平均給与が下がり続けている。国税庁が9月に発表した調査によると、国内における民間給与は2年連続で減少したことがわかった。これは、24年前の給与水準と、ほぼ同じだ。従業員の数は増えているのに給与総額の減少が止まらないという。なぜこのような状況が起こっているのか。
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平均給与は何と24年前と同水準。日本がひたらすら生産性を下げてきた理由は雇用維持
アベノミクスで賃上げが期待されているが、足元ではまだまだ賃金減少が続いている。国税庁が9月に発表した民間給与実態統計調査によれば、2012年の民間平均給与は408万円となり、2年連続で減少していることが明らかになった。この金額は1989年とほぼ同じ水準であり、約四半世紀も前の水準に逆戻りしてしまったことになる。
国税庁では毎年、民間企業で働く従業員の給与を調査している。2012年の給与所得者数は5422万人で、前年より0.1%減少した。一方、支払われた給与の総額は前年より2.4%減少しているため、平均給与が減少した。
2012年は従業員の数が減少しているが、ここ20年は基本的に従業員の数が増加している。賃金が下がり続けているのは、従業員の総数は増えているにもかかわらず、給与総額の減少が止まらないためだ。
2012年の平均給与は24年前の1989年と同水準だが、当時の給与所得者数はわずか3850万人であり、現在の7割しかいない。従業員は1.5倍近くに増えているのに、給与総額は1.2倍にしかなっていないのだ。バブル崩壊後の20年は1人でできる仕事を1.2人、1.5人と増やしていき、ひたすら生産性を下げることばかりに専念してきたといえる。バブル崩壊後、他の先進国はGDPを1.5倍から2倍に増やしているのに、日本だけが横ばいだったことを考えるとこの結果はある意味で当然といえる。
日本が結果的に生産性の低下に邁進してきた原因は明らかである。それは雇用の維持だ。日本は企業の生産性の向上よりも雇用の維持を優先させてきた。だが経済が拡大しない中ではそれにも限界がある。従来の環境では雇用を維持できなくなった分は非正規社員という形で極端に給料が安い就労形態に切り替え、正規社員の給与も抑制することによって、なんとか全体の雇用を維持してきたということになる。
ちなみに、国税庁では今回の調査から正規社員と非正規社員を区別して統計を取っている。全体平均は408万円だったが、正規従業員は467万円、非正規従業員は168万円となっており、正規従業員は非正規の3倍近くの給料をもらっている実態も明らかになった。
企業の生産性が低下したままでは、そこから成長の芽が出てくる可能性は低い。これが景気低迷を長引かせ、さらに雇用の維持が厳しくなるという悪循環を繰り返すことになる。安倍政権の登場によって、20年続いてきた賃金減少に歯止めがかかる可能性が見えてきている。だがアベノミクスによる景気の回復は、財政出動を伴う大型の公共工事と景気循環局面がうまく重なったものである可能性が高く、日本経済の本質的な構造が変化しているわけではない。
オリンピックの東京開催が決まり、今後7年間は大型の公共工事が続く可能性が高くなってきた。日本はつかの間の景気回復を謳歌することができるかもしれないが、産業構造の転換を伴わないまま、オリンピック終了を迎えた時には、かなりの反動不況がやってくることになるかもしれない。
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