袴田さんの無罪をめぐり、東京新聞は「えん罪を生んだ責任はある」。毎日もおわび、朝日は経緯報告を掲載

毎日新聞は逮捕当時の報道のあり方について「容疑者の人権に配慮する意識が希薄だった」と振り返っています

1966年に起きた、静岡県みそ製造会社の専務一家殺人事件の再審で無罪が言い渡された袴田巌さんについて、毎日新聞と東京新聞は9月27日、これまでの報道を謝罪する記事を掲載した。

袴田さんは強盗殺人罪などで1966年に逮捕され、1980年に死刑が確定したものの無罪を訴え続け、2度にわたり再審を請求した。

ようやく認められた2度目の再審請求の公判は2023年に開始し、静岡地裁(国井恒志裁判長)は袴田さんの「自白」やみそ工場のタンクから見つかった「5点の衣類」は捜査機関によるねつ造だったとして、2024年9月26日に無罪を言い渡した。

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袴田巌さん(2024年9月26日)
STR via Getty Images

袴田さんの無罪判決が大きく報じられる中、毎日新聞は1966年の逮捕や起訴、1審判決の自社報道を検証する記事を2面に掲載。「捜査当局の視点に偏った記事が目立ち、袴田さんを犯人視する表現もあった」と振り返った。

毎日新聞によると、事件当時は「全力捜査がついに犯罪史上まれな残忍な袴田をくだしたわけで、慎重なねばり捜査の勝利だった」と表現するなど、捜査当局側に寄った報道をしていた。

同紙はこの点について「捜査当局と一体化したような書きぶりだった」としている。

また、取調室に便器を持ち込んで用を足させるなど、再審で「屈辱的で非人道的」とされた捜査方法についても、「捜査手法に疑問の目を向けたものではなかった」と振り返った。

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毎日新聞が2024年9月27日の2面に掲載した謝罪記事

毎日新聞はこの検証記事とともに「人権侵害、おわびします」とする坂口佳代編集局長の声明を掲載し、1966年当時の報道について「逮捕された容疑者の人権に配慮する意識が希薄だった」と述べている。

また、「捜査当局への社会的信頼が厚く、捜査に問題があるかどうかを疑う視点が欠けていた」として、捜査機関の情報を自らチェックせず、犯人と断定して報道していたとも指摘した。

その上で「袴田さんが逮捕された際に犯人視するような報道を続けた結果、袴田さんとご家族、関係者の名誉を傷つけ、人権を侵害しました。また、読者に誤った印象を与え、新聞に対する信頼を裏切ることにもなりました。真摯(しんし)に反省するとともに、袴田さんとご家族、関係者、読者におわびします」と謝罪コメントをつづっている。

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東京新聞が2024年9月27日紙面の一面に掲載した謝罪記事

東京新聞は「袴田さんにおわびします」という見出しで、1面に検証記事を掲載した。

東京新聞によると、1966年に袴田さんが逮捕された日の夕刊で、同紙は「犯人はやはり『袴田』だった」と犯人扱いをする見出しで事件を報じていた。

他にも、袴田さんが「自供」をした後には、「ねばりの捜査にがい歌 袴田の仮面はぐ」と、捜査当局を称賛する見出しの記事を掲載していたという。

東京新聞は、「逮捕段階では罪が確定していないのに、袴田さんを『犯人』と報道した本紙にも、えん罪を生んだ責任はある」と述べている。

朝日新聞は当時の報道を振り返る記事を掲載し、袴田さんが容疑を否定していたにも関わらず、記者たちは犯人と決めつけて取材していたと振り返った。

記事の中では「警察と検察ばかり追いかけていて、弁護側に取材する発想もなかった。今振り返れば、袴田さんが否認したり弁護側から新たな証拠が出てきたりした際に、取材し直すべきだった」という、静岡地裁の初公判を取材した、元朝日新聞記者のコメントを掲載している。

なお、袴田さんの無罪判決はまだ確定していないため、当時同様の報道をしていたこの3紙以外の新聞社も今後おわびなどを掲載する可能性はある。