自民党の国会議員が参加する会合で、「同性愛は精神障害、または依存症」といった、性的マイノリティに対する差別的で誤りのある内容の冊子が配布されていた問題を受け、LGBTQ当事者らでつくる「LGBT差別冊子の対応を求める有志」が7月25日、自民党に対して内容を明確に否定するよう求める5万1503人分の署名を提出した。
問題となっているのは宗教法人「神社本庁」を母体とする政治団体「神道政治連盟」や自民党の国会議員による「神道政治連盟国会議員懇談会」の6月の会合で配られた冊子。
同日、「LGBTをめぐる宗教と政治」と題して東京都内で開かれた記者会見で、署名の呼びかけ人である松岡宗嗣さんは「神道政治連盟などと自民党保守派との強いつながりによって、ジェンダー平等や性的マイノリティの権利が阻害され続けている」と訴えた。
◆冊子には何が書かれていた?
署名のきっかけとなった冊子は、ライターでもある松岡さんが6月に報じたことで明らかになった。
・同性愛は心の中の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症
・同性愛は、回復治療やカウンセリングなどの手段を通じて抜け出すことができる
・LGBTの自殺率が高いのは、社会の差別が原因ではない。LGBTは自分自身がさまざまな面で葛藤を持っていることが多く、それが悩みとなり自殺に繋がることが考えられる
といった内容が書かれていた。
◆署名の内容、その他の動きは?
世界保健機関(WHO)はこれまでに、同性愛を精神疾患から、性同一性障害を精神障害からそれぞれ除外している。
冊子に対し「事実に基づいていない」「性的マイノリティの自殺率が高いのは、この冊子をはじめ、社会に根深い差別や偏見が残っているからだ」といった指摘が上がった。
松岡さんは7月、署名サイト『change.org』で、
・冊子に書かれている内容を明確に否定し、差別をなくす姿勢を示すこと
・誤った認識に基づく差別的な考えを広めないため、冊子を回収すること
を求める署名を呼びかけた。
約3週間で5万1503人から集まった署名は7月25日、自民党総裁の岸田文雄首相と、神道政治連盟国会議員懇談会事務局長の城内実衆院議員宛に送られた。
このほかにも、7月4日に都内の自民党本部前で『Stand for LGBTQ+ Life』と題した抗議活動が行われたほか、7日には市民団体が自民党に冊子の内容の否定を求める要望書を提出。
「LGBT法連合会」も声明を発表し、「こうした言説自体が人権侵害であるのみならず、極めて非科学的な事実誤認」と抗議した。
◆どう影響を与えてきたのか、追及が必要
この日は、「LGBTをめぐる宗教と政治」と題して会見が開かれた。
松岡さんは「神道政治連盟など宗教右派と自⺠党保守派の議員がつながって、ジェンダー平等や性的マイノリティに関する権利保障に反対し続けている。その動きは非常に根深く、法整備を妨げる高い壁になっている」などと主張したうえで、こうしたことが広く知られるべきだと指摘した。
「宗教と政治」をめぐる問題はかねてより指摘されていたが、安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、逮捕された容疑者が「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)に対して「恨みがあった」などと供述したことから、注目が集まるようになった。
松岡さんは今回の冊子の内容について、「同性愛の原因は親子関係にあり、擁護すれば同性愛者が増える、家庭と社会が崩壊すると書かれていますが、悪質な差別言説であり言語道断です」と改めて批判。
また今回の問題は、差別的な内容だけではなく「議員連盟として、首相をはじめ政府の閣僚が多数メンバーとなっている、政権与党の自⺠党議員の大多数が参加する会合で冊子を配ったという点で、今までとは一線を画す大きな事件であると捉えています」と指摘した。
ジェンダーを巡る政治などに詳しいモンタナ州立大の山口智美准教授は、「パートナーシップ制度の広がりやLGBT理解増進法などの法整備に対し、右派によるLGBTバッシングは拡大しています。具体的にどう社会に影響を与えてきたのか、追及が必要だと思います」と訴えた。
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>