「消費税を下げると年金3割カット」って本当?専門家に聞いた【参院選2022】

自民党の茂木敏充幹事長のNHK日曜討論や街頭演説での発言に対し、SNS上では「消費税が下がると年金が3割カットされるの?」「自民党の脅しだ」などの声が上がっています。これって本当?ファクトチェックしてみました。
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自民党の茂木敏充幹事長(2022年6月20日撮影)
時事通信社

「消費税を下げるとなると年金財源3割カットしなければならない」ーー。

自民党の茂木敏充幹事長がこう発言したのは、6月26日のNHK日曜討論での場面だった。

食品やエネルギー関連などの価格が上がり、生活を直撃する物価高が続き、消費税の減税や廃止を訴える野党もあるなか、茂木氏は「皆さんからお預かりしている消費税、これは年金、介護、医療、そして子育て支援、社会保障の大切な財源でして、これをですね、野党の皆さんがおっしゃるように下げるとなりますと、年金財源3割カットしなければなりません」と語った。 

この発言がSNS上で広まると、「消費税が下がると年金が3割カットされるの?」「(消費税を下げさせない)自民党の脅しだ」などの声が上がった。

茂木氏は、放送翌日の6月27日の水戸市での街頭演説でもこの話題について触れた。

「選挙が近づくと、野党の皆さん、必ず消費税を下げます、そういうことを年中行事のように言い出すわけであります」

「ただ、消費税、皆さんからお預かりしてる大切な消費税、これは年金、医療、介護、子育て支援、この社会保障の大切な財源なんですよ。もし野党の言ったような形にするとですね、年金も3割削らなきゃいけない。その財源を。そんなことができますか?非現実的なんですよ」 

「年金3割カット」ではなく「年金財源3割カット」

茂木氏の発言からは、消費税を下げた場合に起きると主張しているのは、「年金『給付額』の3割カット」ではなく、「年金『財源』の3割カット」だということがわかる。

つまり、SNSなどで散見される「消費税が下がると年金(給付額)が3割カットされる」との言説は誤りだ。 

「年金財源3割カット」ではなく「社会保障財源3割カット」?

だが、茂木氏は後に発言を修正している。

朝日新聞デジタルによると、6月28日の沖縄県北谷町での街頭演説では「皆さんから預かっている大事な消費税は年金、医療、介護、子育て支援、社会保障の財源だ。もし野党が言ったようにすると、この社会保障財源を3割カットしなければならない」と発言したという。

共同通信によると、28日夜のBSフジ番組でも「社会保障の重要な財源だ。11兆円の穴があく」などと語ったという。

「年金財源の3割カット」ではなく、「社会保障財源3割カット」が本意だったのだろうか。では、消費税を下げたら「社会保障財源3割カット」は正しいのだろうか。

「3割」の根拠は?

まず、「3割」の根拠について考えてみる。

6月26日のNHK日曜討論での茂木氏の発言は、立憲民主党の西村智奈美幹事長の発言への反論だった。立憲民主党は今回の参院選で、「消費税は時限的に5%に減税する」との公約を掲げている

茂木氏の「消費税を下げる」との発言が、「5%への減税」を指すと仮定してみると、2022年度当初予算(国の一般会計)の税収見積もり65兆2350億円のうち、消費税収は33%にあたる21兆5730億円で、現在の10%から5%に減税されれば、単純計算で10兆7865億円となる。

一方、一般歳出の社会保障関係費を見てみると、36兆2735億円で、これの「3割」にあたるのは、10兆8820億円でほぼ同じ額だ。

また、2022年度の一般会計から国民年金への繰入は1兆9113億9800万円、同じく2022年度の一般会計から厚生年金への繰入は10兆2467億9700万円で、合計すると12兆1581億9500万円となる。老後にもらえる「基礎年金」の財源の国庫負担は、消費税を5%に下げた場合の10兆7865億円を上回っている。

これが、「消費税を下げるとなると年金財源3割カットしなければならない」の根拠なのだろうか。専門家に聞いた。

東北大大学院・吉田浩教授「法律で決まっているわけではない」

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東北大大学院経済学研究科の吉田浩教授
吉田浩教授提供

加齢経済や財政学に詳しい、東北大大学院経済学研究科の吉田浩教授は「消費税が下がると『年金の財源が(自動的に)3割カットされる』と法律で決まっているわけではありません」と指摘する。

その上で、茂木氏が「消費税を下げるとなると年金財源3割カットしなければならない」と発言した背景について、こう解説する。

「消費税率を8%から10%に引き上げたときに、『引き上げた分は社会保障に使われます』と説明し、引き上げを国民に受け入れやすくした経緯があります」 

財務省によれば、「消費税率引上げによる増収分を含む消費税収(国・地方、消費税率1%分の地方消費税収を除く)は、全て社会保障財源に充てる」とされている。

吉田教授は、「この反映として、ここ数年の間に子育て、教育、介護関係の社会保障が一定程度充実してきたことが挙げられます。ですから、消費税を引き下げれば社会保障に回されている財源がそれだけ不足するという話につながってきたと考えられます」と話す。

「有権者としては、財源なしに政府の支出を増やすことができないように、支出の見直しなしに減税もできない、ということとして受け止めることが大切です」と指摘する。 

ただ、「もらえる年金が3割カットされる」とも受け取られかねない発言について、こうもつけ加えた。

「国民年金法・厚生年金法では、年金水準は現役世代の一人当たりの平均手取り額の50%を確保するということになっているので、消費税と連動していきなり『3割カット』というのは、むしろこちらとの整合性という意味でやや説明不足の感があったかもしれません」