障害児を通常の教育から「分離」しているとして現状の特別支援教育をやめるよう、国連が日本政府に強く要請したことを巡り、障害児の教育環境の整備を求める団体は12月6日、文部科学省に国連の指摘に沿った対応を求める要請書を提出した。
要請したのは、国連に障害者団体側の意見を伝える「パラレルレポート」を提出した4団体を中心とし、全国の110以上の障害児の支援団体などが賛同する「国連勧告実施・インクルーシブ教育実現ネットワーク(準備会)」。
要請書では、これまで文科省が国連の指摘への対応に慎重な姿勢を示してきたことを挙げた上で、「(国連の報告書に沿って)政策を見直さないことは、日本は条約を遵守せずに誠実に履行しないと表明することと同一で、(障害者権利条約の)条約締結国として恥ずべき行為」と指摘。国連の勧告を踏まえた教育体制の見直しや法改正などの対応を求めた。
同日、要請書を受け取った文科省特別支援教育課の担当者は「(国連の指摘を)『一言一句守らなければ条約違反』とはされていない」とした上で、「特別支援教育を直ちに廃止することなく、インクルーシブ教育の環境整備を進める」と説明した。
国連の勧告に慎重な文科相の発言、撤回を要求
国連の障害者権利委員会は2022年、日本が同条約に基づく対応を実施しているかどうかを確かめる「対日審査」を初めて実施し、9月9日に審査結果として報告書を公表した。
報告書では、障害児が特別支援学校や特別支援学級に「分離」されることで通常の教育を受けにくくなっているとして懸念を表明し、障害児を分離する現状の特別支援教育をやめるよう日本政府に強く求めた。
国連は、文科省が2022年4月に全国の教育委員会に発出した通知で、特別支援学級に在籍する児童生徒が通常の学級で学ぶ時間を週の半分以内にとどめるよう求めた点も危惧し、通知の撤回を要請した。
国連の報告書を受け、永岡桂子文科相は9月、「特別支援教育を中止することは考えていない」と述べ、国連の要請に対して慎重な考えを示した。撤回を求められた通知についても、「通知はインクルーシブ教育を推進するもので、(国連に)撤回を求められたのは遺憾」と述べ、撤回しない方針を強調していた。
こうした国の方針を踏まえ、「準備会」が文科省に提出した要請書は、国連がまとめた報告書の内容を「真摯に受け止め」、国連の指摘に沿った「インクルーシブ教育に関する教育政策の見直しと法改正を着実に実施」するよう要求。その上で、「特別支援教育の中止は考えていない」などとした永岡文科相の発言の撤回を求めた。
障害のある当事者「そんな怖いこと、考えるだけでも嫌」
一方、要請書を受け取った文科省側は、永岡文科相の発言を撤回せず、従来通りの対応を続ける方針を強調した。
担当者は「勧告を全部無視するつもりは全くない」とした上で、「大事なのは(特別支援学校や特別支援学級などの)学ぶ場を廃止することではなく、選べる環境を作っていくこと。どの場を選んでも障害のある人とない人が一緒の場で学べる機会を増やし、インクルーシブな教育をつくっていきたいと考えている」と述べた。
文科省側の回答を受け、要請書の提出団体は記者会見を開いた。
生後数週間で脳性まひになったという男性は文科省が撤回を否定した通知について「通知の通りに対応するなら、私は確実に(多くの時間を)特別支援学級(で過ごす)か、通常の学級でなんの支援も受けられない(ままで過ごすしかない)。そんな怖いこと、考えるだけでも嫌」と話した。
通知を巡っては、大阪府に住む障害児の保護者らが10月、内容が「人権侵害」だとして、大阪弁護士会に人権救済を申し立てた。
保護者らは申し立て書で、文科省に通知の撤回を求めるとともに、自治体の教育委員会に対しても、文科省通知に基づく方針を撤回することなどを要請している。