巨大硫黄酸化細菌のゲノム(遺伝情報)を、北海道大学低温科学研究所の小島久弥(こじま ひさや)助教と福井学(ふくい まなぶ)教授らが解読し、その機能の一部を解析した。細胞内に硝酸イオンを蓄積する能力を持つ一群の巨大硫黄酸化細菌は、細菌としては大きなサイズで、海や湖沼、河川での炭素・窒素・硫黄・リンの循環に重要な役割を果たしている。その元素循環の解明に向けた突破口となる成果といえる。宮崎大学の林哲也(はやし てつや)教授、東京工業大学の黒川顕(くろかわ けん)教授らとの共同研究で、10月24日付の英科学誌The ISME Journalオンライン版に発表した。
研究グループは、北海道の支笏洞爺国立公園にある周囲5キロほどのオコタンペ湖の底で、硫黄酸化細菌の一種のThioploca ingrica(チオプローカ)を採って調べた。オコタンペ湖は支笏湖の北西の原生林に包まれた美しい秘湖で、特別保護地区内にあり、立ち入りが禁じられているが、環境省や森林管理署の許可を得て、研究用に採取した。
硝酸イオンを蓄積する硫黄酸化細菌は純粋培養ができないため、今も謎が多い。チオプローカは細胞が連なって糸状体を形成し、それが束になって数センチに達して肉眼で見える。世界各地の湖沼に生息し、国内では琵琶湖や青森県の小川原湖からも見つかっている。チオプローカ属が記載されたのは1907年と早かったが、100年余の時を経て、詳しい研究がようやくできるようになった。
研究グループは、複数の微生物が混在する状態でDNAを抽出し、片っ端から次世代シーケンサーで配列を読むメタゲノム解析を実施した。DNAの配列を再構成して、480万塩基からなるチオプローカの環状ゲノムを突き止めた。さらに、洗浄したチオプローカの試料からタンパク質を抽出して網羅的に解析、ゲノム上の遺伝子がタンパク質として発現して、重要な機能のいくつかが実際に湖沼の堆積物中で発揮されていることを確認した。
存在がわかった遺伝子を解析して、生育に必要なエネルギーや細胞を構成する材料(炭素・窒素・リンなど)をどのように獲得しているかを推定することもできた。チオプローカの重要な機能のひとつとして、硝酸イオンから窒素ガスへの還元(脱窒)がある。この脱窒は、富栄養化の原因の窒素化合物を水域から除去している。チオプローカが実際に湖沼の富栄養化防止にどの程度寄与しているかを探ることも課題という。
この謎の巨大硫黄酸化細菌のゲノムを解読した研究グループの小島久弥さんは「ゲノム解読は研究の新しい出発点である。硝酸イオン蓄積硫黄酸化細菌は海底に大量に生息し、海洋の窒素などの循環に大きく影響していることが知られている。地球上の元素循環を解明するためにも、この巨大硫黄酸化細菌のゲノムを深く読み込みたい」と話している。
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・北海道大学 プレスリリース