10月13日に厚生労働省が公表した「令和5年版過労死等防止対策白書」で、初めて芸術・芸能分野の調査が行われた。
芸能界での性加害やハラスメントの告発が相次ぐ中、調査では主に▽ハラスメントの状況、▽過酷な労働環境、▽低賃金の実態が浮き彫りになった。
暴力暴言、「体の露出」強制などの被害
調査では、俳優、スタントマン、声優、美術家、文筆家、クリエイターなど芸術・芸能の分野で働く実演家640人を対象にアンケートを実施した。
俳優・スタントマンに暴力・暴言などのハラスメントを受けた経験を尋ねると、28.7%が「仕事の関係者から殴られた、蹴られた、叩かれた、または怒鳴られた」、54.6%が「仕事の関係者に、心が傷つくことを言われた」と回答。
性的な被害を受けたと訴える俳優・スタントマンもおり、被害の種類は、▽恥ずかしいと感じるほどの体の露出をさせられた(9.3%)、▽仕事の関係者に必要以上に体を触られた(10.2%)、▽羞恥心を感じる性的な実演をしなければならない(8.3%)、▽性的な関係を迫られた(11.1%)だった。
また、声優・アナウンサーでも被害が目立ち、「傷つくことを言われた」は68.6%、「必要以上に体を触られた」「性的関係を迫られた」はいずれも14.3%、「恥ずかしいと感じるほどの体の露出をさせられた」は11.4%で、これらの項目は、他の職種より高い結果となった。
俳優らの低賃金問題。月収「20万円未満」が6割
調査では、芸術・芸能分野で働く人の長時間労働の傾向も明らかになった。
1週間あたりの拘束時間・労働時間が60時間以上の者が、同調査で明らかになった全業種の就業者全体の7.5%より高かったのは、▽美術家(31.1%)、▽俳優・スタントマン(21.5%)、▽音楽・舞踊・演芸(17.2%)、▽伝統芸能(8.1%)だった。
さらに特に俳優・スタントマンの低賃金の実態も浮き彫りとなった。1カ月の収入額は、「40万円以上」の割合が最も低い8.9%で、一方「20万円未満」の割合が60.7%で最も高かった。
この調査をふまえ、白書では、業界団体などが中心となり、それぞれの職種の特性を踏まえた上で、「芸術・芸能関係又はそれ以外の仕事に従事する時間や心身の健康、幸福感などとのバランスを考慮しつつ、メンタルヘルス対策やハラスメント対策を含む仕事環境の向上の取組を推進していくことが望ましい」とまとめている。