野党が候補者を一本化せずに戦う選挙区が多い、 2022年の参議院議員選挙(7月10日投開票)。
一般的には、1つの選挙区に野党候補が複数立てば政権への批判票を取り合うことになり、与党候補を利するとされる。
それでもこの状態になったのは、2021年衆院選での「野党共闘」の苦い経験が背景にあるからだ。立憲民主党や日本共産党などが候補者一本化を進めたが、結果的に立民は議席を減らし、選挙後には共産と距離を置いた。
その共産は今回の選挙で、立民と競合する選挙区にも候補を立てている。日本維新の会や国民民主党も独自の候補を擁立している。
野党共闘の記憶が「野党をより弱くした」。
そう指摘するのは、有権者の政治意識や投票行動に詳しい中京大学の松谷満准教授(政治社会学)だ。だが松谷准教授は、前回の野党共闘を単純に「失敗」だったとは捉えていない。
ハフポスト日本版は松谷准教授に、野党共闘をどのように評価をしているのか、野党にはどういった可能性が残されているのかを尋ねた。
ーー2021年秋の衆院選での野党共闘を、どう評価していますか。
自民党が強すぎる、野党が弱すぎる。そんな下馬評の中、野党は衆院選で初めて「4党共闘」(立民・共産・社民・れいわ)に乗り出しました。候補者の一本化を進め、悲願の政権交代を目指したのです。
ですが、4党の獲得議席は予想を下回りました。立民は公示前と比べて、14議席も減らしました。一方で、自民が維持、維新が躍進。野党共闘は「惨敗」と捉えられてきました。立民は枝野幸男前代表が敗北の責任をとって代表を辞任しました。
ただ、野党共闘「敗北」と見なすのは、議席数だけを見た表面的な評価です。
獲得票数で言うと、各党への支持の指標として捉えられる比例では、野党4党と国民を合わせた票は、自民よりも多かったのです。この実績は、従来の「自民の支持が絶大で、野党の支持者は少ない」という一般的なイメージとは異なります。
ーー野党共闘は「失敗ではなかった」ということですか。
野党は弱い。支持されていない。共闘すると支持がなくなるーー。そんなメッセージが発せられることがあります。共産党との連携を敗因だと見なす説もあります。
ただ、ナショナリズムとネオリベラリズムという共通の支持要因があり、さらに政治不信の強い人々をも取り込んでいる維新などの「ポピュリスト政党」を除いた「野党ブロック」の票数は、この20年で、希望の党に振り回された2017年(衆院選)以外は毎回、自民を上回っています。
2021年の衆院選で躍進した維新は、希望の党の支持者が流れて議席増に繋がったにすぎず、ポピュリスト政党全体としての得票は伸びていません。ポピュリスト政党の得票は2012年をピークに減少し、2021年衆院選では与党や野党ブロックよりも少なくなりました。「ポピュリストが伸び、野党ブロックは弱くなっている」というわけではないのです。
野党ブロックは、自民に拮抗した得票を前向きに受け止め、「次こそ」と堂々と総括できたはずなのに、選挙後は自信なさげにフラフラしてしまいました。この姿勢こそが、「失敗」だったと言えるでしょう。
共闘して良かったのか悪かったのか、野党は自己評価しきれていません。
そんな中で迎えた今回の参院選では、立民は共産とも国民とも手を取り合えず、野党ブロックは前回の選挙戦よりも弱くなってしまいました。
ーー今後、野党が「逆転」する道筋はあるのでしょうか。
2021年の衆院選の結果をもとに、各政党の獲得票数を足し合わせるなどして、野党が与党に勝てるパターンがあるかどうかを調べました。
その結果、共産や国民を含む野党で共闘した上で、現在は維新が集めている「ポピュリスト政党」の支持者の票も何らかの形で取り込めれば、自民・公明党を100万票上回ると分かりました。
ただ、今回の参院選では、この方向には進んでいません。
今後、野党がこうした道筋を作ることができれば、悲願の逆転が見えてくるでしょう。
ーー維新や国民に投票した有権者は、その道筋を支持するでしょうか。
方法はあると思います。
私や他の研究者らは、2021年の衆院選の直後に世論調査を行いました。全国の8640人を対象にした郵送調査で政治についての考え方などを尋ね、3081人の回答を得ました。
調査結果によると、同性婚や選択的夫婦別姓など結婚や家族にかかわる争点については、自民の支持層とそれ以外の人々の間で、意見の違いが明確でした。共闘により、こうした政策は臆さず推し進められるでしょう。
一方で、原発、米軍基地、経済、外交・安保政策といった分野では、立民と維新に投票した人々の間には、考えの違いがありました。国民の支持層は、原発や基地問題では自民に寄った意見を持っていると分かりました。
野党各党の支持層の中で意見の分かれる争点は、埋められない溝ではありません。民主党時代のように、分裂を招きかねない問題は「国民とともに議論する」として話し合いを前提にする。そうすれば、壁を乗り越えられる可能性があります。
ーー「国民とともに議論する」とは、どういうことですか。
現在、有権者はあらかじめ「政治エリート」が決めた答えの中から選択するだけが当たり前となっていて、権威主義的な「お任せ民主主義」を甘受しています。
みんなで考えよう。みんなで決めよう。有権者がそんな風に思うようになれば、政局は変わるのではないでしょうか。
◆松谷 満(まつたに・みつる)さん
1974年生まれ。中京大学現代社会学部准教授。専攻は政治社会学、社会意識論。
「野党共闘をめぐる分析と考察」で、2021年の衆院選の結果をもとに、野党が与党に勝てるパターンがあるかどうかを調べた。
新刊『ポピュリズムの政治社会学:有権者の支持と投票行動』(東京大学出版会、2022年8月)では、有権者への意識調査の実証データをもとに、日本のポピュリスト政治家たちが支持される理由を明らかにする。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