「人として興味を持ってもらえるモデルでありたい。そうすれば、何か発信した時に関心を持ってもらえる」
21歳でモデルデビューを果たした後、これまで250誌を超えるファッション誌の表紙を飾ってきた梨花さんは、そう語る。
38歳で長男を出産、ハワイに拠点を移した後も、日本とハワイを行き来しながらモデルとして活動を続けてきた。
モデルとして、母として、何より一人の女性として、都度「ありたい自分」と向き合い、選択を重ねてきた梨花さん。
49歳を迎えた2022年、7年ぶりとなる書籍『わたしのユリイカ』『 “What I’m doing 私がしていること73こ”』を2冊同時に刊行。新たな節目となる今、話を聞いた。
「服を着ていなくてもモデル」というあり方
雑誌の市場自体が縮小するなか、梨花さんのように約30年もの間にわたってファッション誌の「顔」であり続けられるモデルはそういない。タレントとして、さらには自身が手がけるアパレルブランドのディレクターとしてマルチに活躍した時期を経て、カバーモデルにこだわってきた理由はどこにあったのだろう。
「それは私が何でも似合うモデルじゃないから。身長もさほど高くないし、どんな服でもきれいに着こなせるタイプでもない。でも私自身、20歳で仕事を始めたときから『何でも着こなせるモデル』になりたいわけではなかったんですよね。
『梨花の着た服が売れたよ』という反応をいただくのはもちろんすごく嬉しい。そうした評価を得ることがモデルとしてのキャリアを築く上で大切だということもわかっていたので、そこに没頭した時期もありました。
ただ、そこで終わるのではなく、もっと人としての中身に興味を持ってもらえるモデルでありたい気持ちが最初からずっとあった。
だからこそ、何かを発信した時に関心を持ってもらえる。極端な話、服を着ていなくてもモデルである。私にとってはそれがカバーモデルであり続けることなんです」
外見の魅力だけでなく、人間性も含めて求められる存在。それが梨花さんにとってのカバーモデルの意義なのだろう。
「自分の人生に懸命に向き合う姿勢も含めて興味を持ってもらえるモデルでありたい。そのための努力やトレーニングを継続できる意識を持ち続けられることがカバーモデルだと私は思っています。
だから、たくさん服を着て、たくさん撮影するような仕事のやり方は今はもうしていません。出し惜しみをしているとかではなく、カバーモデルの仕事を続けていくことを前提としてのエネルギーの使い方や配分を調整していくと、どうしてもそうなってしまう」
「早く50歳になりたい」は嘘だけど
モデルという職業においては、年齢もその人を表すパーツとして見られる。梨花さんは49歳を迎えたが、年齢を重ねることについてどんな思いを持っているのだろう。
「年齢はたんなる数字、早く50歳になりたい…なんてキレイごと言ったら絶対嘘でしょう(笑)。でも最近、歳を重ねることについて、ちょうど考える機会があったんです。
若い子たちとの会話で『英語では歳をとることを“get old”と表現するんだけど、どう思う?』と聞いたら『“old”を“get”するなんてイヤです』ってみんな言う。
でもよく考えたら、1年分の時間をgetすることって、人生の経験値を得ているという意味でもある。年齢はたんなる数字じゃない。つらさや楽しさ、経験の重みがのった、いろんな365日の時間であって、私たちは毎年それをgetしている。年齢を重ねるって、人生を得ていることなんだ、と気づいたんです」
「ありたい私」のために、できること
歳をとることは、人生を得ること。確かにそんな風に視点を変えると、見える風景がぐっと広がる。
これまでも「ありたい自分」と向き合い、選択を重ねてきた梨花さん。その背景にはどんな思いがあり、どんな風に自分の心を守ってきたのだろう。
「目標と答えは絶対に自分の中に持っておく、というスタンスを昔からずっと意識しています。
私はもともと自己肯定感が低いタイプで、そんな私が自信を持とうと思ったら、大きな目標じゃまず無理なんです。
例えば、20代の頃は『毎日、腕立て伏せを3回ずつやる』と紙に書いて壁に貼っていました。すっごくハードルが低いでしょ(笑)。でも毎日だとそれすらできない日もあったりする。それでも続けていくと小さな結果がちょっとずつ積み重なって形になって、気づいたときにはちゃんと自信になるんです。
自信が持てるようになると、人間って『別人なの?』っていうくらい変わることができるんですよ。人間が唯一使える魔法って、自信じゃないかな。それくらいすごいこと。
だから、私は目標は小さめに、自分で決めることが大事だと思っています。
同じように、自分の人生には何が大切で、逆に何は必要ないかという『答え』を自分の中に持っておくことも大事。そうすることで、自分ではない誰かや世間に心が振り回されなくなりますから。
しかも、それはずっと変わらない絶対の答えじゃなくて、『とりあえずの今の答え』でいいんですよ。 それがあるだけでもぜんぜん心の軽さが違ってくるから。
昔、恋人と別れた翌日に撮影で海外に行かなきゃいけなくて、つらくてワンワン泣いていたんですよ。そのときのスタイリストさんが『今は、いったん別れただけだよ』と慰めてくれて、その言葉に『ありがとう~』ってさらに号泣して(笑)。
でも『今はいったんこうなんだ』って思えた瞬間、ふっと悲しみがほぐれてラクになった。実際、そのときに別れた彼は今の夫なんです。その後に復縁して結婚することになったので、本当にその通りになっちゃいましたね」
みんな完璧じゃないからこそ、それぞれを尊重する
小さな目標達成を繰り返し、自信につなげて、自らの道を切り拓いてきた梨花さん。現在はシェフである夫とともに10歳の息子を育てる母親でもある。
著書『わたしのユリイカ』には、夫婦喧嘩をしていたら「ママが完璧ではないように、パパも完璧ではないんだよ」と息子に言われてハッとしたなど、家族の印象的なエピソードが綴られる。
子育て、家族の存在は梨花さんに何をもたらしたのか。
「あの言葉を息子に言われたときは本当にそうだな、と思いましたね。
『完璧な母親を目指さなきゃ』と思うから苦しいんですよね。そもそも『完璧な母親像』だって、時代が変われば変わっていくものなのに。自分が思い込んでいる常識や定義は、もうとうに変わっているかもしれない。そこに気づけたら、もっとラクになれる気がします。
夫婦関係においても、私にとって大切な価値観があるように、相手にもあるということを心に留めておく。
息子が10歳になった最近は、子離れのタイミングが近づいてきているように感じています。彼には彼の人生がある。
だからこそ私もここからは、自分の中にある『今の答え』を大切にしながら、自分のしたいことも思い切り挑戦していく。そうすることで、子育てのステージを変えてバランスをとっていけたらと思います」