あなたの給食で出ていた牛乳はどれ? 6000件の回答から全国マップが完成。膨大なリサーチに込められた思いとは

地図大手ゼンリンの担当者「ゆる募で始めたが、ちょっとやりすぎてしまった」

「#小学校の給食の牛乳といえば」というハッシュタグとともに、地図大手ゼンリンがTwitter上で「ゆる募」で行った企画が話題になっている。各都道府県で提供されていた給食牛乳をまとめた「全国地図」まで作ってしまった。

でも、なぜ地図の会社が学校給食の牛乳について真剣に調べているのか。この企画を手がけたゼンリンのTwitter担当者に話を聞いた。すると、地図や地理にまつわる「地的ネタ」に対するもともと持っていた熱い思いと、酪農や乳業メーカーが年末年始に直面する社会課題の解決の一助になりたいという企画を通して芽生えた思いが見えてきた。

企画の発端は2022年夏の社内会議だった。SNS発信の戦略を話し合うために週1回開いているもので、ツイッター上で会話のきっかけとなるネタは何だろうと話し合っていたときだ。地域差があるものを探していると、「給食の牛乳って全然違うのでは」という案が出たという。

10月21日夕に、「【ゆる募】小学校のときの給食に出た牛乳(銘柄)を、出身都道府県・市区町村と一緒に教えてください!地域によって特色がありそうですよね。都道府県別で地図にしてみようかと思っています #小学校の給食の牛乳といえば」と投稿した。続いて、都道府県、年代、牛乳の銘柄、ひとことの4項目を書き込める投稿フォームを投稿した。

「ゆる募」が「ガチ募」に

ゆるく始めた募集だったが、12月20日時点で回答数は計約6700まで集まった。全47都道府県を網羅し、市区町村数は全体の73%にあたる1384まで集めた。地元に牛乳の生産工場があるという人からの回答が目立った。社会科見学などで工場を訪れたことで、給食牛乳の記憶が強化されたとみられるという。

最初のつぶやきの直後から、Twitter上では「(福岡県の)大牟田はオーム乳業さんです」「鳥取県、多分全域で白バラ牛乳です」「青森県おいらせ町 萩原乳業さんでした」と盛り上がり始めた。「牛乳の画像が見たい」という希望の声もあったため、ゼンリンの担当者は回答で寄せられた全国の乳業メーカーや牧場一つ一つに電話をかけたという。

「画像を送りたいけどやり方がわからん。FAXでもいい?」という牧場長にも何とかデータで送ってもらうことに成功し、81社から商品の画像提供を受けた。この2ヶ月間で関東版(北部)や北陸/甲信越版などの地域版を10種類と全国版の地図を完成させた。

予期せぬ人からの訪問

担当者のやる気に火をつけたのは、投稿を見た農林水産省職員からの訪問だった。学校が冬休みに入る年末年始には牛乳の消費量が極端に落ちるという酪農業界の現状を訴えられた。日本では年間約400万トンの牛乳の飲まれており、学校給食がこの1割を占める。冬休みに帰省や旅行で家をしばらく留守にする人たちが牛乳を買い控えることも消費抑制につながっているという。

生産現場や乳業メーカーからの反応も励みになった。「コロナ禍以降、乳業、酪農業界では余乳対策に取り組んでいる。乳を廃棄しないようにこの冬も苦慮している。この取り組みで牛乳の需要が喚起されることを願っている」や「乳業メーカーとしても大変参考になるマップだった。ゼンリンの事業と社会課題を結び付けた素晴らしい企画だと改めて感銘を受けている。生乳が廃棄の危機を迎える中、乳業業界の一員として御礼申し上げます」といった企画当初は想定していなかった反応があった。

ゼンリンの担当者の間でも今回の企画を通して牛乳への興味や関心が高まっている。朝食に飲んでいたヨーグルト飲料を牛乳に変えたという人や、ふるさと納税で牛乳を頼んだという人もいるという。

担当者は「ゆる募で始めたが、ちょっとやりすぎてしまった」と言いながらも、「直接どこまで消費につながるかはわからないが、牛乳についての会話量は増やせていると思う」と話す。ツイッター上でずっと牛乳が話題になっているから気になって買ったという人も出てきているという。