9月10日はWHOが決めた世界自殺予防デー。自殺企図の再発予防にきめ細かい支援プログラムが有効なことが日本の大規模な研究でわかった。厚生労働省の「自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究」(通称・ACTION-J)の結果で、自殺予防に役立つ対策として医療現場で普及させる必要がありそうだ。成果は、国際的精神医学専門誌のThe Lancet Psychiatry8月号に発表された。
自殺のリスク要因のうち、最も明確なのが「自殺未遂の既往」である。自殺未遂者が自殺を再び企図し、自殺に至ることがないようにするため、多くの介入研究が世界中で試みられてきた。しかし、その有効性が科学的に検証された支援法は報告されていなかった。自殺企図者の大半は救急医療で治療を受けるので、精神科との連携が課題だった。
この研究は、横浜市立大学の平安良雄(ひらやす よしお)教授(精神医学)がリーダーを務め、自殺未遂者に対する支援プログラム(ケース・マネージメント)を新たに開発した。支援プログラムは、対象者との定期的な面接、精神科受療の促進、心理教育と情報提供など8項目からなる。救急医療部門と精神科が連携関係にある17施設からなる全国規模の研究班(ACTION-J)が組織され、その効果を多施設共同無作為化比較試験で検証した。
対象者は、自殺企図により救命救急センターに入院した方々で、2006~09年の登録期間に計914人の自殺未遂者(男性400人、女性514人)が協力をした。そして、ケースマネージャーが入院中と退院後も支援プログラムを実施した介入群460人と、入院中に支援プログラムを実施した後に通常治療や資料配布を受けた対照群454人に分けて、1.5年以上(最長5年)追跡調査した。介入群の70%の方々が当初の計画通りに支援プログラムを受けた。介入群と対照群の年齢や性別などはほぼ同じで、経過を比較した。国際的にも、これほど大規模な無作為化比較試験は少なく、研究開始当初から注目を集めていた。
その結果、支援プログラムを実施した介入群で、自殺を再企図した人の割合は対照群に比べて、1カ月後に0.19、3カ月後に0.22、6カ月後に0.50、1年後に0.72、1年半後に0.79まで減っていた。6カ月まで自殺企図の抑制効果は統計的な有意差があった。支援プログラム実施は、統計学的にみて自殺未遂者の自殺再企図を5年の長期間にわたって抑制するには十分でなかったが、6カ月にわたって強力に抑制した。この効果は、特に、女性、40歳未満、過去の自殺企図歴があった自殺未遂者により強く認められた。
ACTION-Jの河西千秋(かわにし ちあき)横浜市立大学教授は「この支援プログラムは医療現場での実効性が高く、国際的にも重要な知見だ。この支援プログラムを実施できるケースマネージャーの育成が欠かせないが、今回の成果を日本の救急医療の現場に普及させれば、自殺未遂者の自殺再企図を、そして自殺既遂を減らせる」と、救急医療と精神科を軸としたチーム医療のモデルを提言している。
関連リンク
・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース