ジャニーズの性加害、子どもにどう伝える? 「性教育は『防災』のように」医師が提案

性犯罪って何?と聞かれたら、どう答えたらよいのか。実際に子どもが被害にあったらどうすればよいのか?産婦人科専門医の稲葉可奈子さんが子どもとの関係について書きました。

「ジャニーズ性加害問題」が連日報じられています。また、子どもを狙った性犯罪が発生しています。子どもと性被害について、産婦人科専門医の稲葉可奈子さんに原稿をお寄せいただきました。

▶️ジャニーズ問題、子どもへの伝え方
▶️被害に合う子どもを減らすには
▶️子どもが性被害にあったら

人気アイドルを多数輩出した「ジャニーズ事務所」創業者の性加害問題は、BBCから遅れたものの、ついに日本の大手メディアでも連日報じられるようになりました。

毎日のように「性加害」「性被害」というワードがテレビから聞こえてくるようになり、お子さんがいる家庭の中には、あえて子どもに見せないようにしたり、話題として触れないようにしたりしているご家庭もあったかもしれません。

普段、性教育のような話題を家でしない家庭にとっては触れづらいと感じるのも無理はないと思います。

しかし、子どもにも人気のアイドルグループ名が変更になるなど、説明をせざるを得ず困った、どうすればよいという迷いの声も耳にします。

性教育は「防災」

一方で、ジャニーズ問題だけではなく、性教育をちゃんとした方がよいとは思うもののどのように話せばよいか、どのように話を切り出したらよいか分からない…という保護者の声もかねてからよく聞いてきました。

今回のジャニー喜多川氏による性加害問題は、長年にわたって本当に多くの子どもたちが性被害を受けた、実に許しがたい事件で、被害に遭われた方々のことを思うと胸が苦しくなります。

この事件を知った今我々にできることは、これからの子どもが同様の被害に遭わないようにすること。

ジャニー氏はすでに亡くなっていますが、学校や習い事で子どもが性被害を受けたという事件も連日のように報道されており、これは決してジャニーズ事務所だけの問題ではありません。

学校の先生や習い事の先生、コーチのほとんどは、本当に子どものためを思って一生懸命指導して下さっているいい先生たちです。しかし、残念ながら、子どもに性加害を加える人が一部おり、いつ、自分の子がその被害に遭うかもわかりません。

万が一そのようなことがあった時に、なるべく被害を最小限にできるよう、どういう被害がありうるのか、どう対処するべきか。親としてはそれを知っていることは大切です。

性的なことだからと避けるのではなく、あくまで、だれにでもおこりうる被害、事件、として、「防災」と同様の観点でお伝え頂くのがおすすめです。

性教育と思うと親も話しづらいと思いますが、これは「防災」です。

地震や火事に対する防災訓練と同じなのです。

ではどのように子どもに話をするとよいか、具体的にお話ししていきます。

かしこまらなくてよい

親子関係にもよりますので、どのような雰囲気で話し始めるかは正解は一つではありませんが、かしこまって話そうとするとお互いギクシャクしてしまうこともあります。

たとえばですが、ジャニーズ問題がニュースで放送されている時に、

「これどういう事件か知ってる?」

と、お子さんに聞いてみます。その返事により、お子さんがこの事件をどうとらえているかが分かります。もし、よく聞くけどなんかよく分からない、という場合は、

「ジャニーズ」という名前だった男性アイドル事務所の偉い人が、アイドルになりたい子たちに性加害を犯していた、しかも長年にわたって、おそらく何百人も。アイドルになりたい子たちは、反抗したらアイドルになれないかも、と思って、我慢したり、性被害が嫌でアイドルになるのを諦めたりしていた。それが、大人たちもアイドルを利用してお金を稼ぐという自分の立場を守るため、などの理由で長年大きく問題としてこなかった。

とざっくり説明してあげて下さい。

多くのお子さんは、自分とは違う世界の話ととらえて「ふーん」もしくは「ひどいね」といった感想になるかと思います。

そこで、

これは大事件なんだけど、実はジャニーズだけの問題ではなくて、同じようなことが身近でおこる可能性もあるんだ。

もしプライベートゾーンをさわってきたり、写真や動画をとる人がいたら、それはよくないこと。あなたは悪くない。やっている人が悪い。
なので、まず、断ってよい。それでやめたとしても、されそうになったことを、必ずほかの信頼できる大人に知らせる。言いたくないと思うけど、知らせないと、誰か別の子が被害に遭うかもしれないから。

拒否すると、もしかしたら、あなたに不利益を被らせるとか脅されるかもしれない。それでも断るのはとても勇気がいることだけど、脅すことはしてはいけないことなので、我慢したり隠したりせずに必ず大人に知らせて。もし暴力で脅されそうな時は、とにかく自分の命を守ることを最優先に、可能であればとにかく逃げて。

もし、それを伝えた相手が、あなたのことを叱ったり、我慢しなさい、と言ったら、その人も間違っているので、ほかの人へ伝える。その人もダメならほかの人に伝えた方がよいけど、何人にも話すのは大変だし、何人にも言いたくないよね。わたし(保護者)はいつでもあなたの味方だから、よければわたしに話してね。

