映画界の性暴力・ハラスメント問題、大手映画会社4社はどう向き合うのか? 見解と対策を聞いた【2022年 上半期回顧】

数々の証言から、泣き寝入りを強いられてきた実態が浮かび上がっている。業界を牽引する東宝、東映、松竹、KADOKAWAの4社は、どう受け止め、対策を講じているのか。【2022年 上半期回顧】
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Yuki Takada/ハフポスト日本版

2022年上半期にハフポスト日本版で反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:6月29日

映画監督やプロデューサー、先輩俳優などから、性行為を強要されたーー。

映画業界で、地位や関係性を利用され性暴力を受けたとする女性の証言が相次いでいる。その一例として、ワークショップやオーディションなどで、キャスティング(映画等への出演)を条件に性行為を迫るものなどがある。

厳しい上下関係で成り立ち、かつ狭い映画業界で、個人で声を上げても黙殺されるのではないか、仕事がなくなるのではないかーー。パワーバランスで弱い立場に置かれた人たちからはそうした不安を訴える声も多く上がり、泣き寝入りを強いられてきた実態が浮かび上がっている。

相次ぐ告発を受け、映画監督や原作者である作家などからも性暴力に反対する声明が発表され、業界内外から改善を求める声があがっている。また、フリーランスに支えられる映画制作の労働環境をめぐってはこれまでも、過酷かつ不当な労働条件や低収入、あるいは多くの制作現場で契約書・発注書が発行されていない問題などが指摘されてきた。こうした構造がハラスメントを起こりやすくしている面もある。

業界全体の問題として議論が進む中で、多くの雇用を創出する大手の映画製作配給会社は、相次ぐハラスメントや性被害の訴えについて、どう受け止め、対策を講じているのか。 

ハフポスト日本版では、業界を牽引する日本映画製作者連盟(映連)に加盟する、大手映画製作配給会社=東宝、東映、松竹、KADOKAWAの4社を取材した。

 

ハラスメントや性被害の訴え。4社の見解と対策は

4社に対し、文書で下記の点を尋ねた。

(1)ハラスメントや性被害の訴えが相次いでいることへの見解

(2)映画監督や、原作者の作家などからも声明が発表されていることへの見解

(3)ハラスメントや性加害を防止するために、現在の取り組み及び検討段階にある取り組み

(4)映画業界に従事する人がハラスメントや暴力の被害に遭うことなく安心して働くことができるために、映画製作配給会社としてどのような取り組みができると考えるか

東宝と東映は、上記4項目の質問に対し一括で回答し、(1)と(2)への具体的な言及はなかった。

KADOKAWAも全ての質問に一括で回答し、(1)と(2)に関しては「とても遺憾なことだと感じております。当社グループはいかなるハラスメント行為を許容いたしません」とコメント。

松竹は、(1)には「多くの人々が関わる映画づくりにおいて、ハラスメントや性加害は、決してあってはならないことです。映画の製作・配給を担う弊社としても、これ以上、被害を受ける方、傷つく人が生まれないよう、ハラスメントの生じない環境の整備が重要であると考えており、ハラスメントを根絶する具体的な施策等に取組み、社会全般からハラスメントを根絶する一助になればと考えています」、(2)には「弊社としても重く受け止めており、賛意を表するとともに、この問題に対してより真摯に向き合っていきたいと考えております」などと回答した。

ハラスメントや性加害を防止するための取り組みについて尋ねた(3)と(4)については、4社から以下の回答があった。(いずれも一部抜粋)

東宝「研修や講習を通じて社員へのハラスメント防止の周知と意識啓発を行い、また社内規程の制定やそれに基づく社内体制を整えるなどのハラスメントの防止に努めております」

東映「外部の研修を導入し、すべての従業員および制作スタッフに受講してもらい、ハラスメント防止に努めております」

KADOKAWA「防止対策としては、プライバシーが守られ、匿名で相談することのできる相談窓口のほか、コンプライアンス違反などに関する通報を適切に処理するKADOKAWAグループ共通の通報窓口として、コンプライアンスホットラインを設置しております」

松竹「ハラスメントに関する講習の実施(映画制作プロセス以外でのハラスメントも含む)。▽松竹㈱、㈱松竹撮影所含む松竹グループ全従業員を対象としたハラスメントに関する講習、▽映像製作部門を含む各部門のプロデューサー職ならびに準する従業員向けに特化した、ハラスメントに関する講習」

