ひしもち、赤・白・緑の色には意味があった。「ひな祭り」の豆知識

ひな祭りに知っておきたい豆知識をご紹介します 🎎
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3月3日は「ひな祭り」。真っ赤なひな段の色鮮やかな着物に身を包んだひな人形に加えて、お供えの赤・白・緑、三色重ねの菱餅(ひしもち)は、穏やかで楽しい雰囲気をいっそう引き立ててくれる存在です。

菱餅の三色にはどんな由来があり、どんな意味が込められているのでしょうか。また、“女の子のお祭り”とされるひな祭りの歴史などについても、歳時記×食文化研究所代表の北野智子さんに教えて頂きました。

ひな祭りの由来は?

まず、ひな祭りとはどのような意味を込めて催された風習なのでしょうか。

「ひな祭りは桃の節句、上巳(じょうし)の節句とも呼ばれ、3月3日に女の子の健康と幸福を祈って行われる行事です。男の子の成長を願う5月5日の端午(たんご)の節句などとともに、五節句の一つになっています。

上巳の日とは旧暦三月の最初の巳(み)の日をいい、古代中国では邪気に見舞われやすい忌日(いみび)とされ、川へ入って穢(けが)れを祓(はら)う行事がありました。

それが日本へ伝わり、紙や土の形代(かたしろ=人形[ひとがた])を作って身体を撫(な)でて穢れを移し、川や海へ流すようになったのです。これが流しびなの風習につながっていきます。

さらに、奈良時代から平安時代にかけての貴族が3月3日に催していた『曲水の宴(きょくすいのえん)』や、平安貴族の『ひいな遊び』とも結びつき、ひな祭りが生まれたとされています」(北野さん)

ひな人形はその頃から飾られていたのでしょうか。

「3月3日にひな人形を飾るようになったのは、室町時代からといわれています。当時のひな祭りは貴族や武家など、限られた上流社会だけで行われていたようです。

ひな段にひな人形を飾り、桃の花、菱餅、ひなあられ、白酒などを供えるようになったのは、江戸時代からといいます。3月3日の桃の節句が五節句の一つに定められたこともあり、ひな祭りは庶民の間でも広く行われるようになりました」(北野さん)
 

菱餅は子孫繁栄を願うもの

ひな祭りに菱形の餅、菱餅が供えられるようになったのは、どんな理由からなのでしょうか。

「ひな祭りに欠かせない菱餅は、植物としてのヒシの強い繁殖力にあやかり、子孫繁栄を願うものとされています。また、ヒシの実は滋養強壮によいとされてもいました。

菱餅の菱形の由来は諸説あります。邪気を祓う神聖な木とされた桃の葉をかたどったとか、インド仏典には竜に襲われそうになった娘をヒシの実で退治して救ったという説話があります。

民俗学では鏡餅と同じように、心臓をかたどったったものとします。『三省堂年中行事事典』には、『この日各地で用意される菱餅・桃の花・白酒は、かつて蓬(ヨモギ)の草餅や桃酒によって邪気を払おうとした名残である』とあります。

これらのことから、ひな祭りに供えられる菱餅には、女の子の健康と成長、幸福などを願うため、邪気を祓い、子孫繁栄を祈る意味が込められているのではないかと考えます」(北野さん)

菱餅の三色の意味

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菱餅はいつ頃から供えられるようになったのでしょうか。

「菱形の餅は室町時代から、祝いの席などに用いられていたといいます。

塙保己一(はなわ・ほきいち)が江戸時代の1819(文政2)年までに編纂(へんさん)した国学・国史書『群書類従(ぐんしょるいじゅう)』で、室町時代の記事として『おもてむき御対面過(すぎ)て、内々の御祝まいる、次にあかきもちゐ(い)白きひしの餅をやがてかさねて、ちぎりて、角之折敷へすへ(え)』とあります。

御対面とは貴人同士の面会をいい、その祝席に菱餅が供されたようです。

菱餅はもともと『菱はなびら』と称して、宮中の正月の祝い膳に供えたとされます。丸い小型の白餅を炙(あぶ)り、その上にアズキ色の菱餅を重ね、砂糖煮の細牛蒡(ゴボウ)を載せます。桜町天皇の頃(1720~50[享保5~寛延3]年)に始まるという説があり、丸く白い餅は初春に咲く梅の花を表し、菱形は、桃の花をかたどるといいます。

1688(元禄元)年に著された『日本歳時記』のひな祭りの食べ物に添えられた挿絵には、ひな人形の前に菱形の餅が見えますので、江戸時代初期にはひな祭りに菱餅を供えていたと思われます」(北野さん)

菱餅の三色には、どんな意味があるのでしょうか。

「江戸時代の菱餅は緑と白の二色で、上段が緑・中段が白・下段が緑色でした。緑は母子草(ハハコグサ/御形=ごぎょう)やヨモギを使った草餅と、白餅の組み合わせでした。

1853(嘉永6)年の風俗誌『守貞漫稿(もりさだまんこう)』には、ひな祭りの菱餅は3段重ねで上下が緑・中が白、菱形の台に載せて供えるとあります。1911(明治44)年の『東京年中行事』には、赤・白・緑の三色とありますので、現在と同じ三色の菱餅を供えるようになったのは明治以降のようです。

現在の菱餅は赤・白・緑の三色がほとんどで、赤=桃の花、白=雪、緑=若草(ヨモギ)を表し、それぞれ『魔除け』『清浄』『邪気祓い』の願いが込められています」(北野さん)

草餅の食べ方などに決まりのようなものはありますか。

「おひなさまへのお供えなので、3月3日のひな祭り当日か、それ以降に食べるのがいいのではないでしょうか。

食べ方に特段の決まりはなく、三色の餅それぞれの境い目に軽く包丁を入れてはずした後、普通の餅と同じように、オーブントースターなどで焼いて食べるのが一般的です。焼き上がったら、醤油や砂糖醤油をつけるなど、各人の好みでいただきましょう。ちなみに、鏡餅のように刃物を入れてはいけないという風習はないようです」(北野さん)

菱餅の三色には、さまざまな願いや思いが込められていることがわかりました。ひな祭りではまず、ひなあられを口にしながら人形たちを愛で、その意味を思ってみてはいかがでしょうか。

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