もし友達が被害にあったことを相談してきたら、大人に知らせることを教えてあげて。誰に伝えていいか分からなかったらわたし(保護者)に伝えてくれてもいい。

というような話をしてあげて下さい。あくまで一例なので、適宜アレンジして下さい。

ただ、思春期になればなるほど、親には言いたくなくなるもの。なので、たとえば信頼していた先生や部活のコーチなど、ほかのだれに伝えればいいのか分からない、という状況になった時や、だれかに相談したのにとりあってくれなかった時など、どんなに困った時でも、親は必ずあなたの味方よ、ということを、ちゃんと言葉で伝えておくことはとても大事です。

性被害とは?大前提として

この話をする時に、性被害とはなにか、というところが理解されているか、をこの機会に確認しておくとよいです。特に小さい子が被害に遭う時に、自分がされていることが性被害であると認識できていないことがあり、ただもちろん大きくなれば分かるので、のちのち大きなトラウマを抱えることになります。

まず、プライベートゾーンは、将来パートナーができるまでは、見ない、見せない、さわらない、さわられない、写真をとらない、とられない。

これが大前提として重要。

プライベートゾーン(プライベートパーツともいいます)は、水着で隠れるところと口。自分にとって大切な部分なので、他人には見せないし、他人のも勝手にさわったりしません。

最近は保育園や幼稚園で教えてくれるところもありますが、無意識のうちに被害者にも加害者にもならないように、言葉が通じる2〜3歳のうちから、普段から折に触れて伝えていくのがよいです。

被害者はやましくない

少し発展編になりますが、もう一つ大事なことがあります。一度にたくさん伝えるよりも、機会を分けて伝える方がよいかと思いますが、

性被害に遭った人を揶揄したり誹謗中傷してはいけない

ということです。

報じられているジャニー氏の性加害が、男性から男性への加害であったこともあり、一部の心無い人が、被害者の方々に「(被害に遭ったことを明るみにして)よく恥ずかしくないな」というようなことを言っていたそうですが、このような発言は被害者の方に対するセカンドレイプであり、たとえ直接でなくても決してあってはならないものです。

被害に遭った人は悪くないですし、被害を訴えることは恥ずかしいことではありません。むしろとても勇気あることです。被害を訴えることはとても勇気がいることだけれども、次の被害者を被害から守ることにつながります。

このような話も、唐突にはしづらいと思いますが、被害者に対する誹謗中傷についてニュースで取り上げられている時などに話すと話しやすいと思います。

ジャニー氏の性加害は、本当におぞましいものですが、大事なのは同じことを二度と繰り返さないことです。
性教育を家庭で、というのは難しいけれど、ぜひその話すきっかけにしてみて下さい。
このように、日々の事件やニュースについて一緒に考える、説明する、というだけで十分です。

たとえば、望まない妊娠で母親が赤ちゃんを遺棄してしまった、というニュースの時には、避妊の話をしたり、避妊をしないと妊娠する可能性がだれにでもある、射精する責任、などについて話すきっかけとなります。

学校の先生の性犯罪の報道があったら「ジャニーズの話の時にも話したけど、もし先生からなにかされたらすぐ教えてね」というように折に触れて繰り返し伝えておくことが大事です。

それでも、どうしてもこういう話題は自分で話しにくい、という場合は、漢字がある程度読める学年でしたらこの記事をそのまま見せる、でもよいと思います。

実際に相談されたら

なるべく子どもが被害に遭わないように、と、このように話しつつも、もし実際に子どもや生徒から相談されたら、どう対応したらいいのかと不安な方もいるかもしれません。

まずは、話してくれてありがとう、あなたはなにも悪くないよ、ということをちゃんと言葉で伝えてあげて下さい。

そして、どこに通報をするかは、どのような立場の人からの被害かにもよりますが、もし所属している学校や組織があればそこに連絡を入れつつ、そこが毅然と対応してくれるかは分かりませんので、並行して、一般的な性被害相談窓口にも連絡することをおすすめします。

DBS早期導入を

ちゃんと伝えることでお子さん自身が自衛できることも大事ですが、被害に遭わないのが一番です。日本は現状、性犯罪歴がある人が、子どもにかかわる仕事に就くことを制限することができません。たとえば、生徒に対する性加害の罪を犯した学校の先生が、塾の講師として勤める、ということができてしまいます。
一方、他国には、性犯罪歴がある人が子どもにかかわる仕事に就くことを制限するシステムがあり、英国ではDBS(Disclosure and Barring Service)と呼ばれています。日本版DBSを導入する動きがあるのですが、検討が不十分ということで法案提出が見送りとなっています。せめて再犯を防ぐためにも、防げる被害からは子どもを守るためにも、DBS早期導入を期待したいと思います。

これからもまだしばらく、ジャニーズ問題、性加害、といったワードが聞こえてくると思います。

大事なお子さんが、被害者にも加害者にもならないように、ぜひ大事な「防災」の話をしてあげて下さい。学校でみんなで考えるテーマとして取り上げてもよいと思います。

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稲葉可奈子さん(産婦人科専門医・医学博士)
Kanako Inaba