女性の方が金融リテラシーが「低い」のはなぜ?専門家が語る4つの理由

3年に1度の「金融リテラシー調査」では、今回も全年代で女性の方が男性よりも金融リテラシーが低いという結果に。一体なぜ…?背景と解消の鍵を、専門家に聞きました。

 

「金融リテラシー調査」は、個人の持つお金に関する知識や判断力の現状を把握することを目的に3年に1度行われる。前回、前々回に続き、10代から70代まで全ての年代で男性より女性の金融リテラシーが低い結果となった。女性の方が金融リテラシーが「低い」のはなぜなのか?

背景には、①家庭教育、②男女の経済格差、③「女性は数学が苦手」という思い込み、④自己評価の低さーーの4つがあるという。

金融リテラシーのジェンダーギャップについて研究する上智大学の丸山桂教授(総合人間科学部社会福祉学科)に聞いた。

金融リテラシー調査とは?

調査は、金融広報中央委員会(事務局・日本銀行)が2022年2月~3月、18~79歳の男女3万人を対象にオンラインで行った。「金融知識・判断力」や「行動特性・ 考え方」などを問う設問で構成されている。

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2022年の金融リテラシー調査の結果
Huffpost Japan

 全ての分野で女性の方が男性よりも結果が劣っているわけではなく、「家計管理」や「生活設計」では女性の平均正答率が男性を上回った。

一方、「金融・経済の基礎」「保険」「ローン・クレジット」「資産形成」では女性の正答率は男性よりも低かった。

家庭内の扱いの違いが金融知識の差に

こうした背景について、丸山さんは「家庭教育」の影響を指摘する。

お金に関する考え方や知識を子ども自身に尋ねた「子どものくらしとお金に関するデータ」(金融広報中央委員会)を分析したところ、小学校1・2年生の時点で「親とお金の話をしたことがある」と答えた割合は男子の方が女子より多かった。親との会話経験があると、金融知識の正答率も高くなるという。

「小学生のころから男の子と女の子にはお金の付き合い方に差があることがわかっています。男子の方が、年齢が低いころから親とお金の話をしたり、自分用の銀行預金口座を作ってもらったりしており、こうした家庭内の扱いの違いが金融知識の差につながっています」

そもそも男女の“経済格差“が背景に

結果を項目別に見ると、もっとも正答率に差があったのは「金融・経済の基礎」で、男性56.8%に対し、女性は42.0%だった。また、「資産形成」でも、女性は男性より約8ポイント下回った。

背景には、賃金や雇用形態など、男女の経済格差が影響していると考えられる。

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男女の平均年収の差(2020年民間給与実態統計調査より)
Huffpost Japan

 丸山さんは「男女でとれるリスクに違いがあり、経験に差があることが影響している」と話す。

「投資をすれば当然失敗することもある。女性の平均賃金は男性より低く、経済力がないと、投資の元手はなけなしの生活費、あるいは夫が稼いできたお金になることも多い。その場合、失敗ができないと考える女性は多いだろう。日本では妻が財布のひもを握っているとよく言われるが、高額な買い物をするときは妻だけで判断が出来ないケースも多い。ジェンダーによる家庭内勢力の違いが金融リテラシーの差を生み出している可能性がある」

「女性は数学が苦手」という思い込みも影響している

また、調査では計算問題における女性の正答率の低さも目立つ。「100 万円を年率 2%の利息がつく預金口座に預けた場合、1年後の口座残高はいくらになるか」という問題では、男性の正答率74.1%に対し、女性は62.0%で、18歳~29歳の女性では47.3%だった。

「女性は数学が苦手」という思い込み(アンコンシャスバイアス)が、教師や保護者、メディアなどを通じて中高生の進路選択に影響を与えているという調査もある。

丸山さんは「『女性は数学が苦手』という思い込みが実際の結果に影響を及ぼしてしまう『ステレオタイプ脅威』の影響が考えられる」と指摘する。

自信のなさの表れ?「分からない」と答える女性が多い

もう1点、丸山さんが注目するのは、選択肢の中の「分からない」という回答を選ぶ女性が多いことだ。「正誤問題なのだから、あてずっぽうでも選んでおけば正解になるかもしれない。それなのに『分からない』を選ぶ女性が多いことが、結果的に正答率を引き下げている」と指摘する。

答えに自信がないときにあえて「分からない」を選ぶのは、様々な国際的な調査から見ても女性の方が多いという。「自信のなさ」は自己評価にも表れており、自身の金融リテラシーに対する認識を尋ねた調査でも、女性は実際の正答率よりさらに自己評価が低く、男性は実際よりも自己評価が高いという結果も出ているという。

ちなみに、男女を問わず、誤答よりも「分からない」を選択した人の方が、「おつりをもらった時に確認しない」「衝動買いをしてしまう」など、不適切な金融行動を取る傾向が強いことも分かっている。

格差解消のための3つのポイントとは?

丸山さんによると、金融リテラシーとジェンダーギャップについて国内で注目され始めたのはここ数年のこと。実態や要因についてはまだ分かっていないことも多く、さらなるリサーチが求められる。

それでも、これまでの調査や研究から、格差を解消するために重要なポイントが少しずつ分かってきた。

一つ目は、公教育の重要性だ。この4月から高校における金融教育が拡充され、資産形成についての学習も始まった。家庭内で男女に対する金融教育に差がないことが理想だが、学校という公の場でジェンダーに関係なく知識を身につけられる環境を整えることで、将来の格差が小さくなることが期待できる。

二つ目は、「女性は数学が苦手」という思い込みを打破すること。海外の研究では論理的思考力が高いほど金融リテラシーも高くなることが指摘されており、ステレオタイプによって醸成された苦手意識を解消することは、リテラシー格差の解消手段の一つになる。

一般的に、女性は男性より長生きだ。その分、一生で必要になるお金も多くなる可能性がある。高齢女性の貧困化は、現役時代の給与や受け取る年金が男性に比べて少ないことが原因として挙げられるが、今後女性がより社会進出をして、男性と変わらない賃金を稼げるようになっても、「お金との付き合い方が下手なままでは、真に経済的自立を果たすのは難しい」と丸山さんは言う。

「例えば、起業しようと思っても不適切な金融機関からお金を借りたり、老後のお金を蓄えようと思っても自分に合っていない金融商品を選んでしまったりするかもしれない。女性の金融リテラシーを向上させることが、男女の経済格差の縮小にもつながります」

最後に、男女の金融リテラシー格差を解消するためには、家庭に、学校に、そして社会にジェンダーバイアスが存在することを忘れてはならない。「女の子だからできない」「男の子だからこっちが得意なはずだ」などという考え方を、保護者や教師をはじめとする大人から改めることが必要になる。

 

7月のハフライブのテーマは「大人の金融教育」。経済を自分の言葉で話せるようになるために必要なことを、ゲストと一緒に考えます。
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<番組概要>

番組は無料です。時間になったら自動的に番組が始まります。
配信日時:7月19日(火)夜9時~配信(60分)
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