうやって呼んで、
絶妙なタイミングでこれぐらい過激なことを言わせる。
でもけっきょく、こうやって過激なことに一回触れると、そうじゃない心理が働いて、策に溺れるってこともある。
(テリー)
安倍さんね、本当に怒っているんだったら、さきほどの
(大西)議員をクビにしないとダメ
だと思う。
(デーブの声?「怒ってないのが問題だ」)
怒ってないかもしれないけど。
よく言ったと思っているかもしれないけど。内心は。
心の中で思っているかもしれないけど、だけど国民はわからないわけですよ。厳重注意だかなんだか。
確かに「厳重注意」って、給料が減るでもないし、国会議員としてのペナルティーはなし。
そこはニュース番組はもっと突っ込んで欲しいのに、ほとんど突っ込むキャスターなどいない。
私の知る限りはフジテレビの『直撃LIVE グッディ!』のキャスターの高橋克実がコメントしていたぐらい。
(デーブ)
ああいう空気を作った政権だって。みんなカルト信者みたい
になっていて。勉強会じゃなくて、不勉強会ですよ。百田氏は歴史の作品を書いているのに歴史から何も学んでいないですよ。
さすがデーブ・スペクター。
外国人ならでは視点かもしれない。
何か日本人が集団で異論を排除する時の雰囲気を「カルト信者みたい」と評する。
これは当人たちから怒られるかもしれないが、一つの見方としては説得力がある解説だといえる。
(堀江)
百田さん、小説、面白いけどね。
(太田)
「永遠のハゲ」って面白かったよ。
(田中)
「永遠のハゲ」じゃない、「永遠のゼロ」。
太田のギャグのセンスはここで光る。
(デーブ)
「飛行機って、右翼も左翼もあるから飛べるのであって、沖縄の2つの新聞・・・」
このデーブの一言をきっかけに、ちょっとした「メディア・リテラシー」の授業のような感じになる。
それも堅苦しくなく、わかりやすい。
大学で同じような授業を受け持っている人間としては、やられた感じ。
(テリー)
「うまいこと言うね。
百田さんが、朝日新聞と毎日新聞と東京新聞を批判したでしょう? あれも実は間違いで、もちろんこの3つも。でも、産経も読売も偏っている部分あるわけです。
これ、両方見るから面白いんです。
両方見てね、ああそうか、こんなこと考えているのに対して、こっちはこんなふうに考えているのかと」
(堀江)
「両方読んでいる人いないですからね。あんまりね。全然言っていること違いますからね」
(太田)
「見比べて見ると面白いところ」
(テリー)
「比べると面白い」
(ミッツ)
「バランス感覚っていうかそのセンス、絶対必要ですね」
そうなんです。
「この主張が絶対に正しい」と絶対視することの怖さやうさんくささをテリー伊藤やデーブ・スペクター、堀江貴文、ミッツ・マングローブは伝えている。
この人たち、さすがです。
(テリー)
「さきほどの
大西議員の言ったことはナチスと変わらないんですよ。
(自分の)嫌なものは全部つぶしていく」
(杉村)
「百田さんの発言は一作家の発言はいいんですよ。それはそれでも」
(デーブ)
「でも呼んだ側はねえ・・・」
(太田)
「冗談で言えばなんでもすまされると思ったら大間違いだよ」
(スタジオ・笑い)
(田中)
「お前が言うな! お前が一番それじゃねえかよ」
(杉村)
「オンレコ、オフレコの話あるでしょう? あんなねえ、党本部で正式な勉強会でしゃべってね、オンもオフもないんですよ」
(ミッツ)
「絶妙に計算されているんですよ、頭のいい方は」
(堀江)
「この人(百田氏)は完全に確信犯ですよ。間違いなく。百田さん呼んだ人たちも確信犯ですよ」
(ミッツ)
「それにみんな気づいてますよってこと。国民というか世の中も」
(テリー)
「自民党にとっては今回大きなねえ・・・今後どうなっていくんでしょうか」
さて、毒のある笑いに包んだ放送だったものの、頭の硬い政府・自民党の議員たちにそのジョークがちゃんと通じたかどうかはわからない。
ひょっとすると、週明けに自民党や首相官邸などからTBSにクレームなどがあるのかもしれない。
なにしろ、「スポンサーに働きかけて報道を規制しちゃえ」などと考える人々である。
もちろん、そんなことになったら世も末だが、局の制作者や出演者らにとってはヒヤヒヤする放送だったのではとも想像する。
そんな放送を果敢に行った番組関係者。
言うべきことを言った出演者、なかでもテリー伊藤とデーブ・スペクター、堀江貴文、ミッツ・マングローブらの勇気には讃えるべきものだと思う。
もしも、この番組が「偏向だっ!」などと、自民党からイチャモンをつけられても、私は断固として番組を支持する。
今の日本には、こうしたテレビ番組が必要だ。
政治のことやテレビの役割、言論の自由について、わかりやすく、笑いを含めながらトークする。
しかも生放送で脱線しながら・・・。
これこそテレビの面白さだなあとつくづく思った『サンデー・ジャポン』だった。
毒にも薬にもならない番組が多い、今の多くのテレビ番組。
でも、毒を含んだ笑いもたまには提供してほしい。
もしかしたら生放送の終了後、すでに自民党の幹部からTBSに抗議の電話がかかっていることも十分にありうる。
TBSは、4月のNHKやテレビ朝日のように与党の呼び出しなどに応じることなく毅然と振舞ってほしい。
この程度の放送でも批判される側に笑ってすませる余裕がなく、『サンジャポ』が懲らしめられる状況に陥ってお咎めがあったら、日本社会は本当に「ファシズム」を心配すべき段階に来ている。
(2015年7月5日「Yahoo!ニュース 個人」より転載)