水月会、高橋一郎先生など

議員になって30年近く経ち、渡辺先生はなんと難しいことを言われたのかと痛感するばかり。

石破 茂 です。

新政策集団「水月(すいげつ)会」が28日発足致しました。

政策の練磨を最優先とし、国民の納得と共感を得るべく、常に国民と正面から向き合うように行動する、あるべき政策集団を目指してまいります。

昭和59年、渡辺美智雄先生は、「政治家とは、勇気と真心をもって真実を語るのが仕事である」と私たちに述べられました。

「真実」を真摯に探究することは極めて困難な作業であり、しかも見出した「真実」は、安全保障であれ、社会保障であれ、産業・エネルギー政策であれ、往々にして国民の耳に心地良いものではないことが多いものですが、それを語る勇気を持たねばなりませんし、それを実現するためには「あの政治家が言っていることには耳を傾けてみよう」と思っていただける「真心」が必要なのだ、という意味だったと思います。

初めてこれを聞いたときには、至極当然のことと思ったのですが、何故か心に強く残るものがあり、講演のテープを取り寄せて、昭和61年に初当選するまでの間、何度も聞き返したものでした。

議員になって30年近く経ち、渡辺先生はなんと難しいことを言われたのかと痛感するばかりです。

「次の選挙に当選するため」「支持率を上げるため」などというのは手段に過ぎないのであって、それ自体が目的なのではありません。「政治家は次の時代を考え、政治屋は次の選挙を考える」というのはまさに真理ですが、次の選挙に落ちては次の時代を考えることはできません。だからこそ、耳に心地良くない真実を語っても落選することのない、平素の誠意と真心が伝わる日常活動が必要なのだと思っています。

「この程度の国民にこの程度の政治家」と嘯く人がいますが、私はそうは思いません。

確かに「私は政治家を信じている」という人は極めて稀でしょう。しかし「どうせ難しいことは国民にはわからない」「これを言っては人気が下がる、選挙に落ちる」と言って、耳に心地よいことばかり述べ立てる政治家が仮にいるとすれば、それは心の中で国民を軽侮し、信用していないということなのではないでしょうか。国民を信用していない政治家が、国民から信用される道理はありません。

敗戦の混乱期を脱して以来の日本は「冷戦構造」「経済成長」「人口増加」「地価上昇」という四つの前提のもとに政策を立案し、国家を運営して成功を収めてきました。

その四つの前提すべてが崩れ去ったにも拘らず、過去の蓄積に縋り、次世代へのツケ回し構造と、労働者や下請け企業に負担を負わせる形で今日まで来てしまった、というのが、痛切な反省を込めての私の認識です。

既得権益を享受する世代や勢力の相対的な多さや、ツケを回される世代や勢力の政治的無関心あるいは諦観も相俟って、これらを転換することは決して容易ではないでしょう。しかしこれらを転換しない限り、日本国はその持続可能性を急速に失っていくことは確実です。

水月、とは禅に由来する言葉で、「水面に月が映っている。月は水面に映ろうとしているのではないし、水面は月を映そうとしているのでもない。互いが己を主張することなく、見事に調和を保っている」というような意味かと思います。

無私、無欲、己を誇らず、相手を貶めず、ひたすら研鑚に励み、世の中のために尽くす集団であるべし、との思いを込めた谷中全生庵の平井正修ご住職から授かりました。

元衆議院議員 元東京都議会議長 高橋一郎氏が、さる9月25日逝去されました。享年89。

昭和61年初当選の同期自民党議員の最年長で、同期会「七夕会」の会長を在職中ずっと務められ、洒脱な人柄と沈着冷静な判断力で存在感を発揮されました。

年代も、経歴も、派閥も全く異なりますのに、同期最年少の私を何故かいつもお心にかけて頂き、政界引退後もよくご連絡をいただき、励まして下さいました。

本来なら同期で一番最初に入閣して頂きたい方でしたが、政治改革の激動の嵐の中で、自民党離党、新進党参加、自民党復党と波乱の政治生活を過ごされ、5期で政界を引退されました。

自民党の同期当選は46人、その多くが志を遂げないままに物故したり、落選したまま再び戻ってこなかったりで、今も国政の場に残っているのは数人しかおりません。波乱万丈、毀誉褒貶の中で今も議員を続けさせていただいていることの重みを改めて思います。

週末は、三日土曜日が関西八頭町会(大阪市)、オリーブ牛飼育状況視察、香川県知事、国会議員、県会議員、町長との意見交換会、子安観音寺関係者との懇談会(香川県土庄町)。

四日日曜日が土庄町合併60周年記念行事、子安観音寺本堂落慶法要並びに祝賀会(同)、高松市丸亀地区まちづくり視察(高松市)という日程です。

秋も深まりつつあります。もう10月なのですね。お元気でお過ごしくださいませ。

(2015年10月2日「石破茂公式ブログ」より転載)