加えて、4社が共通して、ハラスメント等の防止策の検討段階にあるとして回答したのが、経済産業省と連携し、映連や職能団体などが進めている「映画制作現場の適正化」の取り組みだ。 

映画業界の労働環境の改善などを目的とした「映像制作適正化機関(仮名)」の設立を目指しており、制作現場における就業時間の規定や、契約書・発注書の発行、相談窓口の設置などを盛り込んだガイドラインの策定に向け検討を進めているという。 

 

「映画制作現場の適正化」とは? ガイドライン策定を目指す

▼「映画制作現場の適正化」とは2021年4月公表の経産省の資料より

既存の各種法令において適法であることを前提に、映画製作者(製作委員会)と制作会社、フリーランスが対等な関係を構築し、公正かつ透明な取引の実現が図られること。特に映画の作り手であるフリーランスが、独立した事業者として、能力・ネットワークなどの専門性を生かし、安全・安心して映画制作に集中して働ける環境が作られること。

経産省によると、「映画制作現場の適正化」に向けた取り組みは、「日本の映画作りの持続性の確保」を目的とし、フリーランスを含む現場スタッフの取引・就業環境の向上を目指している。

「映画制作現場の適正化」は、映連や日映協(※1)、映職連(※2)などの業界団体が経産省と連携し進めてきた。2019年からクリエイターや企業に対しアンケートを実施し、その回答をもとに、ガイドライン策定などを検討。アンケートでは、労働条件において「収入が低い」「勤務時間が長すぎる」「この業界の将来性に不安がある」などの回答が多く寄せられ、フリーランスの取引・就業環境をめぐる様々な課題が浮き彫りになった。

※1:日映協=日本映画製作者協会。日本映画の独立系プロダクションの事業協同組合。※2:映職連=日本映像職能連合。監督、撮影、編集など各パートごとの職能団体が集まった連合体

日本の映画作りは「製作委員会」方式が主流だ。製作委員会とは、映画製作会社やテレビ局、広告代理店、出版社など、コンテンツを流通させる能力のある事業者によって構成され、作品の制作から配給、プロモーションに至るまで、共同で出資を行う。

この製作委員会に加盟する映画製作会社が、元請けとなる制作会社に仕事を委託する。現場の実権はこの制作会社に移り、さらにそこから、下請けの制作会社やフリーランスのクリエイター、技術スタッフ、あるいは美術会社や車輌会社に仕事が発注されるーーという仕組みになっている。

「映画制作現場の適正化」では、製作委員会・制作会社・フリーランスが3者間で対等な関係を築くため、労働時間やハラスメント、契約内容、予算などにおいて10項目(表1、2)をガイドラインとして定める検討案があがっている。

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(表1)制作委員会ー制作会社間のガイドライン検討案
経産省の資料をもとにハフポスト日本版が作成
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(表2)制作会社ーフリーランス間のガイドライン検討案
経産省の資料をもとにハフポスト日本版が作成

経産省によると、現在は映画会社4社が手がける作品において「実証実験」と称し、上記のガイドライン検討案に則り、映画制作が行われているという。実証実験を通じてガイドラインを精査し、現場の実態に即した運用を目指していると、担当者は話す。

では、実際に撮影現場で働く人々は、この適正化に向けた取り組みをどう感じているのだろうか。

映画界のジェンダーギャップや労働環境の改善に取り組む一般社団法人「Japanese Film Project」(以下、JFP)では、映画制作の実態を把握するため、現場で働いたことがある人を対象に、「映像制作現場適正化に関するアンケート調査」を実施した(回答受付は6月30日に終了。JFPによると、今後集計、抽出分析のうえ、秋頃に調査結果を公表するという)。

アンケートの途中結果からは、適正化に向けた取り組みが、現場で働く人たちには十分に知れ渡っていない実態が浮かび上がっている。

JFPは、「映画業界の課題解決のためには、現場の人の声が必要」との考えのもと、制作現場の適正化に「透明性を持って取り組んでほしい」と訴える。さらに、ハラスメントや性加害の問題を改善するためには、「利害関係のない第三者機関の相談窓口の設置」が重要だと指摘する。

ハフポスト日本版は、JFPのメンバーである映像作家の歌川達人さんと、元助監督で現在は現場スタッフのマネージャー業務等を行う近藤香南子さんにインタビューを実施。後編では、2人への取材をもとに、映画業界における性暴力やハラスメントを根絶するために業界に求められることについて考える。