性暴力被害を公表したジャーナリストの伊藤詩織さんが、自身を誹謗中傷するTwitter上の複数の投稿に「いいね」を押され名誉を傷つけられたとして、自民党の杉田水脈・衆院議員に220万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京高裁(石井浩裁判長)は10月20日、杉田議員に55万円の支払いを命じた。
一審の東京地裁判決は、「『いいね』を押す行為は、原則として社会通念上許される限度を超える違法な行為と評価することはできない」などとして、伊藤さん側の請求を棄却していた。
裁判では、誹謗中傷ツイートに対する「いいね」が名誉を傷つけるとして、法的責任を問えるかが争点となっていた。
訴状などによると、杉田議員は2018年6〜7月、性暴力被害を訴えている伊藤さんに対する、Twitter上の匿名アカウントによる「枕営業の失敗」「自分の望みが叶わないと相手をレイプ魔呼ばわりした卑怯者」「カネをつかまされた工作員」といった計25件の中傷の書き込みに「いいね」を押した。
伊藤さん側は、「中傷に(「いいね」を押して)好感を宣明したことは、それを目の当たりにした原告に対する、社会通念上許される限度を超えた名誉感情侵害行為に当たる」と主張。当時11万人のフォロワーがいた杉田議員について、「言動の影響力は絶大」だと訴えていた。
一方、杉田議員側は「いいね」を押す行為は「ブックマーク機能として行ったもので、誹謗中傷の意図もない」などと反論。請求棄却を求めていた。
一審判決では、Twitterの「いいね」ボタンは好意的・肯定的な感情を示すものとして用いられることが多い一方で、ブックマークなどの目的で使われることもあると指摘。
その上で「いいね」自体からは感情の対象や程度を特定できず、「非常に抽象的、多義的な表現行為にとどまるもの」だと判断した。「いいね」を押した杉田議員の行為は違法ではないと結論づけた。
伊藤さん側は一審判決について、「『いいね』がなされた経緯や文脈に入り込まず、原則として違法ではないと結論づける判断は明らかに誤り」などとして控訴していた。
高裁の判決理由は?
判決では、対象ツイートの内容は、「さしたる根拠もなく控訴人(伊藤さん)が性被害を受けたとの事実を否定した上で、控訴人らを揶揄、中傷し、あるいは人格を貶めようとして侮辱するものであるから、控訴人らの名誉感情を侵害するものと認められる」と指摘。これらに「いいね」を押して賛意を示すことは、同様に名誉感情を侵害するものだとした。
「いいね」の回数が計25回に上ったことや、杉田議員が「いいね」以外にも伊藤さんに対して揶揄や批判などを繰り返していたことに触れ、「単なる故意にとどまらず、控訴人の名誉感情を害する意図をもって(「いいね」の)押下行為を行ったものと認められる」と判断した。
さらに、杉田議員が当時11万人のフォロワーがいたことや、国会議員であることから、「その発言には一般人とは容易に比較し得ない影響力がある」として、「いいね」を押した行為が「名誉感情を違法に侵害するもの」だと認定。「控訴人の精神的苦痛は軽視し得ないものというべき」だと結論づけた。
【UPDATE】2022年10月20日14:43
高裁の判決理由を追記しました。