芥川賞に『この世の喜びよ』『荒地の家族』、直木賞に『地図と拳』『しろがねの葉』が選出

芥川賞、直木賞ともに2作品が選ばれた
|
Open Image Modal
左から芥川賞の井戸川射子さん(撮影:田中尚樹)、佐藤厚志さん(提供:新潮社)、直木賞の小川哲さん、千早茜さん
日本文学振興会提供

日本文学振興会は1月19日、第168回芥川賞・直木賞の選考会を開き、芥川賞に井戸川射子さん(35)の『この世の喜びよ』(群像7月号単行本は講談社)と佐藤厚志さん(40)の『荒地の家族』(新潮12月号単行本は新潮社)を選んだ。ともに芥川賞の候補になったのは初めて。

直木賞は小川哲さん(36)の『地図と拳』(集英社)、千早茜さん(43)の『しろがねの葉』(新潮社)。直木賞の候補作となったのは小川さんが2回目、千早さんが3回目。

芥川賞に井戸川さん、佐藤さん

芥川賞の井戸川さんは1987年、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒。『する、されるユートピア』(2018年私家版、2019年青土社)でデビュー、中原中也賞受賞。

受賞作は、幼い娘たちとよく一緒に過ごしたショッピングセンターの喪服売り場で働く「あなた」が主人公。フードコートの常連の少女と知り合い、言葉にならない感情を呼び覚ましていく様を描いた。

佐藤さんは1982年、宮城県仙台市生まれ。東北学院大学文学部英文学科卒業。仙台市在住、丸善仙台アエル店勤務。2017年、『蛇沼』(2017年新潮11月号)で第49回新潮新人賞を受賞し、デビュー。

受賞作は、40歳の植木職人・坂井祐治が主人公。「あの災厄」の2年後に妻が病死し、仕事道具もさらわれ、苦しい日々を過ごす。地元の友人もくすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らないという、止むことのない渇きと痛みを描いた。

直木賞に小川さん、千早さん

直木賞の小川さんは1986年、千葉県千葉市出身。東京大学教養学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退。2015年、『ユートロニカのこちら側』(早川書房)で第3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、デビュー。

2019年、『噓と正典』(早川書房)は第162回直木賞の候補作。今回、2回目の直木賞候補となり、受賞が決まった。

受賞作は、日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で暖をとれる「燃える土」をめぐって繰り広げられる知略と殺戮を描く、SF(空想科学)を取り入れた歴史小説。

千早さんは1979年生まれ、立命館大学文学部卒。2008年、『魚神』(集英社)で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。

2013年の『あとかた』(新潮社)、2014年の『男ともだち』(文藝春秋)で直木賞候補に。

受賞作は、戦国末期にシルバーラッシュに沸く石見銀山が舞台。天才山師・喜兵衛に拾われた少女・ウメは、女だてらに坑道で働き出す。しかし、徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出される。生きることの官能を描き切った大河長篇。