江戸時代の人たちは花火をどう楽しんでいたのか、打ち上げ花火の始まりとはーー。
江戸時代の花火について描いたイラストがTwitterで話題を呼んでいます。イラストを見た人たちからは、「犠牲者供養のために打ち上げが始まったとは驚きです」「かぎやとたまやって花火屋の名前だったんですね!知らなかった」などのコメントが寄せられています。
■江戸の花火
イラストを投稿したのは編集者・イラストレーターで「江戸時代のちいさな話」シリーズを隔週日曜日に投稿している笹井さゆり(@chiyochiyo_syr)さん(投稿日は変動する場合があります)。7月31日に「毎年、両国橋に多くの人が集まりました」とコメントをつけて投稿しました。
イラストでは、東京の隅田川にかかる両国橋の上で花火を楽しむ人々の姿を描き、打ち上げ花火が江戸時代中期に飢饉や疫病の犠牲者供養のために始まったことなどを紹介。
また、花火でよく聞くかけ声「たまや」と「かぎや」について、名前の由来や、かけ声は“応援“のためだったことなどについても解説しています。
■好きな江戸時代を、好きな方法で
ハフポスト日本版では、このイラストを投稿した笹井さゆりさんに取材をしました。以下は一問一答です。
ーーなぜ今回江戸時代の「花火」についてイラストで紹介しようと思ったのでしょうか?
きっかけは、江戸時代の浮世絵です。
何年か前、たまたま目にしたのが「花火」を描いた浮世絵でした。
橋の上を、ひとすじの花火がすうっと伸びて、弧を描いて落ちていく様子を捉えた絵でした。
もう、目を奪われてしまって。花火を描いているのに、華やかな雰囲気はあまり感じず、どこか寂しげなんです。
驚きもありました。「江戸時代にも打ち上げ花火、あったんだ!」と。
調べてみると、それはあの歌川広重が描いたもので、名所江戸百景の「両国花火」という作品であることがわかりました。
それから、花火のこと、両国という場所のこと、色々と下調べを重ねました。
そのうちに、昨年からSNSで江戸時代のシリーズを発信するようになり…
夏になったら描くぞ描くぞとあたためて、今に至っています。
ーー今回のイラストや文章を書く上で工夫した点は何でしょうか?
「たまや」「かぎや」の掛け声の由来は、多くの方にとって「知ってみたら面白い」知識だと思いましたので、しっかり取り上げました。
実は、イラストについては少し悔いが残っているんです。
花火を見て楽しんでいる人々の顔。頭上の花火の光を受けた人々の顔の陰影は、もっとコントラストがはっきりしているはず。
江戸時代は特に夜は真っ暗でしたから、花火はとてつもなく明るく見えていたと思うんです。そこをもっと強調できればよかったなと。
ーー当時の詳細や事実関係を調べる上で、気を付けていることや苦労したことはありますか?
必ず複数の文献を読みこんで、解説文はぎりぎりまで推敲しています。参考元も明記するようにしています。
見てくださる方も増えている以上、適当な情報を出すわけにはいかない、という気持ちで描いています。
ーーそもそもなぜ江戸時代の話をイラストで紹介しようと思ったのでしょうか?
江戸時代が好きだからです。
好き!楽しい!という気持ちをおすそわけしたくて、紹介を始めました。
ただ、もともと詳しかったわけではないんです。時代劇もあまり見たことがなくて…。
ですが、浮世絵や落語、食(鮨、そば、天ぷら!)など、江戸時代に生まれたカルチャーは大好きでした。
漫画家で文筆家の杉浦日向子さんが描く、江戸がテーマの作品群にも夢中になって。
かつ、自分自身でも、この先どんなイラストを描きたいか、描けるかと考えたときに、
「日常風景を切り取ったような絵」「情報をわかりやすく整理した雑学的な絵」のふたつだと。
好きな江戸時代を、好きな方法で描けたら…と考えた結果、このシリーズが生まれました。
今はもう、楽しくてやめられません。「描きたいもの、やっと見つけた!」という気持ちです。
ーーこれまでのシリーズの中で印象に残っているものはありますか?
今回のテーマと関連しますが、両国橋の由来を取り上げた回です。
江戸時代の庶民文化を語る上で両国はとても重要な場所なんです。
具体的な地名を取り上げるとお勉強っぽくなってしまう場合もあるため、
当時はどう描くか悩んだ記憶があります。
ですが、どうしても描きたくて。読者の方からもよい反応をいただき、描いてよかったです。
ーー今回のイラストには「犠牲者供養のために打ち上げが始まったとは驚きです」「かぎやとたまやって花火屋の名前だったんですね!知らなかった」などのコメントが寄せられていますが、どのように感じていらっしゃいますか?
「私も同じことに驚きましたよ~!」と思いながら拝見しています。心の中で握手しています。
ーーイラストを通じて読者に感じてもらいたいことや、読者に向けて何かメッセージがありましたらぜひお願いしたいです。
江戸時代はふしぎです。共感できて身近で、今の自分と地続きかと思えば、まったく理解できない、対岸の存在だと思うことも。
日々の片隅でふしぎな世界のことをぼんやり思う時間は、とにもかくにも楽しいです。一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!
【参考】
「鍵屋の歴史|宗家花火鍵屋」
http://www.souke-kagiya.co.jp/1_history/history.html