「子どもがいなかったら、起業していなかったなと思います」
MEME代表取締役の齋藤舞さん(30)は現在、6歳の長男と4歳の長女を持つ母親でもある。
起業したのは、2児を出産し、子育てをする上で直面した“お金”への不安がきっかけだった。“金融教育アプリ”に込めた思いを聞いた。
お金のこと「みんながこんなに漠然と不安を抱えていていいの?」
「子育て中の方が悩んでいることは、家計管理や教育資金、老後の資金といった将来への漠然とした不安感だと思います。私もそうでしたが、そのために節約や貯金を身を削る思いで頑張っている方が多い。特に女性で、“お金”を理由にやりたいことを諦めるなど、子どもや家族のために自分を犠牲にしている人が多いと感じていました」
齋藤さん自身も、子どもを産んだことで“お金”への意識が変わったという。起業する前は、商社で働いていた齋藤さん。出産するまで、子どもにどのくらいお金がかかるか想像できなかった。
産休・育休を取得したが、手当や給付金はもらえるもののそれまでの給料よりも金額は少ない。オムツ代、ミルク代、仕事復帰後には保育園にかかる費用など、子ども1人でも月5万円ほどはかかった。
「子どもが1人増えるだけでこんなにお金かかるんだと思いましたし、お金に余裕がないと、心にも余裕がなくなって…。この少ない金額でどういうふうに暮らしていこう、と思うようになりました」
2人目の子が生まれた時は、育休は取得せずに復帰した。「もう1人増えると家計が…という状況で、『もう育休を取っている場合じゃない』と」
その後、副業として「子育て世代向けの金融教育セミナー」の企画・運営に携わった。そこで出会ったのは、同じように家計管理や将来のお金の不安を抱える親たちだったという。
「私だけじゃないんだという安心感と同時に、みんながこんなに漠然と不安を抱えていていいのか?と疑問に思いました。一方で、大人になればこうしたセミナーのように自分で学ぼうとすれば学べる環境はある。でも、『子どもの頃から教えてくれる環境がなかった』ということに気づきました」
子どものうちから“お金”について意識し、家計管理を習慣化する環境が大切だーー。「これからの子どもたちには、少しでもお金に触れてもらって、学べる環境を提供していく必要がある」。そう考え、親子でお金を管理できるアプリ「manimo」の開発につながった。
子どもにデビットカードを発行、親子で管理
「manimo」は、子どもにデビットカードを発行し、その管理をアプリ上で親子で行うことができる仕組み。子どもは自分のお小遣いの範囲内で決済ができ、親はお手伝いなどの対価として「お小遣い」をアプリ上で送金できる。「欲しいものリスト」も作成でき、自分の目標のために予算を決めて貯金する機能もあり、支出入の明細は自動でアプリ上に記録される。
「manimo」経由でデビットカードが発行できるのは現在、満10歳以上から。利用上限も設定できる。
「アプリを使うことで、お小遣いをあげた金額も時期も自動で記録されます。記録する負担がないので『習慣化』につながりやすく、可視化されることで『何に使ったか』『この使い方が正解なのか』というコミュニケーションを親子で増やしていけば、子どもと一緒に“お金”に向き合うことができます」
MEMEでは、デビットカードを使ってATMで現金を引き出すこともできるという。親子のお金のやりとりはアプリ上で行い、子どもには現金を使わせることもできるが、齋藤さんはデジタル化を見据え、デビットカードでお金を管理する意義についてこう話す。
「キャッシュレス化のメリット、デメリットを伝えるために現金に慣れておく必要はあります。ただ、子どもたちは将来、キャッシュレス決済を利用することになるので、早い段階から“数字”でお金を管理する感覚やお金の価値を身につける必要もあると思っています」
アプリの主眼は子どもに金銭感覚を身につけさせ、家計管理を学ばせる“金融教育”だが、齋藤さんは「子どもを通じて親も一緒に学んでいけるのでは」と期待を寄せる。
「子どもに『こうなってほしい』という思いが生まれたときに初めて親が自分自身を見つめ直すことってたくさんあると思います。子どもにお金について学んでほしいと思った時に、親も一つ一つ学んでいくことで、親の金融リテラシーも向上していくと思います」
日本とアメリカの金融教育の違い
齋藤さんが、アプリを通じて金融リテラシーの向上に取り組む背景にあるのは、日本の金融教育への課題感だ。
中学でインターナショナルスクールに通い、アメリカの大学の日本校で経営学を学んだ。国際的な教育を受け、海外在住の友人も多い。アメリカでは、公教育に金融教育を取り入れているかどうかは州によるものの、『家庭内で教える』という文化があるという。
「アメリカでは、3世代で資産を形成していくというお金の考え方があり、当然親が子どもに教えていかなきゃいけないという意識があります。そうした意識から、(金融教育が)受け継がれているところが日本との違いではないかなと思っています」
金融教育につながる「manimo」のようなアプリや投資をシミュレーションできるようなツールも日本よりも豊富にあり、子どもが自分で学ぶ際の選択肢の数も大きく違うという。だからこそ、自ら作った。
「子どもがいなかったら、起業していなかったと思います。自分の子どもだけではなく、日本の子どもたちは宝です。子どもたちに明るい未来を残したい、自分に何かできるものはないかと感じたのが、起業の一番のきっかけです」
「女性起業家」は日本でもまだまだ多いとは言えず、経済分野における女性リーダーの少なさが指摘されている。
「女性は家庭にいないといけないという価値観には、子どもの頃から納得できませんでした。昔は母親は家庭を支えることが役割だったかもしれませんが、今は違う。自分が母親になって働く中で、父親と母親の違いってないなと思っています」
漫画で「お金」を学べる無料サイトも
「manimo」は現在、連携する金融機関で口座を開設すると期間限定で無料で使うことができるが、海外の同種のアプリと同様に、月額数百円程度の有料化を検討している。一方で、「お金」や経済のしくみについて親子で学べるよう、漫画で学べるコンテンツや専門家によるコラムなどを集めた無料サイトの準備も進めている。
「主には子ども向けのサイトですが、親子で読んでもらって、子どもとコミュニケーションを取りながらお金について考えるきっかけきっかけになればなと思っています」
齋藤舞(さいとう・まい)
1992年生まれ。テンプル大学国際経営学部に在学中にインターンにて商社へ入社後、そのまま大学を休学し就職。貿易業務、プロダクトマネージャー、海外新規事業のプロジェクトに従事。海外事業部の責任者の経験を経て、2019年にコンサルティング会社を設立。2021年3月に株式会社MEMEを創業し、2022年に一般社団法人「日本金融教育推進協会」理事に就任。
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