鎌倉市議会は9月12日、安倍晋三元首相の国葬開催の撤回を求める意見書を、賛成多数で可決した。市議会事務局によると、意見書は岸田文雄首相と衆参両院議長宛てに13日付で郵送するという。
安倍元首相の国葬は27日に執り行われる予定。政府は国葬にかかる全体の費用の概算を16億6000万円程度と説明し、全額が国費負担となる。
このほか、国葬の閣議決定の撤回や中止を求める署名が40万筆以上集まっており、全国各地で反対のデモも行われている。
「国家が一方的な評価を国民に強いることに」
岸田首相は、国葬を行う法的根拠として「内閣府設置法」を挙げ、閣議決定によって国葬の実施を決定できる、と説明してきた。
これに対し、鎌倉市議会の意見書では、同法の規定について「内閣が元首相の葬儀を『国葬』という新しい『儀式類型を創出してよい』という規定ではないとする見解が一般的」と主張。「『国葬』に明確な法的根拠がない以上、安倍晋三元首相の『国葬』 を行うのであれば、国会で議論が尽くされるべきです」と指摘した。
国葬を実施する理由として、岸田首相はこれまで「憲政史上最長の8年8か月にわたり重責を担ったこと」「震災復興、日本経済の再生や日米関係を基軸とした外交など大きな実績をあげたこと」などを挙げていた。
意見書では、国葬を国費で行うことは「安倍元首相に対する政府による『評価』を、広く一般国民にも同調を求めることに等しく、国家が一方的な評価、価値観を国民に強いることになります」と批判した。安倍元首相への評価は、国民が自らの意思で判断すべきだとして、国葬の実施は「国民の自由な判断を封じることにつながりかねません」と強調した。
メディア各社の世論調査の結果を踏まえ、「国民を二分するような『国葬』を行うべきではありません」とし、国葬実施の撤回を求めた。
安倍元首相の国葬実施を巡っては、神奈川県葉山町議会も反対の意見書を可決している。
【意見書全文】
鎌倉市議会の意見書全文は以下の通り。
<安倍晋三元首相の「国葬」実施の撤回を求める意見書>
政府は7月22日、参議院選での街頭演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の「国葬」を9月27日に日本武道館で行うことを閣議決定しました。
そもそも、「国葬」は、1926年、明治憲法下において、天皇の勅令として「国葬令」が公布されたことにより行われたものですが、その中身は、 天皇、皇太后らの大喪儀や皇太子らの喪儀のほかに、国家に偉勲ある者 の死に際して、天皇の特旨によって、「国葬」が定められ、国民に喪に服することを命じていました。しかし戦後、現憲法が施行された1947年の 12月31日をもって「国葬令」は失効しており、現在、国葬に関する法律の規定はありません。
しかし、岸田首相は、「国葬」を行う法的根拠として、内閣府の所掌事務について定めている「内閣府設置法」第4条第3項第33号、「国の儀式 並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること」の規定に基づいて、閣議決定を行えば「国葬」を国の儀式として実施することができると説明しています。しかし、内閣府の所掌事務である「国の儀式」 に「国葬」が予定されているとは考えられておらず、第4条第3項第33 号は、皇室典範第25条で決められている「大喪の礼」などの儀式を内閣府が執行する規定であって、内閣が元首相の葬儀を「国葬」という新しい「儀式類型を創出してよい」という規定ではないとする見解が一般的です。「国葬」に明確な法的根拠がない以上、安倍晋三元首相の「国葬」 を行うのであれば、国会で議論が尽くされるべきです。
また、岸田首相は安倍元首相の葬儀を「国葬」とする理由として、「歴代最長の期間、総理大臣の重責を担い、内政・外交で大きな実績を残した」などとしていますが、政府が安倍元首相について、その業績を一方的に高く評価したたえる儀式として「国葬」を国費で行うことは、安倍元首相に対する政府による「評価」を、広く一般国民にも同調を求めることに等しく、国家が一方的な評価、価値観を国民に強いることになります。安倍元首相への評価は、主権者である国民一人一人が自らの意思で判断すべきことです。「国葬」を行うことは、国民の自由な判断を封じることにつながりかねません。
現在、NHKをはじめとする各局、各紙の世論調査では、「国葬反対」 の声が賛成を上回っており、日に日に反対の声が高まっています。国民を二分するような「国葬」を行うべきではありません。
以上の理由により、安倍晋三元首相の「国葬」実施の撤回を強く求めます。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
令和4年(2022年)9月12日 鎌倉市議会
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